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10、悪魔と猫
あの後、休憩室に行くと私は二人分のお茶を淹れて、続きを話した。伯爵は、私が言う美辞麗句に終始ご機嫌だった。
私が一人で休憩室にいると、机に猫が飛び乗ってきた。薄いグレーに濃いグレーの縞模様が入った、毛足の短い、かわいい猫だ。
「わあ、かわいい」
『どうだ、かわいかろう』
猫が話した。私はゾッとした。
「まさか……あんた、猿の腰掛け!」
『サルティーだ!』
何でまた来たんだろう? それより、
「あの後、伯爵におかしなことを話した気がする」
『俺は止めたからな。フンッ!』
猫はそう言うと、毛づくろいを始めた。普通の猫にしか見えない。サルティーも俺って言った。
「なんでまた来たんですか?」
『あいつは、お前のところによく来るからな』
「あ~、それは……」
子デビルが憑いているから。
『お前に付いていれば、あいつを倒すことができそうだ』
「えっ!?」
それはなんか、まずくない?
「倒すって、伯爵を倒した後はどうなるんですか?」
『ふん、そうだな。私の栄養になる』
「うわ……」
伯爵が倒される姿を、全然想像できない……。悪魔対悪魔だからな。休憩室のドアに黒い影が見える。
「また、お前は悪魔と戯れているのか」
伯爵が呆れた顔をして立っていた。伯爵の私に対する信用は地に落ちているので、もう気にしない。サルティーが自慢げに言う。
『どうだ! 今度は猫の姿だ。実にかわいかろう! これで踏みつぶすわけにもいくまい』
伯爵は軽蔑の眼差しを向けると、どこからともなく猫じゃらしを取り出した。それ、普通持ってませんよね。サルティーがギョッとする。
『なぜ、そんなものを持っている……』
「お前の考えることなど、お見通しだ」
伯爵は猫じゃらしを軽く振った。
『やめろ! それを振るな。あっ』
サルティーは猫じゃらしの動きを追いかけ始めた。所詮体は猫で、猫の意識があるようだ。サルティーがじゃれついて遊んでいるところを、伯爵が首根っこを持って連れて行った。どうするつもりかしら? まさか、崖から落とすとか!
伯爵が涼しい顔をして戻ってくる。私は焦った。相手が誰であれ、伯爵ならやりかねない。
「猫はどうしたんですか!?」
「外に出したら、鳥を追いかけて行ってしまったぞ」
「ほっ。良かったです」
私は笑って胸をなでおろした。伯爵は腕を組んで私を見下ろした。
「お前は私のことをなんだと思っている」
「え~っと、優しい伯爵様です」
私の目が泳ぐ。そうだ。
「こないだのお菓子、とってもおいしかったです。友達と他の修道女のみんなと食べました。みなさん喜んでました」
「ほお~」
令嬢たちは、平民とは同席しない。点数を稼いでおこう。家に届くわけでもないけど。
「またもらってもいいですよ」
「……おねだり上手な奴め」
伯爵はまた呆れたが、私の頭にポンと手を置いた。
「また、珍しいものがあれば、持ってこよう」
「何でもいいです。お菓子代が浮きますから」
「現金な奴め」
私は家からの差し入れがないので、自分でお菓子を買っている。行商人が修道院に定期的に来るのだ。
「今日は憑いていないな」
「ああ、サルティーがいると、いなくなるみたいです。下位の悪魔だからかな」
「悪魔のことを学んでいるのか?」
「はい、神学の授業でありますよ」
最初、悪魔は自分のことと関係がありそうだと思ったけど、伯爵が現れてからは、自分に憑いている子デビルのことが気になっていた。
廊下が騒がしい。令嬢たちが数人やってきた。
「伯爵様がいましたわ!」
「私たちとお茶しませんこと?」
伯爵は嫌な顔をした。
「またな」
こっちを向いて無表情にそう告げると、伯爵は令嬢たちと出て行った。振り返った令嬢たちがみんな私を睨んだ。うわっ……、嫌な予感がする。令嬢たちから、あらぬ噂が家に届きそうだ……。
私がモップで廊下を拭いていると、ニャ~と鳴き声がした。あの悪魔憑きの猫が来た。
「良かった。無事だったんだね」
『私は簡単にやられたりしない!』
「あ、そっちじゃなくて、猫のほう」
猫が話したので、まだサルティーが憑いていた。先生も知らないから、直接悪魔の知識を仕入れておこう。
「人間を栄養にするのはどうしてです?」
『ふ~ん、それは、今魔王がいないから、次の魔王を七大悪魔で競っているのだ。より魔力が多い方が勝つ。人の負のエネルギーで魔力が増幅するのだ』
「ということは、サルティーは七大悪魔ということ?」
『そうだ』
誇らしそうに、猫は胸を張った。
「魔王はどんな存在なの?」
『魔王は魔界の王だ。元々魔王という悪魔が存在する。魔王の魔力は桁違いで、人間界でも実体化できる』
「なるほど」
いない間に、王様になろうということか。
「この国が悪くなっているのは、サルティーのおかげなの?」
『はっ! 国が悪くなるのは人間が原因だ。我々は力を貸しているに過ぎない』
そうなの!? 悪魔は関係なかったんだ。私が我儘なのも、やっぱり自分のせいなのか……。
私が一人で休憩室にいると、机に猫が飛び乗ってきた。薄いグレーに濃いグレーの縞模様が入った、毛足の短い、かわいい猫だ。
「わあ、かわいい」
『どうだ、かわいかろう』
猫が話した。私はゾッとした。
「まさか……あんた、猿の腰掛け!」
『サルティーだ!』
何でまた来たんだろう? それより、
「あの後、伯爵におかしなことを話した気がする」
『俺は止めたからな。フンッ!』
猫はそう言うと、毛づくろいを始めた。普通の猫にしか見えない。サルティーも俺って言った。
「なんでまた来たんですか?」
『あいつは、お前のところによく来るからな』
「あ~、それは……」
子デビルが憑いているから。
『お前に付いていれば、あいつを倒すことができそうだ』
「えっ!?」
それはなんか、まずくない?
「倒すって、伯爵を倒した後はどうなるんですか?」
『ふん、そうだな。私の栄養になる』
「うわ……」
伯爵が倒される姿を、全然想像できない……。悪魔対悪魔だからな。休憩室のドアに黒い影が見える。
「また、お前は悪魔と戯れているのか」
伯爵が呆れた顔をして立っていた。伯爵の私に対する信用は地に落ちているので、もう気にしない。サルティーが自慢げに言う。
『どうだ! 今度は猫の姿だ。実にかわいかろう! これで踏みつぶすわけにもいくまい』
伯爵は軽蔑の眼差しを向けると、どこからともなく猫じゃらしを取り出した。それ、普通持ってませんよね。サルティーがギョッとする。
『なぜ、そんなものを持っている……』
「お前の考えることなど、お見通しだ」
伯爵は猫じゃらしを軽く振った。
『やめろ! それを振るな。あっ』
サルティーは猫じゃらしの動きを追いかけ始めた。所詮体は猫で、猫の意識があるようだ。サルティーがじゃれついて遊んでいるところを、伯爵が首根っこを持って連れて行った。どうするつもりかしら? まさか、崖から落とすとか!
伯爵が涼しい顔をして戻ってくる。私は焦った。相手が誰であれ、伯爵ならやりかねない。
「猫はどうしたんですか!?」
「外に出したら、鳥を追いかけて行ってしまったぞ」
「ほっ。良かったです」
私は笑って胸をなでおろした。伯爵は腕を組んで私を見下ろした。
「お前は私のことをなんだと思っている」
「え~っと、優しい伯爵様です」
私の目が泳ぐ。そうだ。
「こないだのお菓子、とってもおいしかったです。友達と他の修道女のみんなと食べました。みなさん喜んでました」
「ほお~」
令嬢たちは、平民とは同席しない。点数を稼いでおこう。家に届くわけでもないけど。
「またもらってもいいですよ」
「……おねだり上手な奴め」
伯爵はまた呆れたが、私の頭にポンと手を置いた。
「また、珍しいものがあれば、持ってこよう」
「何でもいいです。お菓子代が浮きますから」
「現金な奴め」
私は家からの差し入れがないので、自分でお菓子を買っている。行商人が修道院に定期的に来るのだ。
「今日は憑いていないな」
「ああ、サルティーがいると、いなくなるみたいです。下位の悪魔だからかな」
「悪魔のことを学んでいるのか?」
「はい、神学の授業でありますよ」
最初、悪魔は自分のことと関係がありそうだと思ったけど、伯爵が現れてからは、自分に憑いている子デビルのことが気になっていた。
廊下が騒がしい。令嬢たちが数人やってきた。
「伯爵様がいましたわ!」
「私たちとお茶しませんこと?」
伯爵は嫌な顔をした。
「またな」
こっちを向いて無表情にそう告げると、伯爵は令嬢たちと出て行った。振り返った令嬢たちがみんな私を睨んだ。うわっ……、嫌な予感がする。令嬢たちから、あらぬ噂が家に届きそうだ……。
私がモップで廊下を拭いていると、ニャ~と鳴き声がした。あの悪魔憑きの猫が来た。
「良かった。無事だったんだね」
『私は簡単にやられたりしない!』
「あ、そっちじゃなくて、猫のほう」
猫が話したので、まだサルティーが憑いていた。先生も知らないから、直接悪魔の知識を仕入れておこう。
「人間を栄養にするのはどうしてです?」
『ふ~ん、それは、今魔王がいないから、次の魔王を七大悪魔で競っているのだ。より魔力が多い方が勝つ。人の負のエネルギーで魔力が増幅するのだ』
「ということは、サルティーは七大悪魔ということ?」
『そうだ』
誇らしそうに、猫は胸を張った。
「魔王はどんな存在なの?」
『魔王は魔界の王だ。元々魔王という悪魔が存在する。魔王の魔力は桁違いで、人間界でも実体化できる』
「なるほど」
いない間に、王様になろうということか。
「この国が悪くなっているのは、サルティーのおかげなの?」
『はっ! 国が悪くなるのは人間が原因だ。我々は力を貸しているに過ぎない』
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