酒井物語

おもちうさぎ

文字の大きさ
上 下
9 / 11
中学時代編

酒井、坊主になる

しおりを挟む
酒井の黒焦げの髪は、もうどうにもならない。
やむを得ず、酒井は行きつけの美容院へ行った。

「あら、舞由李ちゃん!久しぶり!」

酒井の姿を見るなり、美容師さんが満面の笑みで話しかけてきた。

「髪、伸びた?っていうか、すごいボッサボサ…ううん、違う――焦げてる!焦げてるよー!あ、焦がしちゃったのか~!相変わらずドジなんだからぁ!」

美容師さんは喋る喋る。

「それで…」と、酒井は咳払いをして切りだした。

「この私の髪は、どうしたらいいんでしょう?」

「まぁ、取りあえず、椅子に座りなさい」

美容師さんは酒井を椅子に座らせ、いったんどこかへ消えてしまった。

それからしばらくして、美容師さんが足を躍らせながら再び酒井の元に戻ってきた。
その手には、バリカンが握られている。

酒井は、なんだか嫌な予感を感じた。

と、次の瞬間、美容師さんはいきなりバリカンの電源を入れ、躊躇いもなく酒井の髪を剃りだした。

「ぎゃあぁぁあああぁぁ!」

思わず酒井は大声を出した。

「こら!舞由李ちゃん!大人しくしなさい!」

怖い顔で怒られ、仕方なく酒井は我慢することにした。

そして5分後―

酒井の頭は見事につるぴかになった。
手でこするとキュッキュと音がするほどである。

「あらぁ!舞由李ちゃん!前よりずっと可愛くなったんじゃない?」

にっこにこで美容師さんは酒井を褒めた。
しかし、酒井は怒っていた。

「全然可愛くなってません!」

「んまぁ!せっかく剃ってあげたのにその態度はなんなの?もう二度と剃ってあげません!ついでに、今回の代金は二倍にしておきますからね!」

「は?!ふざけんなよ!」

酒井はキレて美容師さんの脛に蹴りを入れた。

美容師さんは転んで床に倒れてしまった。

「ふん、良い気味!」

酒井はそのまま店を出ていった。

そして翌日―

酒井はニュースを見て、真っ青になった。
昨日酒井が蹴りを入れたあの美容師が、意識不明の重体で病院に運ばれたらしいのだ。

酒井は坊主になったことよりも不安になった。

様子のおかしい酒井を見て、母はいつものように声をかけた。

「舞由李、あんたさっきからビクビクしてるみたいだけど、なんかあったの?」

「う…うるさいな、クソババァ!あんたには関係ない!」

「あっそ!あんたなんか生まなきゃよかったわ!クソガキ!」


酒井は8時15分に学校へ登校した。
教室に入ってきた酒井を、クラス全員が注目した。

なぜなら、つるっぱげだからである。

ホームルームの後、なぜか酒井は堀川に呼び出された。

「なんですか、先生?」

「髪、切ったんだね。どこで切ったの?」

「家の近くの美容院です」

「へ~。いつ切ったの?」

「昨日の夕方頃です」

「どんな美容師さんに切ってもらったの?」

「30くらいの厚化粧女」

「ふ~ん…なるほどね」

堀川は教室を出て校長室へ直行した。

「校長!うちのクラスの酒井舞由李が、美容師傷害事件の犯人かもしれません!」

「なんだって?!」

しおりを挟む

処理中です...