妖刀

ritkun

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妖刀

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 スカウトされたとはいえ、就職活動だから九月だというのにネクタイにジャケット。しかも買ったばかりで動きづらい。

 手紙に書かれた場所に行くと公民館みたいな大きな建物。そこがギルドだということは知っていた。人外じんがいの被害にあったら依頼する場所。

 仕事が限定されている派遣会社のようなもので、国が人外じんがいの討伐を認めている。
 退魔師たいましギルドはどこも『○○家』というように取り仕切っている家で呼ばれる。

 自動ドアの前に立って見えたのは受付の中にいる若い男の人。椅子に座っている状態で右回り左回りと交互にくるくる回っている。

 見られたら気まずいかなとは思ったけど、もう自動ドアが開いてしまった。仕方なく中に入る。
「あの、す」
「はーい、いらっしゃい。どうしました?」

 男の人は正面を向いたタイミングで止まった。特になんとも思ってないみたい。サボってたわけじゃないのかな。
「すみません、すず」
「あー、はいはい。鈴木さんね」

 身を乗り出して奥を指さす。けっこう背が高い。
「あそこ行って下さい。多目的ホールって書いてある所」
「多目的ホールですね。ありがとうございました」
「はーい」

 体育館みたいな扉の上に「多目的ホール」と書かれたプレート。ここから入っていいのかな?
 ノックしたら中から扉が開く。中はやっぱり体育館みたいになっている。

 出て来たのはいかにも文系インドア派の大卒一年目みたいな人。受付と体育館にいる人を入れ替えたらすごくしっくりくる。いや、人を見た目で判断しちゃいけない。

「ど~も~。長門ながと正純まさずみです~。どうぞ中へ。あ、靴は脱いで下さいね」
 にこやかに言ってすぐに中へと戻っていくから、慌てて靴を脱いで揃えて追いかける。

 長門ながとさんは壁沿いに進んで少し荷物を広げてある場所まで行って振り向いた。
「まあ座って下さい」
 長門ながとさんも正座になるから俺も正座をする。

「まずこれが会員証ね」
 いきなり保険証みたいなカードを渡された。さらに床に置いてある冊子を俺の前へと移動させていく。
「教本、寮の規則と鍵、業務用のスマホ」

 それから壁に立て掛けてあった刀袋かたなぶくろを俺が手で受け取るように差し出す。
さえと呼んで下さい」

 無意識に紐をほどいて刀を取り出す。汗が滲むのは残暑のせいじゃない。だめだと思いながらも自分の手にあることに興奮している。

「これって」
 10歳の時にニュースで見たあの太刀だ。
「さすが。分かりました?
 ちょっといわくつきです。でも退魔師たいましの仕事をするうえでは心強い相棒になりますよ」
「そうじゃなくて!盗品ですよね?返さなくていいんですか?」

 長門ながとさんがあっさり頷く。
「面倒だから表向きはそういうことにしてあるだけです。名前も絶対にさえで通して下さい。
 あとは相性ですね」
 長門ながとさんが両手で体育館の中央をさす。

 俺は両手で示された辺りに立って太刀を鞘から抜いた。構えてみると体育館の違和感に気付く。
「斬って下さい」

 長門ながとさんの言葉に太刀を振り下ろしたら、間隔を置いて何枚も重ねたガラスが割れて行くような音がした。長門ながとさんがそこそこ満足そうに俺に訊く。
「何枚かわかりますか?」
 たぶん長門ながとさんが置いたんだ。もう会員証貰ってるけど、これが採用試験なのかな?
「前は7枚割れて4枚残っています。それから俺の右側と後ろと上に一枚ずつ」

「オッケーでーす。15日にもう一度来て下さい。それまでに引っ越しを済ませて、これも全部読んどいて、あ、さえは常に持ち歩いて下さいね」

 半ば追い出したいような空気の中でカバンに冊子を入れて、公民館のような建物を後にする。
 そして寮に行ってみると普通のマンションだった。渡された紙に書いてある番号の部屋に鍵を差し込む。1LDKだ。

 太刀は両腕に抱えたままで、就活用のカバンを床に置く。太刀をどこに降ろそうかと部屋を一周したけど決まらなくて、とりあえずもう一回ちゃんと見たくて寝室の真ん中で正座して取り出した。

 きれいだ。いつまででも眺めていられる。
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