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デート(追跡)編

ゲーム対決!

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 ぬいぐるみを持った星月さんはずっと隣にいるけど、黒田さんはやっぱりいなくて。

 今日の目的を忘れそうになったから少し気合を入れなおして星月さんに聞く。
「この後どうする? 黒田さんいないみたいだけど?」
「うーん、そうだね……ねえ伊織君もっと遊ばない? せっかくここ来たんだからもっと楽しんで帰ろうよ!」
 そう言った星月さんの目はキラキラしていて楽しそうで。

「やっぱり君が遊びたいだけなんじゃないの?」
「な……ち、違うし! 別にそういうわけじゃなくて……その遊んでいたらみつかるかもしれないし!」
 ……まあ黒田さんを探してもずっと観察するだけだし。
 それだったら星月さんと遊んだほうが楽しいし。

「OK。それじゃあ何して遊ぶ? 僕メダルゲーム以外あんまり詳しくないけど」
「なんかあれだけど……よし遊ぼう! 私アーケードゲームとかしてみたかったんだ!」
 そう言って歩き出す星月さんを僕は追いかける。
 遊ぶなら僕も楽しもう!

 クレーンゲームコーナーの少し奥の方に格闘ゲームとかいろいろなゲームがある。
 えっと真斗とかとやったことのあるゲームは……うん、アーケードにはないか、残念。

「伊織君、このゲームにしよ、これ!」
 先にお目当ての機種を見つけた星月さんが赤い椅子をパンパンしながら僕を誘ってくる。
 隣に座って画面を確認すると「鋼拳7」というタイトル……あ、このゲームは知ってる。

「ふふふ、私こう見えても格闘ゲーム得意なんだよ! 伊織君ボコボコにしちゃうからね!」
「そうなんだ……実は僕も結構やってるんだよね! あとでほえ面かいても知らないよ!」
「お、やる気だね! 望むところだよ!」
 やる気十分の星月さんを見ながら100円玉を入れる。

 キャラ選択は……あ、この頭に触手ついてるやつなんか強そう。これにしよ。

 星月さんの選んだキャラは……パンダ?
「絶対に見た目で選んだよね、そのキャラ」
「え……違う、違う本当にこのキャラ強いから! 私の持ちキャラだから! それより伊織君、私に構ってばかりで大丈夫? 集中しないとボコボコにしちゃうよ?」
「言うねぇ、星月さん! それじゃあ勝負だ!」
 レディファイト! という音が鳴って勝負が始まった!

「あ、ちょっと伊織君ずるい! その触手ずるい! 私近づけないじゃん!」
「へへへ、こいつに近距離で挑むのが間違いだよ、星月さん! それそれ!」
「くそー、あ、ちょ、待って、うわー!!! ちょっと伊織君必殺技使わせてよ!」

 ……1戦目は僕の楽勝だった。本当に僕の楽勝、このキャラめっちゃ使いやすい!

 悔しそうに唇を噛みながら星月さんは強気に話し出す。
「……このゲーム先に2本とった方が勝ちだから! もうその触手さんの動き見切ったから次は覚悟してよね!」
「ふふ、楽しみにしてるよ。僕をどれだけ楽しませてくれるかな?」
「くっ……よっしゃ勝負だ!」
 がっしりレバーを掴んだ星月さんに合わせるように2戦目がスタートする!

「あー、もうダメ! 全然わからない、伊織君ちょっと手を抜いてよ!」
「本気で来いって言ったのはそっちだよね! 絶対手を抜かないからね!」
「うー、それなら……あ、ちょ、待って伊織君それハメ技! ハメ技だよね、ハメないでよ!」

 ……2戦目も僕の楽勝だった。僕このゲーム結構得意かも。
 勝ち誇っている僕の横で悔しそうにぷしゅーとなっている星月さん。
 
 可愛いからちょっとからかってあげよ。
「へへへ、また僕の勝ちだね! 星月さん、しっかりほえ面かいてもらうよ!」

 プシューとしながらもキシっと僕の方をにらんでくる星月さん。
「……悔しい! こんなぼろ負けするの悔しい! 伊織君このゲームやったことあるでしょ、得意でしょ!」
「初めてやったけど?」
「くぅぅ、悔しい! このゲームは無理だ、今度は私の得意分野で勝負してもらうからね!」
「いつから勝負になったの!?」
「今から! だからこのゲームは終わり! 負けた方が勝った方のいう事なんでも聞くこと!」
「何そのルール!?」
 悔しそうに、でもどこか楽しそうに立ち上がった星月さん。
 僕はすこしルールに不満もあったけど、でも楽しそうだからついていった。


「うん、次はこれ、これだ! 伊織君このゲームにしよ!」
「……本当に自分有利なゲーム持ってくるじゃん」
 星月さんが嬉々としながら指さしたのは有名なダンスゲーム。
 ダンスが超のつくほどの得意分野の星月さんにはうってつけのゲーム。

「わかんないよー、伊織君にも秘められた才能あるかも! それじゃあ先行伊織君で! 難易度はHARD!」
「……僕ダンス苦手なんだけどなぁ」
 でも、対戦をすごく楽しそうな星月さんを投げ出すわけには行かないから、コインを入れて曲を選んでゲームをスタートする。

 ……わかってはいたけどHARDモードは難しすぎて。
 脳はちゃんと信号を出してるのに、手と足が全く思ったように動いてくれず、ギクシャクのロボットダンスのようになってしまう。
「ぷぷ、伊織君何その動き!」
「笑わないでよ、こっちは真剣なんだから!」
「でも、すごく面白いし可愛いし……あ、集中しないとドンドン盤面流れてくるよ!」
「どっちが集中切らしてんだよ!」

 そんな会話をしながらのゲームがうまくいくはずもなく。
 はじき出されたスコアはとんでもない低スコアだった……本当にびっくりするくらいに。

「ははは、伊織君、何してるの! ほんと、ひっどい点数!」
「もう、笑わないでよ僕も真剣にやったんだよ!」
「ははは、そうだね、ごめんごめん……よし、今度は私だね。伊織君のリベンジ、頑張っちゃうよ!」

 ひとしきり笑いきった星月さんはパンパンと顔を叩いて気合を入れる。
 コインを入れるとクルリとこちらを振り向いた。

「すっごいの見せるから瞬き厳禁だよ!」
 そう言ってニコッと笑う星月さんに僕も「頑張れ」ってエールを送った!

 ……星月さんのダンスは圧巻だった。
 完璧で、ほれぼれするようなダンス。
 リズムも音程も何もかも完璧で、オリジナリティだしたり、こっちにピースをしてくれる余裕もあって。

 最後にポーズを決めたと同時に画面には「ハイスコア!」の文字が同時に映し出された!

「ハイスコア!」の文字をみた星月さんは「よっしゃ!」と小さく飛び上がるとすぐに僕の方へ寄ってくる。
「ねえねえ、伊織君ハイスコアだよ、ハイスコア!」
「そうだね、さすが星月さん!」
「ふふん、すごいでしょ! もっと褒めてくれてもいいんだぞ!」

 僕の言葉にむふふん! と胸を張る星月さん。
 でもこれは素直にすごいと思う!

「いやー、本当にすごいよ! だって僕の5倍くらいスコアあるからね! やっぱり星月さんダンスめっちゃ上手だよね!」
「むふん、そうでしょ、そうでしょ!」

 上機嫌になってさらに胸を張る星月さん。
 その姿を見ていると、なんだか胸がむずむずして、お兄ちゃんが騒ぎ出して、なんかその……すごく可愛く見えて。

「にゃは!? いいいい伊織君、急に何をしてらっしゃるんですか!?」

 気づいたら星月さんの頭を撫でていた。
 星月さんは真っ赤な顔をしえ飛び上がって、僕から距離を置いてしまっている。
 あれ、これまずい……?

「あ、いや、そのさ、星月さんすごいなー、って思ったから! だからなでなでしてほめてあげようかなー、って……すいません、ごめんなさい、私が悪いです」
 流石に調子に乗りすぎた。
 僕たちの関係はあくまで偽装なんだ、これは申し訳が立たないよ……

「……わかりました、許します! でも、でも、そんな中途半端なナデナデは許しませんです! もっと全力で私の頭を撫でてくださいです!」
 でも、星月さんは怒ってないみたいで。
 僕の方にグイっと頭を寄せて、撫でて撫でてという風にむふんしたと顔をしている。

 ……ええっと。
「星月さん、ダンスすごかったよ! こんな高得点とれるなんてすごいえらい! めっちゃ上手! 僕たちの誇り!」
 こんな風にされるとどうすればいいか良くわかんないけど。
 取りあえず、褒めて、髪がくしゃくしゃになるくらいに頭を撫でて。
 これであってるかなんか全然わかんないけど取りあえず頑張ってみて。

「えへへ、嬉しいな、褒めてもらえて……ありがとう、伊織君……えへへへ」
 でも、星月さんが楽しそうに笑っているからこれでいいのかな?
 ……わかんないけど、僕の顔今すっごく赤くなってると思う。
 だって、その……だって。

 結局星月さんが満足するまで頭を撫で続けた。

 なんだか、すごく……不思議な気分になっちゃった。
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