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16、伯爵と夜のデート
「伯爵は馬も黒いんですね」
「たまたま、この馬が速かっただけだ」
私は伯爵の馬に乗っていた。伯爵の前に座ってコートの中にいる。馬はゆっくり進んでいた。この方向だとモントルに向かうんだな。辺りは薄暗くなってきた。
「私も乗馬を習うことにしたんですよ」
「お前はじっとしてないな」
「することがなくて、今すごく暇なんです」
「じゃあ、私が教えてやろうか」
「伯爵は忙しいでしょ」
すごい厳しそうだから、遠慮する……。
「社交界に復帰したらどうだ?」
「あ~、私、今死んだことになっているので、面倒です」
「ふ~ん、いい方法があるぞ」
なんかよくない気がする。
「お断りします。今のままでいいです」
「そうか」
私はすっかり気持ちが落ち着いていた。伯爵のコートの中は暖かい。モントルの街に着いた。街灯が街を照らす。魔法石の街灯だ。魔法石は魔鉱石に魔法を付与して加工したものだ。お金持ちだよ、この街は……。
モントルは地方領主たちが屋敷を持っているので、夜も舞踏会で来たことがある。でも馬から見る景色は、馬車の窓越しと違ってなんだか幻想的だ。しかも伯爵と夜来ているなんて、悪い令嬢よね。
あーあ、せっかく挽回したのに、夜遊びをしてしまったわ。でも楽しいからいっか。
「きれいですね」
「そうだな」
店の明かりもあって、広い通りは明るかった。私は街の景色を楽しんだ。
「さて、帰るか」
「はい」
伯爵は馬から降りると、馬に付けていたカバンから、魔法石の灯を取り出して馬の首に下げた。来た道を戻って街を出た。
マクレガー子爵邸は大騒ぎになっていた。ピニオンがいないからではない。スタンリーが執務室の椅子に座ったまま、机に倒れていたからだ。
執務室の隣にある仮眠をとる部屋に運ばれていた。医者が呼ばれて診察している。他にマイクとソルビエ、エレオノーラがいた。
「呼吸が弱く一定です。これは仮死状態になっています。恐らく、ワインにメホタスを盛られたのでしょう」
医者が薬の名前を、横にいたマイクに伝えた。
「なんてことだ」
マイクは悲壮な顔をした。後ろで、ソルビエは微笑んだ。
上手くいったわ。
旦那様を医者に任せて、マイクが使用人たちを玄関ホールに集めた。私とエレもその場に行った。いよいよね。
「旦那様がお倒れになった。誰かがワインに薬を盛った。誰か怪しい者を見なかったか?」
マイクが全員に聞いた。そこへ、メアリーが証言した。
「あの、執務室から、ピニオンお嬢様が出て行くのを見ました」
予定通りね。私が前に出る。
「なんてこと! ピニーを連れてきてちょうだい! それと警備署に連絡を」
「今、メイド長が呼びに行っておりますので、お待ちください」
マイクが私に頭を下げて言った。
ピニオンと伯爵は裏門から屋敷に入った。玄関に行くと、騒がしい声が聞こえ様子がおかしかった。
私を捜している感じでもない? ——もしかして! ことが起こったのかしら……。
私は伯爵と一緒にこっそり裏口から入ることにした。もうすでに夕食の時間だが、調理室には誰もいない。みんなが玄関ホールに集まっているのかしら? そこへワンスが現れた。
「お嬢様!」
ワンスが小声で言うと、急いで近づいてきた。
「どこに行ってたんですか!? 旦那様がワインを飲んで倒れたようで、もう大変なんですよ!」
『!』
私と伯爵は驚いた。とうとう、やったのね……。まさか、お父様が狙われるなんて。でもありえるわね。全ての権限はお父様にあるもの……。メイド長もやって来た。
「こちらの方は?」
「ケニン伯爵よ。一緒に外に出ていたの」
「それはちょうど良かったです。伯爵にも協力してもらいましょう」
メイド長とマイクには前もって言ってある。ワンスは私を急かせた。
「早くこっちです」
「分かったわ」
私は伯爵を置いてワンスについて行った。ワンスの部屋に案内されて、中でメイド服に着替えた。メイド長が中に入ってきて、お父様の容態を私に報告するとまた出て行った。お父様は今のところ命に別状はないらしいが、いつ目が覚めるか分からないとのことだった。ほっとしたけど心配だ……。
髪を結ってもらって、カツラを被る。明るい茶色の髪で、この髪色のメイドは他にもいる。少し長めの髪を左右で緩く結んでもらった。
玄関ホールに先にメイド長が戻った。手を前に合わせて少しお辞儀をして報告する。
「お嬢様がどこにもおりません」
「何ですって!」
ソルビエが思わず声を上げた。エレオノーラとメアリーも驚いた。
(それだと計画が狂うわ。どういうこと!? 逃げたことにする?)
ピニオンはワンスの後ろについて玄関ホールに合流した。反対側の端に伯爵が離れて立った。
ワンスがマイクに目で合図した。横にいる私を見てマイクも小さくうなずく。私は手を前に合わせて下を向いて小さくなっていた。
マイクはメアリーに質問した。
「メアリー、お嬢様は部屋を出て行くときどんな様子でしたか?」
「はい、お嬢様は足早で出て行きました」
「そうですか」
私はあの時、ゆっくり歩いていた。あなたなのね、エビに協力して毒を持ったのは! メアリーは私が修道院に行ってから採用されたメイドだ。手紙に書いてあった。いいわ、あなたから復讐してあげる。私の口の端が上がった。
伯爵が手を上げて発言した。
「私はケニン伯爵だ。私はピニオン令嬢とずっと一緒にいた。令嬢は今、他の場所にいるが、どこにいるかはここでは言えない」
みんなの注目が伯爵に集まる。エビが顔を歪め、エラは伯爵の外面に頬を染めて見とれていた。
(何ですって!? あの、モントルの領主、死神伯爵とピニオンが一緒にいた!? いつの間に知り合ったの……?)
(あれが噂の伯爵様……)
「でも、お嬢様が外出した形跡がありません」
メアリーが戸惑って答えた。マイクも答える。
「私も知りませんでした。他のメイドも知らないので、どうやら内緒で出かけられたようですね」
「待って! 逃げたんじゃなくて?」
エビが焦って言った。やっぱりお前が首謀者か。伯爵は冷徹な目で静かにメアリーを指さした。
「そのメイドを尋問しろ」
みんなが一斉にメアリーを見た。メアリーは青ざめて震えた。マイクが了承する。
「分かりました」
「待ちなさいよ!」
エビが阻止しようとする。
「落ち着いてください。話を聞くだけです。メアリーは私と来てください。衛兵は奥様とエレお嬢様を別室にお連れして、出ないように見張ってください。お二人にもお話をお伺いします」
「何ですって。私はこの家の女主人なのよ!」
「私は旦那様から不測の事態が起こった時の指示を受けています。形式的なものですので、従ってください」
衛兵が二人の脇に着いた。さすがお父様ね。自分がいないとあの二人を抑えられないから、手を打っていたのね。伯爵は二人を見ていた。
(あれが、継母と義理の妹か。母には中デビルが憑いていて、子デビルは娘に憑いている。あの娘がずっとピニオンのことを気にしていたのか……)
「たまたま、この馬が速かっただけだ」
私は伯爵の馬に乗っていた。伯爵の前に座ってコートの中にいる。馬はゆっくり進んでいた。この方向だとモントルに向かうんだな。辺りは薄暗くなってきた。
「私も乗馬を習うことにしたんですよ」
「お前はじっとしてないな」
「することがなくて、今すごく暇なんです」
「じゃあ、私が教えてやろうか」
「伯爵は忙しいでしょ」
すごい厳しそうだから、遠慮する……。
「社交界に復帰したらどうだ?」
「あ~、私、今死んだことになっているので、面倒です」
「ふ~ん、いい方法があるぞ」
なんかよくない気がする。
「お断りします。今のままでいいです」
「そうか」
私はすっかり気持ちが落ち着いていた。伯爵のコートの中は暖かい。モントルの街に着いた。街灯が街を照らす。魔法石の街灯だ。魔法石は魔鉱石に魔法を付与して加工したものだ。お金持ちだよ、この街は……。
モントルは地方領主たちが屋敷を持っているので、夜も舞踏会で来たことがある。でも馬から見る景色は、馬車の窓越しと違ってなんだか幻想的だ。しかも伯爵と夜来ているなんて、悪い令嬢よね。
あーあ、せっかく挽回したのに、夜遊びをしてしまったわ。でも楽しいからいっか。
「きれいですね」
「そうだな」
店の明かりもあって、広い通りは明るかった。私は街の景色を楽しんだ。
「さて、帰るか」
「はい」
伯爵は馬から降りると、馬に付けていたカバンから、魔法石の灯を取り出して馬の首に下げた。来た道を戻って街を出た。
マクレガー子爵邸は大騒ぎになっていた。ピニオンがいないからではない。スタンリーが執務室の椅子に座ったまま、机に倒れていたからだ。
執務室の隣にある仮眠をとる部屋に運ばれていた。医者が呼ばれて診察している。他にマイクとソルビエ、エレオノーラがいた。
「呼吸が弱く一定です。これは仮死状態になっています。恐らく、ワインにメホタスを盛られたのでしょう」
医者が薬の名前を、横にいたマイクに伝えた。
「なんてことだ」
マイクは悲壮な顔をした。後ろで、ソルビエは微笑んだ。
上手くいったわ。
旦那様を医者に任せて、マイクが使用人たちを玄関ホールに集めた。私とエレもその場に行った。いよいよね。
「旦那様がお倒れになった。誰かがワインに薬を盛った。誰か怪しい者を見なかったか?」
マイクが全員に聞いた。そこへ、メアリーが証言した。
「あの、執務室から、ピニオンお嬢様が出て行くのを見ました」
予定通りね。私が前に出る。
「なんてこと! ピニーを連れてきてちょうだい! それと警備署に連絡を」
「今、メイド長が呼びに行っておりますので、お待ちください」
マイクが私に頭を下げて言った。
ピニオンと伯爵は裏門から屋敷に入った。玄関に行くと、騒がしい声が聞こえ様子がおかしかった。
私を捜している感じでもない? ——もしかして! ことが起こったのかしら……。
私は伯爵と一緒にこっそり裏口から入ることにした。もうすでに夕食の時間だが、調理室には誰もいない。みんなが玄関ホールに集まっているのかしら? そこへワンスが現れた。
「お嬢様!」
ワンスが小声で言うと、急いで近づいてきた。
「どこに行ってたんですか!? 旦那様がワインを飲んで倒れたようで、もう大変なんですよ!」
『!』
私と伯爵は驚いた。とうとう、やったのね……。まさか、お父様が狙われるなんて。でもありえるわね。全ての権限はお父様にあるもの……。メイド長もやって来た。
「こちらの方は?」
「ケニン伯爵よ。一緒に外に出ていたの」
「それはちょうど良かったです。伯爵にも協力してもらいましょう」
メイド長とマイクには前もって言ってある。ワンスは私を急かせた。
「早くこっちです」
「分かったわ」
私は伯爵を置いてワンスについて行った。ワンスの部屋に案内されて、中でメイド服に着替えた。メイド長が中に入ってきて、お父様の容態を私に報告するとまた出て行った。お父様は今のところ命に別状はないらしいが、いつ目が覚めるか分からないとのことだった。ほっとしたけど心配だ……。
髪を結ってもらって、カツラを被る。明るい茶色の髪で、この髪色のメイドは他にもいる。少し長めの髪を左右で緩く結んでもらった。
玄関ホールに先にメイド長が戻った。手を前に合わせて少しお辞儀をして報告する。
「お嬢様がどこにもおりません」
「何ですって!」
ソルビエが思わず声を上げた。エレオノーラとメアリーも驚いた。
(それだと計画が狂うわ。どういうこと!? 逃げたことにする?)
ピニオンはワンスの後ろについて玄関ホールに合流した。反対側の端に伯爵が離れて立った。
ワンスがマイクに目で合図した。横にいる私を見てマイクも小さくうなずく。私は手を前に合わせて下を向いて小さくなっていた。
マイクはメアリーに質問した。
「メアリー、お嬢様は部屋を出て行くときどんな様子でしたか?」
「はい、お嬢様は足早で出て行きました」
「そうですか」
私はあの時、ゆっくり歩いていた。あなたなのね、エビに協力して毒を持ったのは! メアリーは私が修道院に行ってから採用されたメイドだ。手紙に書いてあった。いいわ、あなたから復讐してあげる。私の口の端が上がった。
伯爵が手を上げて発言した。
「私はケニン伯爵だ。私はピニオン令嬢とずっと一緒にいた。令嬢は今、他の場所にいるが、どこにいるかはここでは言えない」
みんなの注目が伯爵に集まる。エビが顔を歪め、エラは伯爵の外面に頬を染めて見とれていた。
(何ですって!? あの、モントルの領主、死神伯爵とピニオンが一緒にいた!? いつの間に知り合ったの……?)
(あれが噂の伯爵様……)
「でも、お嬢様が外出した形跡がありません」
メアリーが戸惑って答えた。マイクも答える。
「私も知りませんでした。他のメイドも知らないので、どうやら内緒で出かけられたようですね」
「待って! 逃げたんじゃなくて?」
エビが焦って言った。やっぱりお前が首謀者か。伯爵は冷徹な目で静かにメアリーを指さした。
「そのメイドを尋問しろ」
みんなが一斉にメアリーを見た。メアリーは青ざめて震えた。マイクが了承する。
「分かりました」
「待ちなさいよ!」
エビが阻止しようとする。
「落ち着いてください。話を聞くだけです。メアリーは私と来てください。衛兵は奥様とエレお嬢様を別室にお連れして、出ないように見張ってください。お二人にもお話をお伺いします」
「何ですって。私はこの家の女主人なのよ!」
「私は旦那様から不測の事態が起こった時の指示を受けています。形式的なものですので、従ってください」
衛兵が二人の脇に着いた。さすがお父様ね。自分がいないとあの二人を抑えられないから、手を打っていたのね。伯爵は二人を見ていた。
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