家族に家から追い出されたので、悪役令嬢を矯正します!

雲乃琳雨

文字の大きさ
10 / 40

10、悪魔と猫

 あの後、休憩室に行くと私は二人分のお茶を淹れて、続きを話した。伯爵は、私が言う美辞麗句に終始ご機嫌だった。


 私が一人で休憩室にいると、机に猫が飛び乗ってきた。薄いグレーに濃いグレーの縞模様が入った、毛足の短い、かわいい猫だ。

「わあ、かわいい」
『どうだ、かわいかろう』

 猫が話した。私はゾッとした。

「まさか……あんた、猿の腰掛け!」
『サルティーだ!』

 何でまた来たんだろう? それより、

「あの後、伯爵におかしなことを話した気がする」
『俺は止めたからな。フンッ!』

 猫はそう言うと、毛づくろいを始めた。普通の猫にしか見えない。サルティーも俺って言った。

「なんでまた来たんですか?」
『あいつは、お前のところによく来るからな』
「あ~、それは……」

 子デビルが憑いているから。

『お前に付いていれば、あいつを倒すことができそうだ』
「えっ!?」

 それはなんか、まずくない?

「倒すって、伯爵を倒した後はどうなるんですか?」
『ふん、そうだな。私の栄養になる』
「うわ……」

 伯爵が倒される姿を、全然想像できない……。悪魔対悪魔だからな。休憩室のドアに黒い影が見える。

「また、お前は悪魔と戯れているのか」

 伯爵が呆れた顔をして立っていた。伯爵の私に対する信用は地に落ちているので、もう気にしない。サルティーが自慢げに言う。

『どうだ! 今度は猫の姿だ。実にかわいかろう! これで踏みつぶすわけにもいくまい』

 伯爵は軽蔑の眼差しを向けると、どこからともなく猫じゃらしを取り出した。それ、普通持ってませんよね。サルティーがギョッとする。

『なぜ、そんなものを持っている……』
「お前の考えることなど、お見通しだ」

 伯爵は猫じゃらしを軽く振った。

『やめろ! それを振るな。あっ』

 サルティーは猫じゃらしの動きを追いかけ始めた。所詮体は猫で、猫の意識があるようだ。サルティーがじゃれついて遊んでいるところを、伯爵が首根っこを持って連れて行った。どうするつもりかしら? まさか、崖から落とすとか!

 伯爵が涼しい顔をして戻ってくる。私は焦った。相手が誰であれ、伯爵ならやりかねない。

「猫はどうしたんですか!?」
「外に出したら、鳥を追いかけて行ってしまったぞ」
「ほっ。良かったです」

 私は笑って胸をなでおろした。伯爵は腕を組んで私を見下ろした。

「お前は私のことをなんだと思っている」
「え~っと、優しい伯爵様です」

 私の目が泳ぐ。そうだ。

「こないだのお菓子、とってもおいしかったです。友達と他の修道女のみんなと食べました。みなさん喜んでました」
「ほお~」

 令嬢たちは、平民とは同席しない。点数を稼いでおこう。家に届くわけでもないけど。

「またもらってもいいですよ」
「……おねだり上手な奴め」

 伯爵はまた呆れたが、私の頭にポンと手を置いた。

「また、珍しいものがあれば、持ってこよう」
「何でもいいです。お菓子代が浮きますから」
「現金な奴め」

 私は家からの差し入れがないので、自分でお菓子を買っている。行商人が修道院に定期的に来るのだ。

「今日は憑いていないな」
「ああ、サルティーがいると、いなくなるみたいです。下位の悪魔だからかな」
「悪魔のことを学んでいるのか?」
「はい、神学の授業でありますよ」

 最初、悪魔は自分のことと関係がありそうだと思ったけど、伯爵が現れてからは、自分に憑いている子デビルのことが気になっていた。
 廊下が騒がしい。令嬢たちが数人やってきた。

「伯爵様がいましたわ!」
「私たちとお茶しませんこと?」

 伯爵は嫌な顔をした。

「またな」

 こっちを向いて無表情にそう告げると、伯爵は令嬢たちと出て行った。振り返った令嬢たちがみんな私を睨んだ。うわっ……、嫌な予感がする。令嬢たちから、あらぬ噂が家に届きそうだ……。


 私がモップで廊下を拭いていると、ニャ~と鳴き声がした。あの悪魔憑きの猫が来た。

「良かった。無事だったんだね」
『私は簡単にやられたりしない!』
「あ、そっちじゃなくて、猫のほう」

 猫が話したので、まだサルティーが憑いていた。先生も知らないから、直接悪魔の知識を仕入れておこう。

「人間を栄養にするのはどうしてです?」
『ふ~ん、それは、今魔王がいないから、次の魔王を七大悪魔で競っているのだ。より魔力が多い方が勝つ。人の負のエネルギーで魔力が増幅するのだ』
「ということは、サルティーは七大悪魔ということ?」
『そうだ』

 誇らしそうに、猫は胸を張った。

「魔王はどんな存在なの?」
『魔王は魔界の王だ。元々魔王という悪魔が存在する。魔王の魔力は桁違いで、人間界でも実体化できる』
「なるほど」

 いない間に、王様になろうということか。

「この国が悪くなっているのは、サルティーのおかげなの?」
『はっ! 国が悪くなるのは人間が原因だ。我々は力を貸しているに過ぎない』

 そうなの!? 悪魔は関係なかったんだ。私が我儘なのも、やっぱり自分のせいなのか……。

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。

倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。 でも、ヒロイン(転生者)がひどい!   彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉ シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり! 私は私の望むままに生きます!! 本編+番外編3作で、40000文字くらいです。 ⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。

お前との婚約は、ここで破棄する!

もちもちほっぺ
恋愛
「公爵令嬢レティシア・フォン・エーデルシュタイン! お前との婚約は、ここで破棄する!」  華やかな舞踏会の中心で、第三王子アレクシス・ローゼンベルクがそう高らかに宣言した。  一瞬の静寂の後、会場がどよめく。  私は心の中でため息をついた。

もう何も奪わせない。私が悪役令嬢になったとしても。

パリパリかぷちーの
恋愛
侯爵令嬢エレノアは、長年の婚約者であった第一王子エドワードから、公衆の面前で突然婚約破棄を言い渡される。エドワードが選んだのは、エレノアが妹のように可愛がっていた隣国の王女リリアンだった。 全てを失い絶望したエレノアは、この婚約破棄によって実家であるヴァルガス侯爵家までもが王家から冷遇され、窮地に立たされたことを知る。

『お前の顔は見飽きた!』内心ガッツポーズで辺境へ

夏乃みのり
恋愛
「リーナ・フォン・アトラス! 貴様との婚約を破棄する!」 華やかな王宮の夜会で、第一王子ジュリアンに突きつけられた非情な宣告。冤罪を被せられ、冷酷な悪役令嬢として追放を言い渡されたリーナだったが、彼女の内心は……「やったーーー! これでやっとトレーニングに専念できるわ!」と歓喜に震えていた!

婚約破棄!ついでに王子をどん底に突き落とす。

鏡おもち
恋愛
公爵令嬢パルメは、王立学院のパーティーで第一王子リュントから公開婚約破棄を突きつけられる。しかし、周囲の同情をよそにパルメは歓喜した。

悪役令嬢は間違えない

スノウ
恋愛
 王太子の婚約者候補として横暴に振る舞ってきた公爵令嬢のジゼット。  その行動はだんだんエスカレートしていき、ついには癒しの聖女であるリリーという少女を害したことで王太子から断罪され、公開処刑を言い渡される。  処刑までの牢獄での暮らしは劣悪なもので、ジゼットのプライドはズタズタにされ、彼女は生きる希望を失ってしまう。  処刑当日、ジゼットの従者だったダリルが助けに来てくれたものの、看守に見つかり、脱獄は叶わなかった。  しかし、ジゼットは唯一自分を助けようとしてくれたダリルの行動に涙を流し、彼への感謝を胸に断頭台に上がった。  そして、ジゼットの処刑は執行された……はずだった。  ジゼットが気がつくと、彼女が9歳だった時まで時間が巻き戻っていた。  ジゼットは決意する。  次は絶対に間違えない。  処刑なんかされずに、寿命をまっとうしてみせる。  そして、唯一自分を助けようとしてくれたダリルを大切にする、と。   ────────────    毎日20時頃に投稿します。  お気に入り登録をしてくださった方、いいねをくださった方、エールをくださった方、どうもありがとうございます。  とても励みになります。  

ハーレムエンドを迎えましたが、ヒロインは誰を選ぶんでしょうね?

榎夜
恋愛
乙女ゲーム『青の貴族達』はハーレムエンドを迎えました。 じゃあ、その後のヒロイン達はどうなるんでしょうね?

悪役令嬢として断罪? 残念、全員が私を庇うので処刑されませんでした

ゆっこ
恋愛
 豪奢な大広間の中心で、私はただひとり立たされていた。  玉座の上には婚約者である王太子・レオンハルト殿下。その隣には、涙を浮かべながら震えている聖女――いえ、平民出身の婚約者候補、ミリア嬢。  そして取り巻くように並ぶ廷臣や貴族たちの視線は、一斉に私へと向けられていた。  そう、これは断罪劇。 「アリシア・フォン・ヴァレンシュタイン! お前は聖女ミリアを虐げ、幾度も侮辱し、王宮の秩序を乱した。その罪により、婚約破棄を宣告し、さらには……」  殿下が声を張り上げた。 「――処刑とする!」  広間がざわめいた。  けれど私は、ただ静かに微笑んだ。 (あぁ……やっぱり、来たわね。この展開)