おデブだった幼馴染に再会したら、イケメンになっちゃってた件

実川えむ

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第6章 信じたい私と人気俳優の彼

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 大きな黒いドアから出てきた三人。
 青ざめた美輪、それを支える無表情な吾郎。普段は茶目っ気たっぷりの笑顔の一馬が、怒りで顔をひきつらせている。

「吾郎兄」

 いつもよりも、ワントーン低い声で、話しかけた一馬。

「なんだ」

 振り向きもせず、歩く吾郎の背中には、誰も触れさせない強いオーラが見えそうだ。

「俺、ちょっと言ってくる」
「好きにしろ……でも、さっさと戻ってこい。送るから」
「ん」

 踵をかえし、再び会場の中に入る一馬。
 先ほど遼がいた席を見ると、まだいた。あの女優は、席をはずしているようだ。沸々と怒りが湧き出るのを、抑えられる自信はない。
 ぼんやりと、フロアを見ている遼。

「遼」

 んあ? という表情で、一馬を見る遼は、少し酔っている風にも見える。

「なんだ、一馬くん、来てたの?」
「……」
「今日の保護者はぁ?」
「美輪」
「美輪さん? どこ~?」

 だらしなく、ヘラヘラしている姿に、どんどん怒りが湧いてくる。

「お前、何やってんだよ」
「ほえ? 何って、お酒飲んで酔っ払ってる。ふふ」
「バカか、お前」
「なんで~?」
「美輪、見てたぞ」
「?」
「お前が、あの女とキスしてるとこ」

 一馬の言葉で、一気に酔いが覚める。

「えっ!? 僕、キスしてなんかして」
「イチャイチャしてたじゃないかっ!」

 怒りに震える一馬を見て、血の気が引く遼。

「ご、誤解だって!」
「言っとくけど、吾郎兄も来てたから」
「!?」
「俺、もう、相談のれない」
「いや、マジで誤解なんだよっ」
「遼くん? どうした?」

 飲み物をとって戻ってきた兵頭乃蒼は、不思議そうな顔をして二人に近づいてきた。そんな彼女を冷たく一瞥し、遼のそばから離れる一馬。

「まぁ、勝手によろしくやってよ。」
「違っ、違うんだっ」

 出口に向かう一馬を、少し遅れて遼も追う。

「一馬くんっ!」

 遼がドアをあけて外に出た頃には、三人を乗せた車は走り去っていた。

「マジかよ」

 力なく、柱に寄りかかりしゃがみこむ遼の後ろには、マネージャーの寺沢が駆け寄った。

「どうしたんです?」
「あ……やらかしちゃいました」

 途方に暮れた顔の遼に、寺沢はそれ以上声をかけることが出来なかった。

                * * *

 車の中の空気は重い。
 私は外の暗闇に目を向けるしかない。静かな振動は、少しずつ私を落ち着かせてくれた。
 冷静になってくれば、自分があの程度のことで、崩壊してしまったことの情けなさと、あの程度のことが、耐えられないくらいに、私は不安定だったのか、と、気付かされたこと。

「兄ちゃん、ごめん」

 正面を向いたまま、ハンドルをにぎる兄ちゃんの顔は、先ほどの怖い顔から一変、落ち着いた表情で運転している。一方で、後部座席にいる一馬は、何かブツブツと文句を言っているようだけど、聞き取れない。
 マナーモードのスマホが小さなバックの中で、揺れているのがわかる。
 遼ちゃんかもしれないし。遼ちゃんじゃないかもしれない。でも、今の私にはどんな情報を入れたくなくて、そのままにしていた。

「美輪、いいのか。」
「……ん」

 自分の許容量のなさは、今日のことで自覚した。
 ごめんね。遼ちゃん。今は、無理だわ。
 大きくため息をつく。私の今の黒々とした面倒な思いも、吐き出てくれればいいのに。

「少し、寝とけ」
「……ん」

 私は素直に、瞼を閉じた。
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