家族に家から追い出されたので、悪役令嬢を矯正します!

雲乃琳雨

文字の大きさ
19 / 40

19、子爵代理になる

 翌朝、マイクが使用人全員を玄関ホールに集めた。私もその場にいた。使用人たちがひそひそと昨日のことを話している。

「お嬢様、お戻りになってたのね」
「まさか、メアリーがね」
「あの二人がただの使用人だったって、どういうことかよく分からないわ」

 私も分からない。二人が使用人だったことは、昨日のうちに全員に伝えられた。
 メアリーとエビたちはお互いがどうなったかを聞かされた。メアリーは二人が使用人だったことを聞いて、大変驚いていた。その後、自分の選択を後悔してうなだれていたそうだ。メアリーは朝一番に警備署に連れて行かれた。お父様の目が覚めるまで収監されることになる。

 マイクがお父様の書簡の一部を読み上げた。

「旦那様はまだお目覚めになっていません。旦那様の取り決めにより、ピニオンお嬢様が子爵代理となります。私が、管理の権限を任されております。以上です」

 家のことはよく分からないから、私から話すことはない。マイクに任せるしかない。マイクが有能で良かった……。
 先生二人も、朝食を済ませると帰っていった。お父様の症状は安定しているので、医者の先生が1週間後にまた来ることになった。これからは、お父様付きのメイド二人が交代で様子を見ることになる。

 エビとエラは、後日持ち出すものをメイドに伝えて、荷物をまとめていた。暮らした期間は短かったけど、ようやくあの二人ともおさらばできる。
 昨日のうちにお父様の様子を見に行った。なんだか変な気持ちだった。全てが終わったのに、お父様が寝ていたから。

 午後になって、借り馬車が着いた。見送りは、マイクとメイド長の二人だけだ。私は外から見えないように隠れて見ていた。他の使用人たちも窓から見ている。
 あの二人を見てイライラしていたのは、悪魔のせいかも……。

 マイクは二人に告げる。

「荷物の届け先の連絡は、1週間以内にしてください。それを過ぎたらこちらで処分します」
「分かったわよ!」

 エビが怒った顔をしてマイクに何か言っている。それから建物を振り返った。私はさっと隠れる。二人とも二つカバンを持っていた。馬車に乗ると、馬車は敷地を出て行った。もう二度とあの二人がここに戻ってくることはない。
 メアリーは実行犯だから罪が重くなった。あいつらは、お金をもらって出て行く。癪だが仕方がない。もう次はないし、その時は許さない。

 私はお父様の部屋に報告に行った。

「二人が出て行ったわ」

 私は静かに告げた。やっと家族だけに戻った。


 借り馬車の中、エレオノーラは泣いていた。

「なんで、貴族というだけで、なんでもないピニオンがいい思いをするの?」(伯爵様もピニオンの味方をしていた)「私と似たようなピニオンの母は貴族令嬢だけど、私はずっと平民のままだわ。こんなの不公平よ。
 私たちが仲良くしようと思っても、あの子は悪役令嬢だから拒否したはずよ。全部あの子のせいよ」
「そうね。でも私たちはまだ、再起できるわ。早めに支援してくれる貴族を見つけましょう」
「そんなことできるのかしら」
「できるわ。あなたのような娘を放っておくはずないもの。今度こそちゃんと貴族になる手続きをしましょう」

 私はエレを抱きしめた。この子がいれば大丈夫よ。馬車はモントルに向かっている。

(モントルは伯爵様の領よね。ずっと同じところに住んでいたのに気がつかなかったわ。あんな素敵な人だったなんて。私が先に会っていたら違ったかしら?
 平民なら伯爵様の屋敷で雇ってもらえるわよね?)

 馬車を街のホテルの前で止めてもらった。馬車の料金は子爵家が払っている。私はホテルでツインの部屋を取った。
 荷物を置くとジャンの元へ薬を取りに行くことにする。

「私は出かけてくるから。ここから出ないようにね」
「はい……」(また恋人のところに行くのね……)


 ジャンの家に行く。ここは、賑わいから外れた平民の下級居住区だ。薄暗い細い道を歩き、ジャンが住む集合アパートの二階に上る。ドアをノックした。

「私よ」
「ソルか、どうなった?」

 私は中に入るが、すぐ帰るから玄関口に立ったままにした。

「どうもこうもないわよ。その前に離縁されたの」
「何だって!」
「本当、貴族の考えることは分からないわよ。新しい仕事を探さなきゃ」
「そうか……。当てが外れたな」

 ジャンはまた同じことを言った。ここはジャンの恋人の家で、ジャンはそのヒモだ。私たちは、恋人が仕事でいない昼間に会っている。
 嘘を言っておかないと、まとまったお金が入ったことを知られたら、たかられるわ。

「薬を取りに来たのよ」
「ああ、分かったよ」
(あの薬はまた使えそうだから)

 ジャンは薬を取りに行く。あの薬は元々少量で使う精神安定剤だから、誰でも薬局で買える。ジャンから瓶と使用書を受け取った。

「じゃあ、今日はもう帰るから」
「ああ」

 ジャンの家を出た。お金を節約しなきゃいけないから、もうここには当分来ないわ。


 1週間が経った。家のことはマイクや秘書官、事務官がやってくれるから、私は決裁書に判を押すだけの仕事をしている。マイクが丁寧に書類の内容を説明してくれる。
 私は結局、乗馬を習っている。視察に行くときに便利だからだ。お父様も視察に行くときに使っていた。今は秘書官だけが見回りに行っている。しばらくは私が行かなくても問題ないそうだ。その間に乗れるようにしないと。マイクが先生を手配してくれて、週二回来ることになった。いないときは馬番のウェイドに見てもらっている。
 乗れるようになったら自分の馬を買おうと企んでいるところだ。楽しみ!

 お父様の離縁と体調不良は同時に発表された。子爵代理は令嬢となっているが、名前は伏せた。私だと死んだはずになってるし、悪役令嬢だから取引相手に悪い印象を与える。名前を伏せればエラだと思われるから、この状況をしばらく利用させてもらう。ちょうど良かったわ。

 エビからも住所を書いた手紙が来た。中級アパートを借りたようだ。部屋から荷物を運び出し、入れ替えた家具を元に戻した。まるで何事もなかったかのように、元に戻った。
 今回のことは警備署には連絡してある。領地内のことは領主に権限があり、今回の判断は認められた。ただ、捜査はされる。薬の出所を調べると、ジャンという男が買ったことが分かった。この薬は、購入時には身分証がいる。聞き込みの結果、ジャンは恋人の家に居候しているヒモで、エビの愛人ということだった。なんて奴だ! エビのだらしなさに呆れた。

 お父様の様子を見に行った。椅子に座って、横になっているお父様を見ている。
 出てきた薬と同じ量だと、1週間ぐらいで目が覚めるらしいが、お父様はまだ目覚めていない。今日先生が来たが、安定しているからまた定期的に様子を見に来るということだった。
 外からメイドの声がする。

「伯爵様がお見えです」
「お通しして」

 私は座っていた椅子を丸テーブルに戻した。伯爵が入ってくる。

「ごきげんよう」
「子爵の様子はどうだ?」
「まだ目を覚ましませんよ。……このままだと、すぐには歩けなくなってしまいますね」
「そうか」(医療の知識も、ちゃんと学んでいるんだな)

 私たち二人でお父様を眺めた。

「今日はどのような御用件ですか? 契約書を持ってきました?」
「いや。目が覚めているかもしれないと思って、書く前に来た」
「そうですか」

 伯爵はカバンから、お菓子を取り出す。マカロンだ。

「わっ、やった! これは一人で食べますね」
「そうなのか?」
「繊細な味で、色ごとにフレーバーが違うんですよ。二つずつしかないから味わって食べたいんです。
 ……でも、お父様が起きてたら二人で食べたかも。お父様も甘いものが好きなんですよ」
「そうなのか」(高価な宝石をねだられるより、これぐらいで喜んでもらえるほうがいいな)

 伯爵は穏やかな微笑みを浮かべてから、フッと笑った。なんとなく馬鹿にされた気が……。

「あ、契約書がまだなら。婚約指輪をください。返さなくていいって書いてくださいね」
(私の心を読むとは、さすがだな……)「どんなものがいいんだ?」
「大きいダイヤがいいです。舞踏会の時に目立つような。伯爵の本気度が試されますよ」

 へっへーんだ。婚約解消したら、報酬として即換金よ!

「分かった。指が上がらないぐらい大きいものにしよう」
「えっ!? それはちょっと……」
「私を誰だと思っている。それぐらい用意できるぞ」
「何を張り合ってるんですか……」

 伯爵は腕を組んで私を見下ろした。

「ダンスが踊れなかったら意味ないでしょ! 普通のものでいいです! 私に似合うような可憐なものにしてください」

 私は手の甲を上げて見せた。

「どんなものがいいんだ?」
「伯爵が私のことを想って、選んでください」
「……いいだろう。次来る時に指輪と契約書を持ってくる」
「分かりました」

 まあ仕方ないわね。私のほうが譲歩するわ。でも、何を持ってくるか楽しみね。

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。

倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。 でも、ヒロイン(転生者)がひどい!   彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉ シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり! 私は私の望むままに生きます!! 本編+番外編3作で、40000文字くらいです。 ⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。

お前との婚約は、ここで破棄する!

もちもちほっぺ
恋愛
「公爵令嬢レティシア・フォン・エーデルシュタイン! お前との婚約は、ここで破棄する!」  華やかな舞踏会の中心で、第三王子アレクシス・ローゼンベルクがそう高らかに宣言した。  一瞬の静寂の後、会場がどよめく。  私は心の中でため息をついた。

もう何も奪わせない。私が悪役令嬢になったとしても。

パリパリかぷちーの
恋愛
侯爵令嬢エレノアは、長年の婚約者であった第一王子エドワードから、公衆の面前で突然婚約破棄を言い渡される。エドワードが選んだのは、エレノアが妹のように可愛がっていた隣国の王女リリアンだった。 全てを失い絶望したエレノアは、この婚約破棄によって実家であるヴァルガス侯爵家までもが王家から冷遇され、窮地に立たされたことを知る。

『お前の顔は見飽きた!』内心ガッツポーズで辺境へ

夏乃みのり
恋愛
「リーナ・フォン・アトラス! 貴様との婚約を破棄する!」 華やかな王宮の夜会で、第一王子ジュリアンに突きつけられた非情な宣告。冤罪を被せられ、冷酷な悪役令嬢として追放を言い渡されたリーナだったが、彼女の内心は……「やったーーー! これでやっとトレーニングに専念できるわ!」と歓喜に震えていた!

婚約破棄!ついでに王子をどん底に突き落とす。

鏡おもち
恋愛
公爵令嬢パルメは、王立学院のパーティーで第一王子リュントから公開婚約破棄を突きつけられる。しかし、周囲の同情をよそにパルメは歓喜した。

悪役令嬢は間違えない

スノウ
恋愛
 王太子の婚約者候補として横暴に振る舞ってきた公爵令嬢のジゼット。  その行動はだんだんエスカレートしていき、ついには癒しの聖女であるリリーという少女を害したことで王太子から断罪され、公開処刑を言い渡される。  処刑までの牢獄での暮らしは劣悪なもので、ジゼットのプライドはズタズタにされ、彼女は生きる希望を失ってしまう。  処刑当日、ジゼットの従者だったダリルが助けに来てくれたものの、看守に見つかり、脱獄は叶わなかった。  しかし、ジゼットは唯一自分を助けようとしてくれたダリルの行動に涙を流し、彼への感謝を胸に断頭台に上がった。  そして、ジゼットの処刑は執行された……はずだった。  ジゼットが気がつくと、彼女が9歳だった時まで時間が巻き戻っていた。  ジゼットは決意する。  次は絶対に間違えない。  処刑なんかされずに、寿命をまっとうしてみせる。  そして、唯一自分を助けようとしてくれたダリルを大切にする、と。   ────────────    毎日20時頃に投稿します。  お気に入り登録をしてくださった方、いいねをくださった方、エールをくださった方、どうもありがとうございます。  とても励みになります。  

ハーレムエンドを迎えましたが、ヒロインは誰を選ぶんでしょうね?

榎夜
恋愛
乙女ゲーム『青の貴族達』はハーレムエンドを迎えました。 じゃあ、その後のヒロイン達はどうなるんでしょうね?

悪役令嬢として断罪? 残念、全員が私を庇うので処刑されませんでした

ゆっこ
恋愛
 豪奢な大広間の中心で、私はただひとり立たされていた。  玉座の上には婚約者である王太子・レオンハルト殿下。その隣には、涙を浮かべながら震えている聖女――いえ、平民出身の婚約者候補、ミリア嬢。  そして取り巻くように並ぶ廷臣や貴族たちの視線は、一斉に私へと向けられていた。  そう、これは断罪劇。 「アリシア・フォン・ヴァレンシュタイン! お前は聖女ミリアを虐げ、幾度も侮辱し、王宮の秩序を乱した。その罪により、婚約破棄を宣告し、さらには……」  殿下が声を張り上げた。 「――処刑とする!」  広間がざわめいた。  けれど私は、ただ静かに微笑んだ。 (あぁ……やっぱり、来たわね。この展開)