怪談と私

甲(きのえ)

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TRICK&TREAT

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「悪戯かお菓子か!」

 パンプキンの被り物をした、僕と意同年代くらいの男の子は。元気にそんな事を言った。

 呼び鈴に胸を高鳴らせた僕は、大いにがっかりした。なぜなら、駅前の有名店にパンプキンケーキを買いに出かけた母の帰宅を願って扉を開けて、待ち人ではなかったのだから、どれだけがっかりしたのかは、推して知るべしだ。

 くうくうとかわいらしくお腹を鳴らしながら、とっておきのケーキを、首を長くして待っている僕に向かって、お菓子をよこせだなんて、無礼千万、言語道断というものである。

「悪戯かお菓子か!」と、カボチャ少年は繰り返した。

 眉間に皺を寄せ、唇をへの字に固く結び、右瞼がぴくぴくと痙攣している、見るからにアンタッチャブルな様子に気がつかないのは、彼があまりにも蒙昧であるためか、大物であるが故か、あるいはその両方か。

 とにかく、僕は大いに腹が立った。

 普段の僕は品行方正を絵に描いたような美少年であるという事を、ここで釈明させていただこう。

 しかし時として、空腹は賢者を荒くれ者へと変えてしまう。

 僕は怒りの矛先を、カボチャ少年に向けることに躊躇いなどなく、力の限りに彼を突き飛ばした。

 いきなりの攻撃の手に驚いた少年は、やや大げさすぎる仕草で転びながら、ポッケからたくさんの飴やチョコをばら撒いた。

 ここで止めておけば良いのに、むくむくと悪戯心が湧き上がってしまう辺りが、僕の短所でもあり、かつチャーミングな所でもあるんだな。

 そんなわけで、僕は彼が落としたチョコのひとつをつまみ上げ、目の役割をしているのであろうパンプキンの被り物の二つの穴に見せ付けるようにして、ひょいと口の中へ放り込んだ。

 そのチョコの甘美なることといったら!
 恥ずかしながらも体裁を忘れ、夢中になって貪り食べた。

 ばら撒かれたチョコの全部を胃の中におさめただけでは飽き足らず、僕はカボチャ少年をさらに突き飛ばし、さらなる甘味を求める修羅と化した。

 ああ、まるで恋する乙女の泪の結晶の如き輝かしい飴の、玄妙たる味わいよ!
 カカオの馥郁たる誘いの、なんと罪深きこと!
 ぱくぱく、がつがつ、むしゃむしゃ、ぺろりんちょ。

 ああ、なんて美味しい、と何度目かになる舌鼓を打とうとして、僕はようよう自分自身に大いなる異変が齎されている事に気づいた。

 まず紅葉のようにかわいらしかった両手が、はち切れんばかりに巨大になっていった。腕から肩にかけても同じく、忌々しくも図々しい脂肪という名の厄介者がのさばり始めた。触れてみると、両頬がぷるるんと揺れた。まるでプリンである。下半身もぶよぶよで、自重を支える事を放棄しており、立ち上がろうとしても、ぷるぷると小鹿のように震えるばかりである。

 混乱した。

 冷静沈着と名高い僕であっても、ここで平生と同じように振舞うのは無理の一言である。

 おまけに、穏やかでない事に、パトカーのサイレンが閑静な住宅街に響き、赤色ランプの明かりが我が家へと近づいてきた。

 僕は自分が勝手に人のお菓子を食べ、暴力まで振るった事を思い出し、すわ一大事と逃げだそうとしたものの、生憎と足はもう、働こうという気力さえないようだった。

「君を逮捕する」とパンプキンの被り物をした警察の人が言った。服装からすると、男性警官のようだ。被り物などして、浮かれすぎである。

 なんの悪い夢なんだ、と泣き出したくなった。

 でも、現実は無情である。
 宇宙人よろしく、僕はカボチャ警察官に両脇を固められ、パトカーへと連れ込まれた。
 そしてやってきたのは駅前の有名なケーキ屋であった。
 ここで僕はコックの服を着たカボチャ女に引き渡された。

 そこからの事はよく覚えていない。
 なにやら「最後のひとつよ」という陽気な声と、「あら、運がいいわね」という母の声が聞こえたような気がする。

 後は、かき混ぜられたり切られたり、捏ねられたり形をつけられたりと、阿鼻叫喚が繰り広げられたとだけ言っておこう。

 そんなわけで僕はすっかり変わった姿となって、再び我が家の門をくぐる事となった。
 なにしろほんの僅かの間に、ケーキにされてしまったのだから、とんでもない悪戯をされてしまったものである。

 母は陽気に鼻歌を歌いながら、僕の顔の形のケーキを取り分けて、カボチャ少年に渡した。

 カボチャ少年はけたけたと笑いながら、まるで僕のように振る舞い、むしゃりむしゃりとケーキ(僕)を食べていく。

 おいおい、悪戯だけじゃなくてお菓子まで食べるだなんて、ちょっと欲張りすぎてやいないかい?
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