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番外編

ドクタースライム

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「ん?何それ?」

 ウーナが常駐している医務室。その前を通りかかったついでに肩こり用の湿布をもらおうと私は入室した。部屋の中央にはタライが置かれており、その近くの椅子にウーナが座っていた。

「あら、魔勇者様。ちょうどよかったどすえ~」

 こちらに気づいたウーナは両手を合わせ、私の来訪を喜んだ。
「ちょうどよかったって…何が?」
「いや~、この前知り合いから珍しいものを譲ってもらいましてね~」
 タライを指さしながらウーナが言った。その珍しいものとはおそらくタライの中身だろう。
「珍しいもの?」
 タライに近づきながら私は尋ねた。その中は半透明の緑色の液体で満たされていた。そしてなんか磯臭い。
「…なんか、くっさいわね…」
「ま~、海の方で発見されたものらしいどすえ~」
 そう言いながらウーナは椅子とバスタオルを用意した。

「ちょっと足をつっこんでみるどすえ~」
「え?」
 この磯臭い液体は足を突っ込む必要があるらしい。めっちゃ不審な目で私は見た。
「心配無用どすえ~。別に害はないどすえ~」
「うーん…でも…」
「お願いどすえ~。入れてくれたらランチおごってあげますから~」
「ま、まぁ…しょうがないわね…」
 物は試しということで私は裸足になり、椅子に腰かけて液体の中に足を入れた。その感覚は冷たくぬるっとしていた。
「はうっ!?」
 液体に足を掴まれたかのような感触が走った。
「ちょ…何これ?」
「大丈夫どすえ~。そのままじっとするどすえ~」
「大丈夫って…どぁっ!」
 思わず変な声が出た。微弱な電流を流されているかのようにこそばゆい感覚だった。

 しばらくすると足を放されたかのように液体が緩んだ。おそるおそる足を上げるとなんか足がツルツルしていた。

「足が…きれいになってる…?」
「おお~、大成功どすえ~」
 拍手しながらウーナは喜んだ。
「で、結局これは何?」
「これは最近発見された新種のスライムどすえ~」
「新種?」
「そうどすえ~。元々スライムは身体から分泌される液体によって獲物を溶かす体質を持っているんどすえ~。溶かす獲物は肉体、金属、衣類だけなど種類によって異なるどすえ~」
 衣類だけって…。
「そして、このスライムは生物の排出物、つまり垢や角質だけを溶かすタイプなんどすえ~」
 元の世界にもドクターフィッシュというものがあったが、これはそれによく似ている。やったことはないけど。
「美肌効果やリラクゼーション効果があり、魔王様にも大好評なんどすえ~」
「魔王もやったのかよ!」
 なんかすごい光景ね。足がツルツルの魔王を想像すると変な気分になる。
「近々大浴場の一画にこれを設置してみようと思っているんどすえ~」
「そうなんだ…。でも磯臭いのはどうにかしてほしいわね…」
「そうですか~?まぁ、臭いの好みは種族によりますからね~」
 あぁ、そういえばこいつ鰻だったわね。そういうのは平気なほうか。
「でも、こういうのは女子に受けるでしょうね」
「そうでしょう~。バスタブに入れれば全身の垢も溶かしてくれるどすえ~。良かったらやってみるどすえ~」
「成人向けの展開になりそうだから遠慮しとくわ…」
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