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第四章
身体に異変
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炎に包まれた部屋には誰の遺体も残されていなかった。いまだに炎をくすぶらせている部屋の中央に静葉は立ち尽くしていた。彼女は手に持っていた本を炎の中に放り投げ、手のひらをじっと見つめた。
「…くそっ!」
静葉は近くの壁に思いきり拳を叩き付けた。
「…何をやってんのよ…私は…」
そこには目的を果たした達成感などありはしなかった。虚しさと悔しさが入り混じったような感覚が胸の中をぐるぐるしていた。
「まさか本当に皆殺しにするとはね…驚いたわ」
部屋の出入り口から顔をのぞかせたのはメイリスだった。彼女は首をへし折った兵士の身体を引きずりながら資料室にひょっこりと入室した。静葉はその様子を無感情な目で見ていた。
「いやぁ、あのタヌキ君えげつない爆弾作ったわねぇ。わずか二、三個で図書室が火の海よ。ゾンビじゃなかったら今頃一酸化炭素中毒になっていたわよ」
メイリスはカラカラと笑いながら話した。ちなみに静葉は黒い炎で身を守っているため、一酸化炭素中毒の心配はない。
「メイドさんから今連絡が入ったわ。外の制圧は完了したって」
メイリスの話によると、ヌコが城下町にある図書館を跡形もなく破壊。アウルが冒険者ギルドのゾート支部を制圧したとのことである。抵抗する者と怪しい者以外は全て何気なく港へ誘導し、国外へ逃亡させたらしい。これによってゾート王国の中心は事実上魔王軍の支配下に置かれたことになる。
「…少しは気が晴れた?」
メイリスは亡骸を部屋の隅に放り投げながら静葉に尋ねた。
「…何が?」
静葉は顔をしかめながら聞き返した。
「さっきしゃべってみてわかったのよ。なんだか機嫌が悪いなって」
「……」
「何に対して腹を立てているの?この国に?それとも――」
「うるさいっ!」
怒号が部屋中に響いた。メイリスはその勢いに思わず口を閉じた。
「そんなんじゃないわよ…私…は…?」
反論しようとしたその時だった。静葉は自分の心臓が突然跳ね上がるような感覚を覚えた。彼女はそれを沈めるように背中を丸め、自分の胸を両手で押さえた。
「…あ…熱い…」
胸の鼓動が早鐘のように騒いでいる。さらに、身体の内側から焼かれるように熱くなっていく。静葉の意思に反して黒い炎がじわじわと体外をくすぶっていた。
「ど…どうしたの…?」
メイリスはただならぬ様子を懸念して近づこうとした。しかし、静葉は手を振るってそれを拒んだ。
「来ない…で……あ…ああ……あああぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁアアアァァァァ!」
爆発するような衝撃が部屋中を駆け巡った。その衝撃から身を守るようにメイリスは両腕を交差させて顔面を覆った。
「な…何?」
衝撃が収まり、恐る恐る顔を上げるとメイリスはその光景に目を奪われた。彼女の目の前にいたのは全身に強力な黒い炎を身に纏い、息を荒くした人ならざる存在が佇んでいた。その髪は燃え尽きた灰のように白く、瞳は宝石のように赤い。その異形の姿を見てメイリスはある存在を思い出した。
「……魔人…?」
「…くそっ!」
静葉は近くの壁に思いきり拳を叩き付けた。
「…何をやってんのよ…私は…」
そこには目的を果たした達成感などありはしなかった。虚しさと悔しさが入り混じったような感覚が胸の中をぐるぐるしていた。
「まさか本当に皆殺しにするとはね…驚いたわ」
部屋の出入り口から顔をのぞかせたのはメイリスだった。彼女は首をへし折った兵士の身体を引きずりながら資料室にひょっこりと入室した。静葉はその様子を無感情な目で見ていた。
「いやぁ、あのタヌキ君えげつない爆弾作ったわねぇ。わずか二、三個で図書室が火の海よ。ゾンビじゃなかったら今頃一酸化炭素中毒になっていたわよ」
メイリスはカラカラと笑いながら話した。ちなみに静葉は黒い炎で身を守っているため、一酸化炭素中毒の心配はない。
「メイドさんから今連絡が入ったわ。外の制圧は完了したって」
メイリスの話によると、ヌコが城下町にある図書館を跡形もなく破壊。アウルが冒険者ギルドのゾート支部を制圧したとのことである。抵抗する者と怪しい者以外は全て何気なく港へ誘導し、国外へ逃亡させたらしい。これによってゾート王国の中心は事実上魔王軍の支配下に置かれたことになる。
「…少しは気が晴れた?」
メイリスは亡骸を部屋の隅に放り投げながら静葉に尋ねた。
「…何が?」
静葉は顔をしかめながら聞き返した。
「さっきしゃべってみてわかったのよ。なんだか機嫌が悪いなって」
「……」
「何に対して腹を立てているの?この国に?それとも――」
「うるさいっ!」
怒号が部屋中に響いた。メイリスはその勢いに思わず口を閉じた。
「そんなんじゃないわよ…私…は…?」
反論しようとしたその時だった。静葉は自分の心臓が突然跳ね上がるような感覚を覚えた。彼女はそれを沈めるように背中を丸め、自分の胸を両手で押さえた。
「…あ…熱い…」
胸の鼓動が早鐘のように騒いでいる。さらに、身体の内側から焼かれるように熱くなっていく。静葉の意思に反して黒い炎がじわじわと体外をくすぶっていた。
「ど…どうしたの…?」
メイリスはただならぬ様子を懸念して近づこうとした。しかし、静葉は手を振るってそれを拒んだ。
「来ない…で……あ…ああ……あああぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁアアアァァァァ!」
爆発するような衝撃が部屋中を駆け巡った。その衝撃から身を守るようにメイリスは両腕を交差させて顔面を覆った。
「な…何?」
衝撃が収まり、恐る恐る顔を上げるとメイリスはその光景に目を奪われた。彼女の目の前にいたのは全身に強力な黒い炎を身に纏い、息を荒くした人ならざる存在が佇んでいた。その髪は燃え尽きた灰のように白く、瞳は宝石のように赤い。その異形の姿を見てメイリスはある存在を思い出した。
「……魔人…?」
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