魔法使いの弟子、のはず ~その依頼、魔法を使わず解決します~

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奇妙な城

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「ところで、ヒルデガルド様はどんなお仕事をされているんですか?」
「え?」

「お恥ずかしながら、ぼくは無学な平民なので、年頃で婚約者のいないご令嬢がどんな生活を送っているか知らないのです。大魔法使いである師匠を専属魔法使いに希望されるくらいなら、さぞ重要なポジションに着かれているのですよね。契約を検討するためにも、現在の肩書きと、一日のルーティンを教えていただけませんか?」

 なんということでしょう。パトリックに向かっていた刃が、いつの間にかギロチンになってヒルデガルドの頭上で光っています。
 ヒルデガルドに肩書きなんてありません。強いて言えば家事手伝い(ただし家事をしたことはない)です。
 一日のルーティンなんて、母や友人とお茶をして、買い物や観劇に行き、気まぐれで読書かピアノを弾くくらいです。
 パトリックに負けず劣らずのニート。それがヒルデガルドお嬢様なのです。
 それどころか浪費額と地位に見合わぬ態度の大きさを加味すれば、パトリック以下の無駄飯ぐらいなのです。

 本人がなんと言おうと、パトリックには領主の息子という将来性があり、ちゃんと婚約者もいます。
 軽い性格ですが、誰に対しても気さくで大らかなので、使用人や城下町の民には好かれています。

 それに比べてヒルデガルドは、地方の準貴族でしかないのに理想が高すぎて婚約者が決まらず、浮いた時間を奉仕活動に充てるどころか、周囲の人間を巻き込んで暇つぶしをしているだけなのです。
 しかしそんなことは口が裂けても言えません。
 騎士達は固唾を呑んで聞き耳を立てました。

「え? ええと、そうね。淑女の一日を言葉で説明するのは難しいわ。そこの騎士達のように毎日決まった仕事をするわけではないの」
「簡単にで構いませんよ。昨日はどんな一日でしたか?」
「黙秘権っ――じゃなくて、守秘義務よ! 家に不利益をもたらすわけにはいかないの。情報は使い方次第でいかようにもできるもの。だから、わたくしが言えることはなくてよ!」

 嘘をつかない絶妙な言い回しです。
 上手く逃げたヒルデガルドに、騎士達は感心しました。

「本当に頭の良い人は、相手の理解度に合わせて説明したり、家の不利にならないよう瞬時に情報を取捨選択できるものなんですが、お嬢様にはどちらもできないと。なるほど。難しいことを要求してしまってすみません」
「――っ! このっ――!」

 表情は殊勝ですが、言葉は滅茶苦茶好戦的です。
 貴族もかくやの言い回しで「馬鹿に期待しちまってスマン」と言われたヒルデガルドは、扇を投げつけたい衝動を必死で抑えました。

 両者の攻防を見守っていた騎士達はといえば、無表情の仮面の下で拍手喝采です。

 領主が所有する騎士団は、領地の治安維持、災害時の救助活動と復興支援、魔物(モンスター)退治が主な任務です。
 お嬢様のショッピングに同行して荷物持ちをしたり、お茶会の警備を命じられて「背は高いけど、顔がイマイチ」とか「将来ハゲそう」とか聞こえる距離でクスクス言われる謂れはないのです。
 特に後者が業腹で、騎士の間では「暇を持て余した女達の品評会」と言われて、指名された騎士に皆がカンパして奢るくらいです。
 まさかこんな形で、ヒルデガルドが痛恨の一撃を食らうとは思いませんでした。
 今日は美味い酒が飲めそうです。
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