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2.でもやっぱり奪う
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「少し臭うけど、贅沢は言えないわね」
野盗たちの衣服と所持品を漁り、ある程度準備を整えた。
彼らが持っていた地図を見て、大まかな現在地を確認する。
ここは聖都ヒュルッセルと王都ロートリンゲンを結ぶ街道から少し逸れた森の中だ。
聖都ヒュルッセル。
ついこの間までそこを中心に活動していたはずなのに、やけに懐かしく感じる。
「それで、ここがアジト、と」
地図に印が付けられていた場所。街道とは反対側の森の奥、彼らが現われた方角に拠点があるらしい。
このまま街に向かってもいいけど、この格好のまま人前に出るのははばかられるわね。
改めて自分が着ている服を見る。出来るだけ汚れていないものを選んだつもりだが、それでも所々に血が付いており、血生臭い。
衛兵に見咎められて問いただされた時、説明するのが難しい。
一回死んで、生き返ったら森にいて、男達に襲われたから返り討ちにして、その服を着ている、などと信じてくれるだろうか。
「はあ、面倒ね……」
今の私なら、衛兵に説明するより野盗をボコボコにするほうが簡単、か。
実は野盗のメンバーが彼らだけで、アジトはもぬけの殻、という都合のいい状況を期待して森の奥に歩いて行った。
腰に携えた2本の短剣は、仕事道具として得意にしていた得物だ。だいぶ品質は落ちるけど、丁度いい長さがあってよかった。
※
隠密の欠片も無い足跡だったので、辿るのは容易だった。
横穴と木を合体させた、文明を2段階ほど落としたような作りの建物が、そこにある。
だが案の定、しっかりと人員が残っていた。
建物とは言ったものの、壁はほぼ無いので人数の確認は楽だった。
男が8人。全員同じような恰好と装備。
女が居ればいいサイズの装備があると思ったんだけど、とことん期待を裏切ってくれる。
落胆による苛立ちを隠しながら、近くの茂みまで移動した。
茂みのそばを野盗の1人が通り過ぎたので、すかさず始末する。
口を押さえ付け、喉に短剣を捻じ込む。
口から洩れる唾液と血液が気色悪い。
ブチブチと繊維が切れる音とともに、短剣を持っている手首を捻ると、男はすぐに絶命した。
「……まだバレてないわよね」
彼らに気付いた様子はない。
だがそれも時間の問題だ、こういう仕事はリズムが大事なのだ。早すぎず、遅すぎず。恐れずチャンスを逃さない事を意識すれば、案外上手くいく。
一度死んだことと、万が一ばれても今の私なら何とかできるという自信が、冷静な暗殺者としての仮面をより刷新させた。
頭領が異変に気付いたのは、残り4人になってからだった。
「な、んだてめぇは!?」
「いや、いくら何でも不用心すぎ」
それが彼らと交わした最初で最後の会話になった。会話になっていたかは怪しいけど。
※
「んー、こんなもんかな」
コンパス、水筒、保存食、金銭、そして何より清潔な服。
白いシャツに黒いパンツ、若干ダボつくが紐で調節していい具合に仕上げた。
十分すぎる収穫だ。
アジト内を漁っていると、盗品と思われる貴重品をいくつか発見した。
でもどれも重い上に嵩張るものばかり、換金用に一番高そうな指輪だけ貰っていくことにしよう。
ふと貴重品の1つに鏡があることに気付き、私は何となく自分の顔を覗いてみて驚いた。
そこには別人かと見紛うほどに美しい女性が居たからだ。
以前の私はクマが張り付き、落ちくぼんだ目元、藁の様な髪にくすんだ肌。息をしていなければ死人と間違われるような、それが私だった。
だが鏡の中には、鋭い目つきこそ依然と変わらないものの、健康的な白さを取り戻し、特徴の赤い髪は香油でも塗っているかの様に手櫛が流れていく。
これが本来の私か。
しばらく見つめていたが、私は徐々に顔を曇らせていく。
今更取り戻したところでもう遅すぎる。
胸に沸き上がるのは、優越感でも満足感でもなく、ただの寂寥と不条理に対する怒りだけだ。
鏡の中の自分も物憂げな美人になっていって、余計に腹が立つ。
苛立ち交じりに丁度動きにくいと思っていたので、真紅の髪をバッサリと切る。
腰まであった髪を首が見える短さにそろえた後、私は鏡を叩き割って気持ちを切り替えた。
残りの貴重品は袋にまとめて地面に埋めた。
あとで衛兵に通報するか、黙って私の懐に入れるかはその時決めよう。
「それじゃ、帰りますか。聖都ヒュルッセルへ」
持ち物の詰まったナップサックを背負い、来た道を歩き出した。
野盗たちの衣服と所持品を漁り、ある程度準備を整えた。
彼らが持っていた地図を見て、大まかな現在地を確認する。
ここは聖都ヒュルッセルと王都ロートリンゲンを結ぶ街道から少し逸れた森の中だ。
聖都ヒュルッセル。
ついこの間までそこを中心に活動していたはずなのに、やけに懐かしく感じる。
「それで、ここがアジト、と」
地図に印が付けられていた場所。街道とは反対側の森の奥、彼らが現われた方角に拠点があるらしい。
このまま街に向かってもいいけど、この格好のまま人前に出るのははばかられるわね。
改めて自分が着ている服を見る。出来るだけ汚れていないものを選んだつもりだが、それでも所々に血が付いており、血生臭い。
衛兵に見咎められて問いただされた時、説明するのが難しい。
一回死んで、生き返ったら森にいて、男達に襲われたから返り討ちにして、その服を着ている、などと信じてくれるだろうか。
「はあ、面倒ね……」
今の私なら、衛兵に説明するより野盗をボコボコにするほうが簡単、か。
実は野盗のメンバーが彼らだけで、アジトはもぬけの殻、という都合のいい状況を期待して森の奥に歩いて行った。
腰に携えた2本の短剣は、仕事道具として得意にしていた得物だ。だいぶ品質は落ちるけど、丁度いい長さがあってよかった。
※
隠密の欠片も無い足跡だったので、辿るのは容易だった。
横穴と木を合体させた、文明を2段階ほど落としたような作りの建物が、そこにある。
だが案の定、しっかりと人員が残っていた。
建物とは言ったものの、壁はほぼ無いので人数の確認は楽だった。
男が8人。全員同じような恰好と装備。
女が居ればいいサイズの装備があると思ったんだけど、とことん期待を裏切ってくれる。
落胆による苛立ちを隠しながら、近くの茂みまで移動した。
茂みのそばを野盗の1人が通り過ぎたので、すかさず始末する。
口を押さえ付け、喉に短剣を捻じ込む。
口から洩れる唾液と血液が気色悪い。
ブチブチと繊維が切れる音とともに、短剣を持っている手首を捻ると、男はすぐに絶命した。
「……まだバレてないわよね」
彼らに気付いた様子はない。
だがそれも時間の問題だ、こういう仕事はリズムが大事なのだ。早すぎず、遅すぎず。恐れずチャンスを逃さない事を意識すれば、案外上手くいく。
一度死んだことと、万が一ばれても今の私なら何とかできるという自信が、冷静な暗殺者としての仮面をより刷新させた。
頭領が異変に気付いたのは、残り4人になってからだった。
「な、んだてめぇは!?」
「いや、いくら何でも不用心すぎ」
それが彼らと交わした最初で最後の会話になった。会話になっていたかは怪しいけど。
※
「んー、こんなもんかな」
コンパス、水筒、保存食、金銭、そして何より清潔な服。
白いシャツに黒いパンツ、若干ダボつくが紐で調節していい具合に仕上げた。
十分すぎる収穫だ。
アジト内を漁っていると、盗品と思われる貴重品をいくつか発見した。
でもどれも重い上に嵩張るものばかり、換金用に一番高そうな指輪だけ貰っていくことにしよう。
ふと貴重品の1つに鏡があることに気付き、私は何となく自分の顔を覗いてみて驚いた。
そこには別人かと見紛うほどに美しい女性が居たからだ。
以前の私はクマが張り付き、落ちくぼんだ目元、藁の様な髪にくすんだ肌。息をしていなければ死人と間違われるような、それが私だった。
だが鏡の中には、鋭い目つきこそ依然と変わらないものの、健康的な白さを取り戻し、特徴の赤い髪は香油でも塗っているかの様に手櫛が流れていく。
これが本来の私か。
しばらく見つめていたが、私は徐々に顔を曇らせていく。
今更取り戻したところでもう遅すぎる。
胸に沸き上がるのは、優越感でも満足感でもなく、ただの寂寥と不条理に対する怒りだけだ。
鏡の中の自分も物憂げな美人になっていって、余計に腹が立つ。
苛立ち交じりに丁度動きにくいと思っていたので、真紅の髪をバッサリと切る。
腰まであった髪を首が見える短さにそろえた後、私は鏡を叩き割って気持ちを切り替えた。
残りの貴重品は袋にまとめて地面に埋めた。
あとで衛兵に通報するか、黙って私の懐に入れるかはその時決めよう。
「それじゃ、帰りますか。聖都ヒュルッセルへ」
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