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第1章

あかりちゃん

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「あー、これがこうで、それがそうで……」

 お昼前で、おなかが空いてフラフラで退屈な授業でも黒田さんを見ていると幸せな気分になるから不思議だ。

 後ろ姿だけでもかわいいし、美しいし、オーラ凄いし、たぶんいいにおいもする。遠いからわかんないけど。

 この子が大好きで付き合っている男の人とはどんな人なんだろう?

 清廉潔白なイケメンか、それとも普通の男の人か、それとも……しまった、星月さんに写真を見せてもらえばよかった、持ってるか知らないけど。

 それも日曜日にはわかることだ。ろくでもないやつだったら、星月さんと一緒にぶっ飛ばしてやろう。

 ……そういえば星月さん、あれから目すら合わせてくれないけど大丈夫だろうか? だれにも言わない設定を重視しすぎじゃない? ちょっと寂しいんだけど。

 ⋯⋯まぁでも、とりあえず今は、黒田さんの私服も見れるのも楽しみだ! 

 ふふふ、黒田さんの私服か……ふふふ、ふふ「おい、松原話聞いてるのか!? 何にやにやしてんだ!」

「ふぇ!?」
 突然僕の名前が教室に響き、視線が僕に集中する。

 突然のことにおかしな返事が出てしまった。教室中に笑いが響く。

「なんだその返事は!……ちゃんと授業聞くんだぞ、全く……」

 怒られてしまった、恥ずかしい……ま、黒田さんが笑っているし、めっちゃ可愛いし、いいか! やっぱり星月さんは絶対に目を合わせてくれない。

 切り替えてまた黒田さんを見る作業に移ろうと思っていると頭に紙がぽすっと当たった。

 なんだろう、と思って紙を開くと真斗の字で「バーカ」。

 真斗の方を見ると、こっちを見ながら声を出さないように爆笑している。
 やばい、すげえ腹立つ顔だ。

 にらみつけてみるがこっちをおちょくったような表情のまま手を振っている。
 あんにゃろ、幼馴染だからって「おい、松原、いい加減授業に集中しろ!!!」

「はーい、すいません!!!」

 再び、クラスで爆笑が起きた。

 もう、ほんと恥ずかしい……まあ、やっぱり黒田さんが笑ってくれてるからいいか、
 眼福、眼福! 

 本当に日曜日が楽しみだ!!! ワクワクが止まらない!

 どうでもいいけど眼福と蝙蝠って似てるよね!



「松原さっき何の妄想してたの? すっごい楽しそうだったけど?」

 今日は教科書を持ってきた阿部さんが聞いてくる。さすがにあの内容はいえない。

「いや、何でもないよ、ただの思い出し笑いだから!」

「えー、絶対なんかエッチな妄想してるときの顔だったけどなー! あ、エッチな妄想するのは良いけど私でするのはノーサンキューよ!」

「やらないよ……」

 そういうと阿部さんはケラケラと笑った。

 ☆
「で、お前はさっきなに考えてたわけ? また黒田さんの事? それとも⋯⋯?」
「しー、声がでかいよ、真斗……まあそんなとこだけど」

 昼休み、意外と大きな声で僕をからかってきた真斗を注意しながら卵焼きを口に運ぶ……やっぱり今日のやつ母さんが味付け失敗した様にしか思えない。

 そんなこんなで今日は教室でお昼ご飯を食べてのんびりしていると「おーい、伊織お客さんだぜ」とさっちんの呼ぶ声が聞こえる。
 お客さん、ってことなのでそっちの方へ行ってみる。

「ねえさっちん、お客さまってだれ?」
「誰ってもう、お前もすみに置けねえよな! 可愛い可愛いお前にお似合いのお客さんだぜ!」

 そう言ってニヤニヤ笑顔のさっちんに肩をポーンと押される。
 ちょ、え、何!

「先輩、大丈夫ですか!?」
 体勢を崩して、こけそうになった手を香菜ちゃんがとってくれた。

 なんだ、香菜ちゃんか……もっと普通に言えばいいものを。
「いやはや、お恥ずかしい……それで香菜ちゃんどうしたの?」
「はい! 少しお話したいなあ、なんて思いまして! ダメですか?」
「……僕ご飯食べてるし」
「もう食べ終わった、ってお顔に書いてありますよ」
「ぎくっ……わかった、いいよ。でもここはあれだから中庭かどっか行こ?」
「はい、先輩の仰せのままに!」
 そう言って敬礼をする香菜ちゃん。
 その笑顔には逆らえそうになかったので、そのまま中庭に行くことにした。


 ……伊織君、後輩ちゃんと一緒にどっか行っちゃたな。
 もしかして私との……ううん、大丈夫大丈夫、忘れてるはずないもん。絶対昨日約束したもん! 
 自分に気合を入れるために顔をポンポンたたく。

「それでね、また湊さんがね……あれ、あーちゃんどうしたの? 顔ちょっと赤いよ?」
 前に座るみーちゃんが聞いてくる。優しい。
「大丈夫、大丈夫。 ……そうだ、みーちゃん今日一緒に帰らない? 美味しい……」
「ごめん、今日わたし湊さんとデートなんだ!」
「……そっか」
「うん! あ、そうだ、それで湊さんがね……」
「……うん、そうだね」


 帰ってくると口笛を吹いた真斗がお迎えしてくれた。
「伊織、やっぱりお熱いねー、お似合いだねー! 後輩ちゃんに直々に呼ばれるなんて俺も憧れるわ!」
「……そんなんじゃないって。それにお前も昔はよくあったじゃん」
「またまたー、照れなくていいよ」
「だから本当に違うんだって……」
 本当は星月さんと付き合ってるから、って言う言葉が出そうになったけど、止められているのでぐっとこらえた。
 ……というか目も合わせてくれないの普通に悲しいな。
 いつもなら話しかけてきてくれるのに……僕から話しかけに行った方がいいかな?
 でも、黒田さんいるし……なんだか恥ずかしいな。



 ☆
「みーちゃん、伊織君と付き合うことが出来ました! ……怖かったから、みーちゃんの名前出しちゃったけど。偽装って言っちゃったけど」
「本当! あーちゃん勇気出したね、えらい! ここから本物になれるよ!名前使ったのは……許す!」
「ありがとう、みーちゃん……でも付き合ってるってまだ周りには言えない気がして。伊織君の迷惑になる気がするんだ……」
「……確かに伊織君結構イケイケ系の友達多いし! あーちゃんが彼女だとなんかふさわしくないって言うか、もっといい人いるって言うか、伊織君の邪魔して迷惑だ、って言う人もいるかも! それに後輩ちゃんってすごい可愛いくてお似合いな子もいるし!」
「そうだよね、伊織君には後輩ちゃんみたいなキラキラした根っこから明るい子の方がいいと思うし……でもねでもね、それの対策に日曜日デートに誘ったんだ!」
「そうなんだ! どこに誘ったの?」
「……それがね、私ちょっと勇気出なかったからみーちゃんのデートに付き添うって形にしたんだ。本当は地球館に誘いたかったけど……ごめんね、また巻き込むような形になって。でもみーちゃんの事もしっかり見たいから!」
「ふふふ、無問題よ、あーちゃん! じゃあ実質ダブルデートだね! よし、楽しもうね、あーちゃん!」
「うん! 楽しめたらいいね!」
 パンと手を打つとパタンとみーちゃんの写真立てがコケる。
「あ、ごめんみーちゃん、今直すから!」
 こけた写真立てを直して私は再び話し始める。
「大丈夫だよ、あーちゃん気にしなくて!」
「ありがとう、みーちゃんでもね……」

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