お薬いかがですか?

ほる

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第一章

9.

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マリールは自作の薬を却下され、しょんぼりと肩を落としていた。

アエラウェもバルドも、なんとかしてやりたいという気持ちはあるのだ。こんなに素晴らしい薬なのだから。薬だとばれないように、どうにかならないだろうか。

思考を巡らせていたアエラウェが、ぽつりと呟く。

「…薬として、売らなければ良いんじゃないかしら?」
「…?」

アエラウェの言葉に、マリールは首を傾げる。薬なのに薬としてではなく売るという事は、薬じゃないのに薬ということで。まるで、とんちのような言い回しに、マリールは目を回した。

「この国で薬を売るなら薬術士会に登録して販売許可を貰わなくてはならないけれど、薬ではなく只の食べ物として売るなら…あの厄介な薬術士会ではなくて、違う会から保証して貰えば…」
「飲食ギルドか。」
「でもさー、効果凄過ぎてすぐバレるんじゃない?」
「一番弱い効果の青いのでも、たった一粒で傷がたちまち塞がって痕が消えるし。それにマリーちゃんによれば、疲労回復もするんでしょ? あと精力増進だっけ?」
「うっかり重い病気なんて治ったら、薬術士会どころか教会まで出てきそー…」

「教会」という言葉にホビット達はぶるりと震え上がる。
教会は薬術士会よりもさらに厄介だ。この世界の宗教はたった一つ。どの国にもあって、どの権力も干渉を許さない。その教会の司教に言われれば、信者は狂信的に何でもする。それはもう、人攫いや人殺しも神の啓示だとでも言われれば、有り難がって遂行するのだ。そうして今まさに殺されようとしている者に対して、神罰に感謝しろとまで宣う。

「教会」の狂いっっぷりに怯えるホビット達に、アエラウェはキリリと表情を引き締め、力強くこう言い放った。

「気のせいで押しとおすのよ!」
「「「いやいやいやいや」」」
「そっか! 美味しいものを食べたら元気出ますもんね!!」
「いやいやいや、いや…うーん?」
「まあ食べて体力付ければ回復はするよな。」
「貴族でもなければ病気になっても「教会」の回復術士の治療受けられねーから、どんな病気かも解らないままだもんな。」
「それにね、薬術士の薬って魔力をコントロールしながら練りこませて作るのよ。このコントロールが難しいから飲食ギルドにレシピを登録したとして、それを他の人間が作っても、マリーちゃんの作った薬にはならないわ。草が入った、只の甘い飴ね。」
「なる程。飲食ギルドにレシピ登録されれば、レシピ発案人として名前は登録される。後に薬術士会や教会が奪おうとしても既に遅し、か…」

アエラウェの発案に、バルドもホビット達もなんだか上手く行くようなきがして来ていた。
同じようにマリールも、期待に目を輝かせる。

本来の目的である薬術士としての名前は、この国で轟かせる事が出来ないけれど、回復術士に頼れない人達を救う事は出来るかもしれない。
それならいいか、とマリールは思った。
それにこの国の嫌な薬術士達に、多少也とも一泡吹かせてやる事が出来そうな気がして、なんだかわくわくしている。

「…まあ、試しにやってみましょ。と、言ってもなかなかお客は来ないだろうけど…。この食堂をマリーちゃんの好きにしてくれていいわ。ね? バルド?」
「ああ。」
「はい! ありがとうございます!!」
「ん~! かわいいわぁ~!」

抱きしめようとするアエラウェに、またマリールを絞められては敵わないと、バルドはさっとマリールを抱き上げて躱した。

「んもぅ!!」と膨れるアエラウェと、嬉しそうにバルドの頭にしがみつくマリールを眺めながら、ホビット達は感心したように呟いた。

「…なんか、もうすっかり親子って感じ。」
「夫婦!」
「いやぁ、どうみても親子っしょ~。」
「夫婦!!」
「キングベアの親子も子供はちっこくて可愛いもんな~。」
「夫婦なの! ご飯作りませんよ!!」
「「「すみませんっした! 世界一の夫婦です!!」」」
「うふふ~ですって、旦那様!」
「ああ…。」

ご飯の一言で手の平をくるっと返すホビット達に満足して、マリールはバルドにすりすりと頬ずりをする。
ぷにぷにの柔らかいほっぺたが、鬼瓦のゴツゴツした肌で摩り下ろされないか心配である。

書類上だけとは言え夫婦となる事が決まり、反論出来なくなったバルドは、もうマリールに逆らう事はしない。無我の境地でマリールにすりすりされ続けるのであった。



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