転生先は魔王でした…。

桜星海月

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転生先は魔王でした…。

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突然だが「神宮寺美琴」は不慮の事故で死にました…。

神宮寺海琴
職業事務職、現在25歳の彼氏無しのアニメオタク。
と、彼氏無しは余計だが、彼女は今絶賛残業中である。
終業時間から約一時間作らなくてはならない資料の作成が間に合わず、居残りをしていた。
そして、漸く資料が全て揃うと両手を上げる。
「終わったーー!というか、帰る直前に「これ、やっといて」じゃないってのあのクソ部長」
終わった資料をまとめ、帰り支度を始めながら文句を言うと、帰路へと着いた。
なんとか一時間に残業を収めたが、薄い本1冊分の仕事をした私は信号待ちの間に目頭を揉んでいた。
すると、反対側の歩道にオタク仲間を見つけると手を振った。
「あ、秋ー!」
友人と今ハマっているRPGゲームの話でもしようなどと考えていれば、ガシャーンという音が真横からしたかと思えば「美琴!危ない!」という友人の声が聞こえた。
その刹那、私の体は事故に遭い、衝撃でスリップしてきた車に勢いよくぶつかり、吹き飛ばされた。
頭から地面に叩きつけられたのだろう。
意識がボーッとし、何が起きたのかもわからずに私の意識はそこでプツンと途切れた。
『――再生化を開始。転生世界を検索――前世の氏名「神宮寺海琴」を削除致します――削除完了。同時に転生世界の検索を完了しました。魔王ジルドレウス――エラー発生、既に人格構成されています。既に人格構成されています――構成された人格を削除―――削除完了。現在までの記憶を再構成致します―転生を開始致します――――…』
朦朧とした意識の中でAIロボットのような声が聞こえる。
しかし、重く閉じられた瞼は開けることができず、頭の中で流れる音声をただ聞いていることしかできなかった。
『――転生を完了しました。』
「…さ、ま…魔王様!」
そんな最後の音声と同時に聞こえた誰かの呼び掛けに私は弾かれたように瞼を上げた。
「!?…え…なに?」
重かった瞼を開けた先は広々とした神殿のような場所だった。
まるでファンタジー世界のような石で作られた部屋と太く大きな柱、目の前にはなぜかボロボロな服を着た人達が腕を縄で縛られている。
(これは…どうゆう状況?というかここどこ!?)
自分の置かれた状況が読み取れずに困惑していると、こほんという咳払いが聞こえた。
「魔王様はお疲れのようだ、本日の裁定は後日とする。そこな人間を牢に入れておけ」
そういうと数人の兵士らしき人達が縄で縛られた人達をどこかへ連れて行く。
その様子を呆然と眺めていると、顔立ちの整った男性に声をかけられる。
「魔王様、お部屋へ戻りましょう。本日はお疲れのご様子…ゆるりとお体を休ませてください」
「…魔王?」
「こちらへ…」
彼は私の質問には答えずに神殿のような部屋から魔王の部屋へと移動する。
(魔王って…あの魔王よね?)
道中男性に言われるがままに自室へと歩みを進めるが、先程から彼は私の事を「魔王」と呼んでいるため、一体どうゆうことなのかと考えを巡らせる
しかし「では…」と到着したドアの前で頭を下げる彼にこちらも頭を下げて答える。
室内へと入ると、一人部屋には勿体ないほどの広さと一人で寝るには大きすぎるキングサイズのベット、大きな窓と全てが規格外の部屋。
その一角に置かれた大きな鏡に写った自分の姿に驚きを隠せなかった。
「え、嘘!?この整った顔に竜人の角…魔王ジルドレウス!?」
鏡に写された自分の顔と頭から生えた角に触れ、引っ張ったりつねったりとしてみるが、どうやら夢ではないようだ。
自分がやっていたゲームの世界の魔王になったなどとそんなアニメや漫画の話しでしか聞いたことがない…。
「ど、どうなってるの…転生?…そ、そうよ、こうゆうのってステータス表示とか人物図鑑とかあるはずよ…ゲームの中ならプレイヤーだって居るはず!」
私は持てるゲームの知識で魔王ジルドレウスのステータスを表示した。
「魔王ジルドレウス、竜人属…両親を殺された恨みにより人間を惨殺…勇者との戦いに勝利し、世界の支配者となる…レベル表示は…表示不可ってなに!?」
私は自分のステータスを見て頭を抱えた。
確かにこの身体はゲームの中の魔王である。
その上、魔王とだけあってステータスがなかなかにチートである。
「ゲームのプレイヤーについての検索は…なし。はぁ…死んで転生先がRPGゲームの魔王とか…これからどうするのよ。しかも征服したのよねジルドレウス(私)が」
大きなため息を吐いて私は大きなベットへと身を投げ出し、大の字になって寝転んだ。
すると、コンコンとドアをノックする音が室内に響いた。
「…誰だ」
今の私は魔王ジルドレウスであり、彼らを統べる王、性別も男性であるならそれなりの振る舞いをしなくてはならない。
そう考えた私はそれらしい返事をすると、返答が返ってくる。
「シルバにございます」
「入れ…」
声の人物に入るよう促すと先程の顔立ちの整った男性が顔を出した。
「失礼致します。お加減はいかがですか?」
どうやら彼は私の身を按じてやったきたようだ。
シルバという名に聞き覚えがあれば、改めて彼に問いかけるとシルバは目を丸くした。
「も、問題はない…お前は確か、シルバ・レベナントだったか?」
「魔王様…もしや…疲労で記憶までも喪っているのですか?」
彼の表情と問いかけにしまったと思った私は慌てて
思考を巡らせ、言葉を返す。
「あ、ぁあ…実は……部分的に忘れてしまったようなんだ…」
「なんと…それほどまでに疲労されていたとは…気づくことのできなかった私にも非がございます。申し訳ありません…」
彼の思い込みを良い事に話しに乗ると、申し訳ないと深々と頭を下げるシルバに私は更に慌てた。
「い、いや、頭を上げろ。非は言い出さなかった俺にある…気にするな」
「ジルドレウス様…以前とは変わられるほど記憶喪失とは…しかし、そのお言葉ありがたき幸せにございます」
驚いた様子のシルバだったが私の言葉に嬉しく思ったのか涙ぐんでいる。
前のジルドレウスはそれほど非道だったのだろうか…。
彼の様子に困ったように眉を下げていれば、はたと何かを思い出したシルバは紅茶を入れながら話を変えた。
「そう致しますと人間どもの裁定はいかがなさいましょう?」
「裁定…?」
「…先程の人間です。奴隷として一生労働に勤めさせるか、不要であれば処分いたします」
「ど、奴隷!?処分!?ちょっと待ってジルドレウスって今までもそんなことしてたの!?」
「…ええ、人間は害なす者と…」
シルバの話を聞くと私は頭を抱えた。
前のゲームでは勇者視点の物語(BADEND一択)であったため、知らなかった。
それは確かに人間の恨みを買うだろう…。
しかし、今のこの世界は魔王が支配している。
となるときっと彼はやりたい放題に命を弄び、捨てていたのだろう。
「いくら悪さをしたとしても、ただでさえ寿命の短い人間を殺すなんて…世界を征服した魔王が聞いて呆れるわ…」
「ま、魔王様…?」
私の独り言を聞いたシルバは困惑した様子で顔を覗き込んできた。
(しまった…つい口調が…)
私は顔を上げると一つ咳払いをし、深呼吸する。
「彼らは解放しろ」
「なっ…ですが、彼らはこの魔王城の正門を爆発しようとしていたのですよ!?」
「器物破損問題っ!じゃなくて門は?」
「少々汚れたものの破損までには至っておりません。人間どもの作った爆弾ごときで壊れる門ではありませんから」
シルバから詳しい話を聞くと少々の問題は起こしていたようで、大きなため息を吐いた。
しかし、正門は無傷と自慢げに話す彼に苦笑しながらも彼らの処分について改めて考える。
しかし、怪我人と死人が出ていないとなればやはり殺すというのはいきすぎだ。
「やはり解放という形で構わない…が、これは独断で決めることではない。皆を玉座の間に集めてくれ」
私の考えを押しつけて他の意見を無視するのも良くないと、ベットから降りると自室を出ようとする。
しかし「魔王様!」というシルバの声に彼の方を振り返る。
「お加減はよろしいので…?」
「ええ、裁定は後日って聞いたけれど、善は急げっていうでしょう?」
彼の心配に安心するよう伝えると自室を後にして玉座の間へ向かった。

「こほん…これより愚かな人間どもの処分を決める裁定を始める。魔王様…」
玉座の間へ改めて集められた彼らは魔王である私を睨みつけてくる。
(そりゃそうよね…私の一存で生き死にが決まるのだから…)
私はシルバが下がったのを確認すると、今にも飛び掛かってきそうな彼らを見据えた。
「俺に楯突く人間ども…我が城の正門を爆破、破壊しようとした件…その行動は愚かだな。だが、聞いたところ怪我人も死人も出ていない。よって…貴様らを解放する」
彼らの解放を告げるとその場に居た全員がどよめいた。
「魔王様!この者達の行った行為は重罪です!なぜ解放などと…」
「理由は今告げたはずだが?」
「し、しかし…」
「先程も伝えた通りだ。怪我人、死人共に無いのならば許す。今後の方針だ、他に反論のあるものは意見するが良い」
今までとは違うジルドレウスの言葉に兵士達は戸惑った様子を見せていた。
しかし、何度同じ事を聞かれようと答えは変わらない。
すると、捕らえられている人間の一人が口を開いた。
「どうゆうつもりだ…俺達を解放して、後でも追って家族まで殺そうとでも考えているのか!?」
「…は?」
「ふざけるな!そんなことなら今すぐここで死んだ方がマシだ!」
捕らえられた人間達は次々に声を荒げると兵士達が彼らに鋭い槍を向ける。
尚も口を閉ざす様子のない彼らに対し、なぜそんな考えに至るのかという私の疑問と騒がしさへの怒りにガバッと立ち上がる。
「黙りなさい!どうしてアンタ達はそうひねくれ根性なわけ!?解放するって言ってるんだから素直に喜んだらどうなの!!」
私の声に驚いた彼らはピタリと動きを止めた、冷静になって顔を見るとまるで鳩が豆鉄砲を食らったような表情をしていた。
そして同時に(まずい…)と思った私は静かに玉座へ腰を降ろす。
騒々しかった室内は沈黙が流れ、誰もが口を閉ざしていた。
しかし「こほん」という咳払いが聞こえるとシルバが沈黙を破る。
「ここでは魔王様の決断が全て。魔王様がその者たちを解放するというのであれば従うのが我ら従者の勤めである」
「良いな?」というシルバの声に兵士たちはビシッと背筋を伸ばすと返事をし、人間達を城の外まで連れて行くのであった。

その後、自室へと戻ってきた私はどう話を切り出して良いものかと一緒に室内へと入ってきたシルバを盗み見る。
「…魔王様」
「は、はい!」
不意に呼ばれると先程の裁定の件について怒られるものと身構えていると「その…」と何やら口ごもるシルバに首を傾げた。
「もしかすると、魔王様…口調も今まで隠されていましたか?」
シルバの思わぬ質問に数回瞬きをすると、そういえ何度か元の口調に戻っていたような気がすると思い返せば、大きなため息を吐いた。
しかし、これは好都合では?と思った私は彼の質問に頷いた。
「そうなのよ!実は…ほら、魔王の威厳?っていうのを出すのなら男らしい方が良いと思って…この際だからこれから普通に話すことにするわ」
「かしこまりました。では、私は失礼致します」
なんとか理解してもらえたようでシルバは頭を下げると部屋を後にしていった。
「…はぁーーーー…とりあえず、落ち着いたわね」
彼が去ったことを確認すると、大きなベットへと飛び込む。
そして、天井へ向けて手を伸ばすと握ったり開いたりとを繰り返す。
改めて自分が魔王ジルドレウスだということを実感する。
しかし、最後まで攻略できていない彼女はこれから何が起こるのか皆目検討もつかない。
「こんなことならネタバレ動画でも見ておけば良かったわ…そうだ、さっきの裁定」
先程の裁定の場面はストーリーで読んだことがあるのを思い出した。
確かあの時はストーリーの中の話の流れであり、選択肢などはなかった。
そして、その中で彼はあの人間達を殺すという判断を下したのだった。
「この先よ、まだプレイしてないの…けど、よく考えたら選択肢とかないけどゲームとは違う決断をしたのよね…なにか変わっちゃうかも…」
内容が変わるとなれば今後自分の知っている通りに進まないかもしれない…。
そもそも先の話はわからないため、私は考えることを放棄した。
「まぁ…なんとかなるか」
人としての人生を終え、魔王が征服した世界の魔王になった私はこの先どうなるかわからない状況に少しの不安を抱えながらもその日を終えるのであった。


つづく。
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