家族に家から追い出されたので、悪役令嬢を矯正します!

雲乃琳雨

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17、突然の契約婚約

 お父様は関係を解消すると言っていた。でもそれは二人ともまだ知らないはずだわ。私がお父様と会う時を知ったので、実行に移したのね。
 マイクは伯爵に挨拶する。

「この家の執事のマイクです。伯爵様には証人として同席をお願いできますでしょうか?」
「……いいだろう。ただし条件がある。話をするから部屋を用意してくれ」
「分かりました」

 マイクは衛兵に、メアリーを使用人用の執務室に連れて行くように指示を出し、使用人たちに持ち場に戻るように言った。それから、伯爵と私、ワンスを連れて応接室に向かう。ワンスだけ外で待ち、三人で中に入った。マイクが伯爵に聞く。

「条件は何でしょうか?」
「今回のことは家の内情に踏み入ることだ。
 私からの条件は、ピニオン令嬢との婚約だ」
「……はい?」
「……残念だ。聞こえなかったようだな」

 伯爵は腕組みをして私を見おろした。マイクは頬を紅潮させ、笑顔で拍手した。

「ご婚約おめでとうございます。お嬢様! モントルの領主と婚約だなんて、もう安心ですね♡」

 待て、勝手に話を進めるな。何がどうして、私と婚約を……。私は固まった。
 伯爵はマイクに言った。

「二人で話したいので、席を外してもらえるか?」
「もちろんでございます!」

 マイクは頬を染めて了承すると私に無言の笑顔を向けてから、そそくさと出て行った。

「私と婚約すれば、珍しいお菓子がたくさん食べられるぞ。何が不満だ?」
「子供じゃないんだから! お菓子と婚約だとリスクが違い過ぎるでしょ!」
「そうか?」

 確かに証人として、伯爵がいると話が早いだろう。でも、なんで? 街で言ってた方法ってもしかして、これか? 私は腕を組んで考える。伯爵が私と婚約する理由は何?

「どうして私と婚約するんですか?」
「お前は俺に興味がないからな」

 ぐはっ。婚約したら、本当に令嬢たちのライバルになってしまうじゃないですか~。表に出たくないって知ってるくせに!

「伯爵は私を、令嬢除けにするつもりですね!」
「……そう取ってもらっても構わない。お前にとっても悪い話じゃないと思うが。結婚のことで悩んでいただろ?」

 う~ん。確かに。お父様が目を覚ましたときに、またとんでもない人と婚約させられるよりは、伯爵のほうがいいかもしれない。私は伯爵を見た。

「私の条件は自由にさせてくれることです」
「いいだろう。私の条件は、お互いに不貞をしないことだ」
「いいですよ。でもそれなら、お互いに好きな人ができたら別れましょう」
「いいだろう」(ピニオンにそんな男が現れるとは思えないが……)

 伯爵が人を好きになることなんてあるのかしら? 私たちはお互いに顔を見合わせて微笑んだ。

「じゃあ、契約成立ですね」
「ああ」
「ちゃんとお菓子を持ってきてくださいよ」

 私はそう言うと、フンッと鼻息を出した。伯爵は腕を組んで呆れた顔をしていた。

(私の存在は、珍しいお菓子以下だな……)

 伯爵と、とりあえず契約婚約したということね。でも、私は伯爵と結婚するつもりはない。
 私はちゃんとこの辺の政治的なことも修道院で勉強した。モントル領は誰もが欲しがる。だからこそ、公爵家も伯爵家と婚姻したのだ。勢力争いの渦中に放り込まれるようなものだ。頃合いを見て、何とか別れよう。

「そう言えば、継母と妹に悪魔が憑いていた。母のほうは中デビルだ。子デビルは頭が丸いが、中デビルは子デビルが成長したもので、顔が四角くて首がない。指も四角い紙みたいな黒い悪魔だ」
「そうなんですか」

 エビらしいわ。

「子デビルは義妹に憑いていた」
「何ですって! じゃあエラだったのね!」
「そのようだな」
「今はどうです?」
「憑いていないな……」

 部屋に置いてある鏡を二人で見た。

「今は俺に憑いている……」
「プッ!」

 私は笑って口を押えた。エラらしいし、さすが伯爵様よ。伯爵は指ではじこうとしたが止めた。そんなことをしても無駄だからだ。私はちょっとおかしくて、ニマニマしていた。
 私たちは応接室を出た。マイクが弁護士の先生を連れて、応接室に歩いてきた。マイクが呼んだようだ。伯爵がマイクに言った。

「話はまとまった」
「ようございました」

 マイクと伯爵、先生は応接室に入った。先生に筆記机の椅子に座ってもらう。私は廊下に出てワンスと隠れた。私が立ち会わないほうが、問題なく進むだろう。メアリーに恨まれることもないという、マイクの配慮だった。外からでも話は聞こえる。
 メアリーが呼ばれて中に入った。衛兵は時間まで下がらせた。うちには衛兵が六人いる。地方なので警備は万全にしているが、常勤は四、五人なので今回のことで手薄になっていた。
 ドアは声がよく聞こえるように、少し開いていた。

 部屋の中ではマイクが話を進める。メアリーは顔色が悪いが、待っている間に落ち着いたようだ。

(話を聞くだけだもの)

 マイクはメアリーに聞いた。

「あなたがやりましたね」
「! 違います!」(私を疑っているんだわ!)

 マイクが玄関ホールで言ったことは、ことを上手く運ぶためだった。その前の伯爵の言葉で、流れが簡単になっていた。

「あなたはこのままだと、主人に毒物を飲ませたことにより、死亡の場合は死刑、目が覚めた場合は、終身労働の刑になります。
 ただ、首謀者がいると思いますので、正直に話し罪を悔いれば、刑を減刑するという判断にしました。旦那様の目が覚めた場合は、修道院で3年間の奉仕にします。ここで話さなければ、警備署で尋問してもらいます。供述書は弁護士の先生に作ってもらいます。伯爵が証人となります。
 3年間の奉仕をしたとしても、あなたがその後罪を犯したときは、減刑は取り消され、今回の刑も併せて執行されます。
 あなたは主人を裏切ったので、今後は貴族の使用人としては働くことはできません」

 法律で、貴族は守られている。罪を犯した者は利用されて、主人以外の貴族にも害をなす可能性があるからだ。
 マイクの目は冷たかった。伯爵は冷徹な眼差しでメアリーを見おろしている。弁護士は蚊帳の外で見ている目だった。
 警備署の尋問が厳しいのは、メアリーにも予想がつく。

「お、ピニオンお嬢様がやったのでは……?」
「お嬢様は旦那様のことを大事に思っておいでです。そのようなことはなさいません」
(ピニオンお嬢様は悪役令嬢だって聞いたけど……信用されている。どういうことなの? 話が違う……)

 メアリーは目線を下にして、さらに顔色が悪くなった。

「今話さないと、刑の減刑はありませんよ」
(修道院に3年間なら軽い……。私はまだ17歳だもの、終身刑やまして死刑なんて絶対嫌だ。旦那様は目を覚ますと言っていた……)「申し訳ございませんでした。私がやりました……」

 メアリーは床に座って頭を下げた。

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