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13、悪魔と再会
「お前まだいたのか」
久しぶりの第一声がそれかい! ホント失礼な奴!
「お前はいつも悪魔を憑けているから、どんな格好をしても分かるな」
伯爵は私の右肩のほうを指ではじいた。まだ憑いていたんだ。誰か知らないがしつこいな。
「ありがとうございます」
「その姿だと変わったかどうか分からないな」
神官服はゆったりしている。
「伯爵はお変わりありませんね」
相変わらず黒いコートを着ている。多分新調していると思うけど。
「どうしてまだここにいるんだ?」
「知りませんよ。私も知りたいぐらいです」
(令嬢が3年もいるなんて異常だな)「お前はよほど悪いことをしていたのか?」
「私がしたイタズラなんて、令嬢のリボンを引っ張るぐらいのかわいいものですよ」
私はしれっと答えた。伯爵は疑いのまなざしで見下ろしてくる。私は話題を変えた。
「そういえば、まだ悪魔猫がいますよ」
「何だと!? お前は、まだ悪魔と戯れているのか」
伯爵は私に対する意識が低すぎる!
「サルティーの目的は私じゃなくて、伯爵ですよ!」
「そうか。それはすまない。それもあって、来ないようにしていたが……」
どうせ、令嬢たちを避けるためでしょ。
「ここに来すぎていたからな。修道院の邪魔をするわけにはいかない。
お前は悪魔の影響を受けにくいようだし、大丈夫だと思った」
真面目なのか?
「お茶を淹れてくれ」
そう言うと伯爵は出て行った。私はお茶の用意をして、応接室に向かった。
応接室に入ると、伯爵はカバンからお菓子を出した。
「ほら、持ってきたぞ」
いやいや、まだいると思ってたでしょ。私の疑いのまなざしに、
「いたらと思って持ってきただけだ。要らないならいい」
「要ります!」
私はさっと受け取って、テーブルの伯爵の反対側に置いた。お茶を用意するとその場で立った。
「伯爵はどうされていましたか?」
「ん……、いつものように巡回をして、去年は戦争に行っていたな」
「戦争!?」
「南の国境で小競り合いがあって、悪魔がいるかもしれないと思って出向いた」
そういえば新聞で読んだかも。修道院は、令嬢のために首都の新聞と、この地方の新聞の二つを取っている。
南の国境は砂漠で、境が曖昧なため隣国の遊牧民がよく越境してくるのだ。ラースロウ国の警備隊と遊牧民の戦闘があったと書いてあった。
「新聞で読みました」
「遊牧民のリーダーに、七大悪魔のスレインが憑いていた」
『スレインだと!』
ドアが勝手に開いて、悪魔猫が入ってきた。テーブルに飛び乗り、爪を立てた。私は慌てた。
「ここのテーブルは乗ったらダメですよ。傷がつくじゃないですか!」
『こんなものすぐ直せる!』
悪魔猫は手で傷を隠すと、その下が光った。手をどけると傷はきれいに消えていた。魔法すごい! いつも魔力を温存しているのに、意外と律儀だな。私は悪魔猫を見て感心した。
『スレインの奴め! 我が縄張りに入るとは、許せん! あいつは、人間のような姿をしていけすかん奴だ!』
「確かに、水色の髪が長い美形の悪魔だった」
美形の悪魔! 見たいかも……。
『あいつはああ見えて、争い好きで品のない奴だ』
猫はツンと横を向いた。サディストか……やっぱり見たくない。意外とサルティーは上品だよね……。悪魔にも色々いるんだな。
「あら、マークダメでしょ。応接室のテーブルに乗っては」
開いたままのドアから、中年の修道女が入ってきて悪魔猫を連れて行った。猫は黙っていた。あはは。それを見ておかしかった。ドアが閉まった。
伯爵と目があった。
「私のリボンを引っ張ってもいいぞ」
「何、言ってるんですか。そんなことしませんよ!」
男の子にはしてなかったわよ! めずらしくコートを脱いでいると思ったら。コートは壁のハンガーにかけてあった。伯爵はジャケットの下の白いシャツに、細いリボンをしていた。
私はテーブルをさっさと片付け始めた。カシャン! うっかりティースプーンを落としてしまった。しゃがんで拾う。
「すみません……」
片付けが終わると、もらったお菓子をトレーに乗せて出て行った。
(機嫌を損ねたか?)
カイゼルは立とうと思ってふと靴を見ると、靴紐がほどけていた。それを見て苦笑した。
私は廊下でイシシと笑った。
マクレガー子爵邸では、ソルビエがイライラしていた。カーテンを握って外を見ながら考えている。
3年もたつのに、いまだに何も変わらないわ! どうしたものかしら。もう旦那様に期待するのはやめるわ。旦那様がいなければいいのだけど……。そうだわ、いいことを思いついた!
エレの部屋に行く。ここは私が使っている客室と同じだったが、エレは家具を買い替えていた。いまだに私たちが客室住まいなのも変だ。旦那様はどういうつもりなのかしら。そのうち、ピンが戻ってきてしまう。
「どうしたの? お母様」
エレはすっかり令嬢らしくなった。清楚だけど華があって、とても素敵だわ。私の娘とは思えない。けど、旦那様の亡くなった先妻とは、やっぱり似ていないわね。
「いいことを思いついたのよ。旦那様を眠らせることにしたわ」
「えっ? それはどういうこと?」
「薬を盛るのよ。大量に飲ませれば仮死状態になる薬があるの。追加で飲ませれば、日にちを延ばすこともできる。その間にお金を使うのよ」
「そんなことをして大丈夫なの?」
「命には別条はないわ。旦那様があのままだと何も起こらないわ。あなたの結婚相手も見つからないし。
私たち首都に屋敷を持ちましょう。あなたを中央社交界にデビューさせるわ。そうしたら、王子と結婚するのも夢じゃない。第二王子にはまだ婚約者がいないから」
いい考えだわ。こんな地方より、首都の方が楽しいわ、きっと。エレは戸惑いながらも、話に惹かれていた。
「でも私、ダンスが苦手なの」
「令嬢はできないほうがかわいいのよ」
「……薬を盛るのは上手くいくかしら」
「そうね毒物扱いになるから、慎重にしないと……。そうだわ、ピンのせいにすればいいのよ! そうしたらあの子を永遠に始末できる」
「それ、いい考えだわ! いつ戻ってくるのか、ずっと気になっていたの!」(あなたは何もしなかったけど、いるだけで邪魔な存在だった。
自分の運を活かせないなら、私がその運をもらうわ)
「あなたがこの家の、唯一の子供になるのよ」
私はエレをそっと抱きしめた。
私たちはお金を増やすことができないから、旦那様は生かしておいたほうがいい。でもピンは要らないわ。私とエレは二人で笑った。
久しぶりの第一声がそれかい! ホント失礼な奴!
「お前はいつも悪魔を憑けているから、どんな格好をしても分かるな」
伯爵は私の右肩のほうを指ではじいた。まだ憑いていたんだ。誰か知らないがしつこいな。
「ありがとうございます」
「その姿だと変わったかどうか分からないな」
神官服はゆったりしている。
「伯爵はお変わりありませんね」
相変わらず黒いコートを着ている。多分新調していると思うけど。
「どうしてまだここにいるんだ?」
「知りませんよ。私も知りたいぐらいです」
(令嬢が3年もいるなんて異常だな)「お前はよほど悪いことをしていたのか?」
「私がしたイタズラなんて、令嬢のリボンを引っ張るぐらいのかわいいものですよ」
私はしれっと答えた。伯爵は疑いのまなざしで見下ろしてくる。私は話題を変えた。
「そういえば、まだ悪魔猫がいますよ」
「何だと!? お前は、まだ悪魔と戯れているのか」
伯爵は私に対する意識が低すぎる!
「サルティーの目的は私じゃなくて、伯爵ですよ!」
「そうか。それはすまない。それもあって、来ないようにしていたが……」
どうせ、令嬢たちを避けるためでしょ。
「ここに来すぎていたからな。修道院の邪魔をするわけにはいかない。
お前は悪魔の影響を受けにくいようだし、大丈夫だと思った」
真面目なのか?
「お茶を淹れてくれ」
そう言うと伯爵は出て行った。私はお茶の用意をして、応接室に向かった。
応接室に入ると、伯爵はカバンからお菓子を出した。
「ほら、持ってきたぞ」
いやいや、まだいると思ってたでしょ。私の疑いのまなざしに、
「いたらと思って持ってきただけだ。要らないならいい」
「要ります!」
私はさっと受け取って、テーブルの伯爵の反対側に置いた。お茶を用意するとその場で立った。
「伯爵はどうされていましたか?」
「ん……、いつものように巡回をして、去年は戦争に行っていたな」
「戦争!?」
「南の国境で小競り合いがあって、悪魔がいるかもしれないと思って出向いた」
そういえば新聞で読んだかも。修道院は、令嬢のために首都の新聞と、この地方の新聞の二つを取っている。
南の国境は砂漠で、境が曖昧なため隣国の遊牧民がよく越境してくるのだ。ラースロウ国の警備隊と遊牧民の戦闘があったと書いてあった。
「新聞で読みました」
「遊牧民のリーダーに、七大悪魔のスレインが憑いていた」
『スレインだと!』
ドアが勝手に開いて、悪魔猫が入ってきた。テーブルに飛び乗り、爪を立てた。私は慌てた。
「ここのテーブルは乗ったらダメですよ。傷がつくじゃないですか!」
『こんなものすぐ直せる!』
悪魔猫は手で傷を隠すと、その下が光った。手をどけると傷はきれいに消えていた。魔法すごい! いつも魔力を温存しているのに、意外と律儀だな。私は悪魔猫を見て感心した。
『スレインの奴め! 我が縄張りに入るとは、許せん! あいつは、人間のような姿をしていけすかん奴だ!』
「確かに、水色の髪が長い美形の悪魔だった」
美形の悪魔! 見たいかも……。
『あいつはああ見えて、争い好きで品のない奴だ』
猫はツンと横を向いた。サディストか……やっぱり見たくない。意外とサルティーは上品だよね……。悪魔にも色々いるんだな。
「あら、マークダメでしょ。応接室のテーブルに乗っては」
開いたままのドアから、中年の修道女が入ってきて悪魔猫を連れて行った。猫は黙っていた。あはは。それを見ておかしかった。ドアが閉まった。
伯爵と目があった。
「私のリボンを引っ張ってもいいぞ」
「何、言ってるんですか。そんなことしませんよ!」
男の子にはしてなかったわよ! めずらしくコートを脱いでいると思ったら。コートは壁のハンガーにかけてあった。伯爵はジャケットの下の白いシャツに、細いリボンをしていた。
私はテーブルをさっさと片付け始めた。カシャン! うっかりティースプーンを落としてしまった。しゃがんで拾う。
「すみません……」
片付けが終わると、もらったお菓子をトレーに乗せて出て行った。
(機嫌を損ねたか?)
カイゼルは立とうと思ってふと靴を見ると、靴紐がほどけていた。それを見て苦笑した。
私は廊下でイシシと笑った。
マクレガー子爵邸では、ソルビエがイライラしていた。カーテンを握って外を見ながら考えている。
3年もたつのに、いまだに何も変わらないわ! どうしたものかしら。もう旦那様に期待するのはやめるわ。旦那様がいなければいいのだけど……。そうだわ、いいことを思いついた!
エレの部屋に行く。ここは私が使っている客室と同じだったが、エレは家具を買い替えていた。いまだに私たちが客室住まいなのも変だ。旦那様はどういうつもりなのかしら。そのうち、ピンが戻ってきてしまう。
「どうしたの? お母様」
エレはすっかり令嬢らしくなった。清楚だけど華があって、とても素敵だわ。私の娘とは思えない。けど、旦那様の亡くなった先妻とは、やっぱり似ていないわね。
「いいことを思いついたのよ。旦那様を眠らせることにしたわ」
「えっ? それはどういうこと?」
「薬を盛るのよ。大量に飲ませれば仮死状態になる薬があるの。追加で飲ませれば、日にちを延ばすこともできる。その間にお金を使うのよ」
「そんなことをして大丈夫なの?」
「命には別条はないわ。旦那様があのままだと何も起こらないわ。あなたの結婚相手も見つからないし。
私たち首都に屋敷を持ちましょう。あなたを中央社交界にデビューさせるわ。そうしたら、王子と結婚するのも夢じゃない。第二王子にはまだ婚約者がいないから」
いい考えだわ。こんな地方より、首都の方が楽しいわ、きっと。エレは戸惑いながらも、話に惹かれていた。
「でも私、ダンスが苦手なの」
「令嬢はできないほうがかわいいのよ」
「……薬を盛るのは上手くいくかしら」
「そうね毒物扱いになるから、慎重にしないと……。そうだわ、ピンのせいにすればいいのよ! そうしたらあの子を永遠に始末できる」
「それ、いい考えだわ! いつ戻ってくるのか、ずっと気になっていたの!」(あなたは何もしなかったけど、いるだけで邪魔な存在だった。
自分の運を活かせないなら、私がその運をもらうわ)
「あなたがこの家の、唯一の子供になるのよ」
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