妖刀

ritkun

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妖刀

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 外に出ると芝生が広がっていて、藤棚みたいな屋根の下にあるベンチに座っている長門ながとさん。手にはロングセラーのかき氷。

 芝生では真っ白い……犬?狼?が走り回っている。その子にはこの面積でも狭いみたい。全速力で端まで走ってドリフトでUターンしてまた全速力。

 俺に気付いて2メートルの距離まで走ってきた。後ろ脚は立っている状態で前足は伸ばして、数センチのジャンプを繰り返している。

 長門ながとさんが僕に向かってフリスビーと帽子を差し出した。
「遊んであげて下さい」
「この子は?」
「話ができる状態にして下さい。それから説明します」

 真っ白い子は俺に尻尾を向けていつでもフリスビーを追いかけられるとアピールしてくる。
 たくさん走れるように投げるには屋根の下にはいられない。ジャケットとさえをベンチに置いく。
「お借りします」
 帽子をかぶって芝生に出た。

 30分ほど経過。

 遊ぶのに夢中だけど舌が口の横から出てきたからお水をあげた。ひたすら飲んだ後また輝いた目で見つめてくる。

 更に30分ほど経過。

 休憩も入れて一時間くらい経った。爛々としていた目も少し落ち着いた。受け取ったフリスビーで注意を引いてベンチへと誘導する。
 長門ながとさんの前に立つと真っ白い子は俺の隣でお座りをした。

「お話というのは?」
「15日からでいいので、この子の面倒を見て下さい。建物の中に入るのを嫌がるのでここに通いで」

 俺が反応するよりも早く真っ白い子が突然バク宙をして、着地した時には生成りのパジャマを着た中学生くらいの男の子になっていた。パジャマはこの子には少し大きくて、お餅みたいな肌、真っ白い髪、水色の眼を余計可愛く見せる。

 こ、これが退魔師たいましの世界なのか。
 なんとか受け入れようとしている俺に男の子が横から抱きつく。
「平気!この人といたい!」
 長門ながとさんにそう言ったあと俺を見上げる。
「好き!」
 それだけ言って俺の腕というか胴体というか、横から抱きついたままで顔を埋めた。

 長門ながとさんは何も変わらない様子で話を進める。
「一緒に暮らせるならそれが一番です。じゃあこのまま連れ帰って下さい。今日は以上です」

「あの、この子は人狼ですか?」
「そうです」
「もう少し詳しい資料があれば頂けますか?先日の冊子には『狼になったり人間になったりする』としか書いてなかったので」
「だってそれ以上は書けませんもん。それぞれだから本人に聞いて下さい」

 中に戻ろうとした長門ながとさんがドアを開けて振り返る。
「そのフリスビーは差し上げます」
 にこやかにドアを閉められた。

 もう建物に入れない空気だから水道でフリスビーを洗ってカバンに入れた。完全に湿ったハンカチを仕方なくポケットに戻す。さえを持とうとしたら「私が流させたのではない汗をつけるな」と言われたからジャケットに包んで持つ。

「他の服装になれる?えっと、名前は?」
 男の子はなんでもないことのように答える。
「ずっとこの格好で閉じ込められてたから、この姿か元の姿にしかなれない。名前はないよ」

 だから建物に入るのが嫌なのかな?
「そっか。名前は後でちゃんと考えるとして、俺の部屋はこの建物より狭いよ?大丈夫?」
「平気!」
 また俺に抱きついて頬ずりをする。無理はしてないみたい。
「じゃあ元の姿に戻れる?」
「分かった!」
 言いながら俺から離れて、言い終わると同時にバク宙をした。

 汗だくで刀袋担いでパジャマの美少年を連れてたら通報されるって思って狼に戻ってもらったけど、距離も近いし田舎だから誰にも会わなかった。
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