2 / 12
妖刀
2
スカウトされたとはいえ、就職活動だから九月だというのにネクタイにジャケット。しかも買ったばかりで動きづらい。
手紙に書かれた場所に行くと公民館みたいな大きな建物。そこがギルドだということは知っていた。人外の被害にあったら依頼する場所。
仕事が限定されている派遣会社のようなもので、国が人外の討伐を認めている。
退魔師ギルドはどこも『○○家』というように取り仕切っている家で呼ばれる。
自動ドアの前に立って見えたのは受付の中にいる若い男の人。椅子に座っている状態で右回り左回りと交互にくるくる回っている。
見られたら気まずいかなとは思ったけど、もう自動ドアが開いてしまった。仕方なく中に入る。
「あの、す」
「はーい、いらっしゃい。どうしました?」
男の人は正面を向いたタイミングで止まった。特になんとも思ってないみたい。サボってたわけじゃないのかな。
「すみません、すず」
「あー、はいはい。鈴木さんね」
身を乗り出して奥を指さす。けっこう背が高い。
「あそこ行って下さい。多目的ホールって書いてある所」
「多目的ホールですね。ありがとうございました」
「はーい」
体育館みたいな扉の上に「多目的ホール」と書かれたプレート。ここから入っていいのかな?
ノックしたら中から扉が開く。中はやっぱり体育館みたいになっている。
出て来たのはいかにも文系インドア派の大卒一年目みたいな人。受付と体育館にいる人を入れ替えたらすごくしっくりくる。いや、人を見た目で判断しちゃいけない。
「ど~も~。長門正純です~。どうぞ中へ。あ、靴は脱いで下さいね」
にこやかに言ってすぐに中へと戻っていくから、慌てて靴を脱いで揃えて追いかける。
長門さんは壁沿いに進んで少し荷物を広げてある場所まで行って振り向いた。
「まあ座って下さい」
長門さんも正座になるから俺も正座をする。
「まずこれが会員証ね」
いきなり保険証みたいなカードを渡された。さらに床に置いてある冊子を俺の前へと移動させていく。
「教本、寮の規則と鍵、業務用のスマホ」
それから壁に立て掛けてあった刀袋を俺が手で受け取るように差し出す。
「冴と呼んで下さい」
無意識に紐をほどいて刀を取り出す。汗が滲むのは残暑のせいじゃない。だめだと思いながらも自分の手にあることに興奮している。
「これって」
10歳の時にニュースで見たあの太刀だ。
「さすが。分かりました?
ちょっといわくつきです。でも退魔師の仕事をするうえでは心強い相棒になりますよ」
「そうじゃなくて!盗品ですよね?返さなくていいんですか?」
長門さんがあっさり頷く。
「面倒だから表向きはそういうことにしてあるだけです。名前も絶対に冴で通して下さい。
あとは相性ですね」
長門さんが両手で体育館の中央をさす。
俺は両手で示された辺りに立って太刀を鞘から抜いた。構えてみると体育館の違和感に気付く。
「斬って下さい」
長門さんの言葉に太刀を振り下ろしたら、間隔を置いて何枚も重ねたガラスが割れて行くような音がした。長門さんがそこそこ満足そうに俺に訊く。
「何枚かわかりますか?」
たぶん長門さんが置いたんだ。もう会員証貰ってるけど、これが採用試験なのかな?
「前は7枚割れて4枚残っています。それから俺の右側と後ろと上に一枚ずつ」
「オッケーでーす。15日にもう一度来て下さい。それまでに引っ越しを済ませて、これも全部読んどいて、あ、冴は常に持ち歩いて下さいね」
半ば追い出したいような空気の中でカバンに冊子を入れて、公民館のような建物を後にする。
そして寮に行ってみると普通のマンションだった。渡された紙に書いてある番号の部屋に鍵を差し込む。1LDKだ。
太刀は両腕に抱えたままで、就活用のカバンを床に置く。太刀をどこに降ろそうかと部屋を一周したけど決まらなくて、とりあえずもう一回ちゃんと見たくて寝室の真ん中で正座して取り出した。
きれいだ。いつまででも眺めていられる。
手紙に書かれた場所に行くと公民館みたいな大きな建物。そこがギルドだということは知っていた。人外の被害にあったら依頼する場所。
仕事が限定されている派遣会社のようなもので、国が人外の討伐を認めている。
退魔師ギルドはどこも『○○家』というように取り仕切っている家で呼ばれる。
自動ドアの前に立って見えたのは受付の中にいる若い男の人。椅子に座っている状態で右回り左回りと交互にくるくる回っている。
見られたら気まずいかなとは思ったけど、もう自動ドアが開いてしまった。仕方なく中に入る。
「あの、す」
「はーい、いらっしゃい。どうしました?」
男の人は正面を向いたタイミングで止まった。特になんとも思ってないみたい。サボってたわけじゃないのかな。
「すみません、すず」
「あー、はいはい。鈴木さんね」
身を乗り出して奥を指さす。けっこう背が高い。
「あそこ行って下さい。多目的ホールって書いてある所」
「多目的ホールですね。ありがとうございました」
「はーい」
体育館みたいな扉の上に「多目的ホール」と書かれたプレート。ここから入っていいのかな?
ノックしたら中から扉が開く。中はやっぱり体育館みたいになっている。
出て来たのはいかにも文系インドア派の大卒一年目みたいな人。受付と体育館にいる人を入れ替えたらすごくしっくりくる。いや、人を見た目で判断しちゃいけない。
「ど~も~。長門正純です~。どうぞ中へ。あ、靴は脱いで下さいね」
にこやかに言ってすぐに中へと戻っていくから、慌てて靴を脱いで揃えて追いかける。
長門さんは壁沿いに進んで少し荷物を広げてある場所まで行って振り向いた。
「まあ座って下さい」
長門さんも正座になるから俺も正座をする。
「まずこれが会員証ね」
いきなり保険証みたいなカードを渡された。さらに床に置いてある冊子を俺の前へと移動させていく。
「教本、寮の規則と鍵、業務用のスマホ」
それから壁に立て掛けてあった刀袋を俺が手で受け取るように差し出す。
「冴と呼んで下さい」
無意識に紐をほどいて刀を取り出す。汗が滲むのは残暑のせいじゃない。だめだと思いながらも自分の手にあることに興奮している。
「これって」
10歳の時にニュースで見たあの太刀だ。
「さすが。分かりました?
ちょっといわくつきです。でも退魔師の仕事をするうえでは心強い相棒になりますよ」
「そうじゃなくて!盗品ですよね?返さなくていいんですか?」
長門さんがあっさり頷く。
「面倒だから表向きはそういうことにしてあるだけです。名前も絶対に冴で通して下さい。
あとは相性ですね」
長門さんが両手で体育館の中央をさす。
俺は両手で示された辺りに立って太刀を鞘から抜いた。構えてみると体育館の違和感に気付く。
「斬って下さい」
長門さんの言葉に太刀を振り下ろしたら、間隔を置いて何枚も重ねたガラスが割れて行くような音がした。長門さんがそこそこ満足そうに俺に訊く。
「何枚かわかりますか?」
たぶん長門さんが置いたんだ。もう会員証貰ってるけど、これが採用試験なのかな?
「前は7枚割れて4枚残っています。それから俺の右側と後ろと上に一枚ずつ」
「オッケーでーす。15日にもう一度来て下さい。それまでに引っ越しを済ませて、これも全部読んどいて、あ、冴は常に持ち歩いて下さいね」
半ば追い出したいような空気の中でカバンに冊子を入れて、公民館のような建物を後にする。
そして寮に行ってみると普通のマンションだった。渡された紙に書いてある番号の部屋に鍵を差し込む。1LDKだ。
太刀は両腕に抱えたままで、就活用のカバンを床に置く。太刀をどこに降ろそうかと部屋を一周したけど決まらなくて、とりあえずもう一回ちゃんと見たくて寝室の真ん中で正座して取り出した。
きれいだ。いつまででも眺めていられる。
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科
空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する
高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体
それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった
至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する
意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク”
消える教師
山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。