8 / 40
8、伯爵と茶葉
応接室に連れて行かれると、伯爵はカバンから青い缶を取り出した。私は缶を受け取った。金色の文字が入った、きれいな缶だ。
「外国産の高級茶葉だ。これで、お茶を淹れろ」
「はい……」
「挽回する機会を与えようと思ってな。上手に淹れられたら、その茶葉をお前にやろう」
「あれは、あの二人がやったんです」
「ほお」(はっきり言ったな。令嬢は余計なことは言わないものだが、はっきり言うほうが分かりやすいな)「お前のカップも用意しろ」
「はい」
私は缶を持って廊下に出た。なんか癪だが、まあいい機会だ。高級茶葉ももらえるし頑張ろう。私は休憩室でお茶を用意した。今度こそポットを死守せねば。私はトレーにティーセットを乗せて、慎重に歩いた。
廊下にマリエッタとジュリエットが隠れてピニオンが来るのを待っていた。
「もうすぐ来るわ」
「フフフ」
二人は悪い笑みを浮かべた。
「お前たち何をしている」
『え?』
振り返ると、カイゼルが立っていた。
「あ、え~と」
その横をピニオンが通りかかる。
マリエッタたちと伯爵だ。また、何か話してるな。私は通り過ぎた。
「あなたたち、またさぼって。先生が探していましたよ!」
あ、なんか注意されてる声が聞こえる。いい気味だわ。
マリエッタとジュリエットはすみませんと言って、修道女の方へ走って行った。カイゼルはため息をついた。
応接室に入ろうとすると、ドアノブに手が伸びた。伯爵がドアを開けてくれた。
「ありがとうございます」
お礼を言うしかないわね。
「伯爵は何であそこにいたんですか」
「ああ、またあの二人がお前に体当たりしようとしていたからな。せっかくの茶葉を台無しにされたくない」
あいつらめ! ライバルじゃないんだから勘弁してよ。悪魔が憑いているとも言えないし……。それより、今は余計なことを考えている場合じゃない。
私は気を引き締めて、お茶の用意をした。伯爵は席に腰掛けて、お茶を飲んだ。
「悪くない」
また、表情が和らいだ。お茶の効果か。この人はお茶で素を見せるんだな。
「その茶葉はやろう」
「ありがとうございます」
やった! ヘミとレニーに淹れてあげよう。きっと喜ぶ。失敗を取り戻せて、気分が良くなった。
「お前も飲め」
「はい」
席に着くと自分の分も淹れて、飲んだ。
「あ~、本当においしい」
「そうだろう」
伯爵は、私に微笑んだ。私にも笑ってくれるんだ。ちょっと心が和んだ。
「孤児院には何の用だったんですか?」
「お菓子を届けに行った。見回りのついでだ」
「そうなんですか」
悪魔祓いの巡回かな。
「お前にもやろう。お茶にはお菓子が付き物だろ」
伯爵はカバンから、クッキーの箱を取り出した。
「これも外国の物だ。王家御用達のクッキーだ」
「え!」
私は受け取ると、きれいな箱をまじまじと眺めた。
「子どもたちはそんなにいいものを食べていたんですね」
「フッ」
伯爵は鼻で笑った。
「ここで問題があるのはお前だけだな」
伯爵はそう言うと、私の右肩のほうを指ではじいた。また憑いていたのか……。
「若い衛兵と楽しそうにしていたな」
「え!?」
マリエッタの奴、変なことを吹き込んだのね!
「トルファには婚約者がいるんですよ。彼は私の先生なんです」
「そうか。お前の動きは、習ったものだった。なぜ、護身術を習っているのだ」
「え!? それは……」
ハンターの件や、ここに残っているからもある。あなたと違って、領主じゃないしとか言えないし。うちの後を継ぐのは、私じゃなくて私の夫になる人だし、私にはなんの立場もない……。
「私、結婚に前向きになれなくて、ここで色んなことを学んでおきたいんです」
「なるほど」(親の再婚のせいか? ……人の家の詮索はよくないな)
伯爵に言っても仕方ないけど、嘘じゃないし当たり障りのないことを言っておいた。私は気になったことを聞いてみた。
「モントルからここまでは遠いですよね。私に憑いている悪魔は、どうにかならないのでしょうか」
モントルからだとうちよりも少し遠いから、気軽に来れる距離じゃない。それだけ悪魔は深刻なんだろうか。
「私は遠出には慣れているし、巡回のついでだから、気にするな。お前に憑いている悪魔は、他所から来ている。その者がお前を忘れない限り、どうにもできないな」
「そうですか……」
誰なんだろう、いったい。考えても仕方ないな……。私は話題を変えた。
「私、これでも友達がいるんですよ。お茶は友達と飲みますね。きっと喜びます」
「ほ~」
「伯爵も知っていると思いますが、修道女のヘミとレニーです」
(平民と友達なのか。まあ、あの評判なら貴族にはいないだろうな)
伯爵は微笑んでお茶を飲んだ。
「俺にも友達はいるぞ」
「え!?」
伯爵は普段は俺なんだ。
「いないとでも思ったのか?」
「あ、そうですね……あははは」
「第二王子のステファンだ。学園で同級生だった」
それは、権力の力では? でも、仲が悪ければ一緒にいないよな。第二王子は性格に問題があると評判だった。伯爵ほど噂がないからそれ以上は分からないけど、似た者同士なんだろう……。そういえば王女様は伯爵のファンだとか言っていたような?
「それなら、伯爵は王女と婚約しないんですか?」
「……私は誰とも婚約しない。公爵家の後を継ぐ必要がないからな。伯爵家はまた、親戚筋が継げばいいだろう」
「そうですか。伯爵は自由な考え方なんですね」
伯爵はちょっと眉をひそめたから、不躾な質問だったな。
(面白いことを言う令嬢だな)
伯爵と別れてから考えたけど、多分こないだのことを気遣ってくれたんだと思う。危うく、次もカップを二つ用意するところだった。
優しいのはレニーの言ったとおりだなと思った。
「外国産の高級茶葉だ。これで、お茶を淹れろ」
「はい……」
「挽回する機会を与えようと思ってな。上手に淹れられたら、その茶葉をお前にやろう」
「あれは、あの二人がやったんです」
「ほお」(はっきり言ったな。令嬢は余計なことは言わないものだが、はっきり言うほうが分かりやすいな)「お前のカップも用意しろ」
「はい」
私は缶を持って廊下に出た。なんか癪だが、まあいい機会だ。高級茶葉ももらえるし頑張ろう。私は休憩室でお茶を用意した。今度こそポットを死守せねば。私はトレーにティーセットを乗せて、慎重に歩いた。
廊下にマリエッタとジュリエットが隠れてピニオンが来るのを待っていた。
「もうすぐ来るわ」
「フフフ」
二人は悪い笑みを浮かべた。
「お前たち何をしている」
『え?』
振り返ると、カイゼルが立っていた。
「あ、え~と」
その横をピニオンが通りかかる。
マリエッタたちと伯爵だ。また、何か話してるな。私は通り過ぎた。
「あなたたち、またさぼって。先生が探していましたよ!」
あ、なんか注意されてる声が聞こえる。いい気味だわ。
マリエッタとジュリエットはすみませんと言って、修道女の方へ走って行った。カイゼルはため息をついた。
応接室に入ろうとすると、ドアノブに手が伸びた。伯爵がドアを開けてくれた。
「ありがとうございます」
お礼を言うしかないわね。
「伯爵は何であそこにいたんですか」
「ああ、またあの二人がお前に体当たりしようとしていたからな。せっかくの茶葉を台無しにされたくない」
あいつらめ! ライバルじゃないんだから勘弁してよ。悪魔が憑いているとも言えないし……。それより、今は余計なことを考えている場合じゃない。
私は気を引き締めて、お茶の用意をした。伯爵は席に腰掛けて、お茶を飲んだ。
「悪くない」
また、表情が和らいだ。お茶の効果か。この人はお茶で素を見せるんだな。
「その茶葉はやろう」
「ありがとうございます」
やった! ヘミとレニーに淹れてあげよう。きっと喜ぶ。失敗を取り戻せて、気分が良くなった。
「お前も飲め」
「はい」
席に着くと自分の分も淹れて、飲んだ。
「あ~、本当においしい」
「そうだろう」
伯爵は、私に微笑んだ。私にも笑ってくれるんだ。ちょっと心が和んだ。
「孤児院には何の用だったんですか?」
「お菓子を届けに行った。見回りのついでだ」
「そうなんですか」
悪魔祓いの巡回かな。
「お前にもやろう。お茶にはお菓子が付き物だろ」
伯爵はカバンから、クッキーの箱を取り出した。
「これも外国の物だ。王家御用達のクッキーだ」
「え!」
私は受け取ると、きれいな箱をまじまじと眺めた。
「子どもたちはそんなにいいものを食べていたんですね」
「フッ」
伯爵は鼻で笑った。
「ここで問題があるのはお前だけだな」
伯爵はそう言うと、私の右肩のほうを指ではじいた。また憑いていたのか……。
「若い衛兵と楽しそうにしていたな」
「え!?」
マリエッタの奴、変なことを吹き込んだのね!
「トルファには婚約者がいるんですよ。彼は私の先生なんです」
「そうか。お前の動きは、習ったものだった。なぜ、護身術を習っているのだ」
「え!? それは……」
ハンターの件や、ここに残っているからもある。あなたと違って、領主じゃないしとか言えないし。うちの後を継ぐのは、私じゃなくて私の夫になる人だし、私にはなんの立場もない……。
「私、結婚に前向きになれなくて、ここで色んなことを学んでおきたいんです」
「なるほど」(親の再婚のせいか? ……人の家の詮索はよくないな)
伯爵に言っても仕方ないけど、嘘じゃないし当たり障りのないことを言っておいた。私は気になったことを聞いてみた。
「モントルからここまでは遠いですよね。私に憑いている悪魔は、どうにかならないのでしょうか」
モントルからだとうちよりも少し遠いから、気軽に来れる距離じゃない。それだけ悪魔は深刻なんだろうか。
「私は遠出には慣れているし、巡回のついでだから、気にするな。お前に憑いている悪魔は、他所から来ている。その者がお前を忘れない限り、どうにもできないな」
「そうですか……」
誰なんだろう、いったい。考えても仕方ないな……。私は話題を変えた。
「私、これでも友達がいるんですよ。お茶は友達と飲みますね。きっと喜びます」
「ほ~」
「伯爵も知っていると思いますが、修道女のヘミとレニーです」
(平民と友達なのか。まあ、あの評判なら貴族にはいないだろうな)
伯爵は微笑んでお茶を飲んだ。
「俺にも友達はいるぞ」
「え!?」
伯爵は普段は俺なんだ。
「いないとでも思ったのか?」
「あ、そうですね……あははは」
「第二王子のステファンだ。学園で同級生だった」
それは、権力の力では? でも、仲が悪ければ一緒にいないよな。第二王子は性格に問題があると評判だった。伯爵ほど噂がないからそれ以上は分からないけど、似た者同士なんだろう……。そういえば王女様は伯爵のファンだとか言っていたような?
「それなら、伯爵は王女と婚約しないんですか?」
「……私は誰とも婚約しない。公爵家の後を継ぐ必要がないからな。伯爵家はまた、親戚筋が継げばいいだろう」
「そうですか。伯爵は自由な考え方なんですね」
伯爵はちょっと眉をひそめたから、不躾な質問だったな。
(面白いことを言う令嬢だな)
伯爵と別れてから考えたけど、多分こないだのことを気遣ってくれたんだと思う。危うく、次もカップを二つ用意するところだった。
優しいのはレニーの言ったとおりだなと思った。
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。
倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。
でも、ヒロイン(転生者)がひどい!
彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉
シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり!
私は私の望むままに生きます!!
本編+番外編3作で、40000文字くらいです。
⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。
お前との婚約は、ここで破棄する!
もちもちほっぺ
恋愛
「公爵令嬢レティシア・フォン・エーデルシュタイン! お前との婚約は、ここで破棄する!」
華やかな舞踏会の中心で、第三王子アレクシス・ローゼンベルクがそう高らかに宣言した。
一瞬の静寂の後、会場がどよめく。
私は心の中でため息をついた。
もう何も奪わせない。私が悪役令嬢になったとしても。
パリパリかぷちーの
恋愛
侯爵令嬢エレノアは、長年の婚約者であった第一王子エドワードから、公衆の面前で突然婚約破棄を言い渡される。エドワードが選んだのは、エレノアが妹のように可愛がっていた隣国の王女リリアンだった。
全てを失い絶望したエレノアは、この婚約破棄によって実家であるヴァルガス侯爵家までもが王家から冷遇され、窮地に立たされたことを知る。
『お前の顔は見飽きた!』内心ガッツポーズで辺境へ
夏乃みのり
恋愛
「リーナ・フォン・アトラス! 貴様との婚約を破棄する!」
華やかな王宮の夜会で、第一王子ジュリアンに突きつけられた非情な宣告。冤罪を被せられ、冷酷な悪役令嬢として追放を言い渡されたリーナだったが、彼女の内心は……「やったーーー! これでやっとトレーニングに専念できるわ!」と歓喜に震えていた!
悪役令嬢は間違えない
スノウ
恋愛
王太子の婚約者候補として横暴に振る舞ってきた公爵令嬢のジゼット。
その行動はだんだんエスカレートしていき、ついには癒しの聖女であるリリーという少女を害したことで王太子から断罪され、公開処刑を言い渡される。
処刑までの牢獄での暮らしは劣悪なもので、ジゼットのプライドはズタズタにされ、彼女は生きる希望を失ってしまう。
処刑当日、ジゼットの従者だったダリルが助けに来てくれたものの、看守に見つかり、脱獄は叶わなかった。
しかし、ジゼットは唯一自分を助けようとしてくれたダリルの行動に涙を流し、彼への感謝を胸に断頭台に上がった。
そして、ジゼットの処刑は執行された……はずだった。
ジゼットが気がつくと、彼女が9歳だった時まで時間が巻き戻っていた。
ジゼットは決意する。
次は絶対に間違えない。
処刑なんかされずに、寿命をまっとうしてみせる。
そして、唯一自分を助けようとしてくれたダリルを大切にする、と。
────────────
毎日20時頃に投稿します。
お気に入り登録をしてくださった方、いいねをくださった方、エールをくださった方、どうもありがとうございます。
とても励みになります。
悪役令嬢として断罪? 残念、全員が私を庇うので処刑されませんでした
ゆっこ
恋愛
豪奢な大広間の中心で、私はただひとり立たされていた。
玉座の上には婚約者である王太子・レオンハルト殿下。その隣には、涙を浮かべながら震えている聖女――いえ、平民出身の婚約者候補、ミリア嬢。
そして取り巻くように並ぶ廷臣や貴族たちの視線は、一斉に私へと向けられていた。
そう、これは断罪劇。
「アリシア・フォン・ヴァレンシュタイン! お前は聖女ミリアを虐げ、幾度も侮辱し、王宮の秩序を乱した。その罪により、婚約破棄を宣告し、さらには……」
殿下が声を張り上げた。
「――処刑とする!」
広間がざわめいた。
けれど私は、ただ静かに微笑んだ。
(あぁ……やっぱり、来たわね。この展開)