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第三話 剣の従者
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アイーシャが外に出ると魔導人形が剣を素振りしていた。
「何その……へっぴり腰」
力の入っていない、脚も腰もバラバラに動いているような、そんなひどい素振りだった。チャンバラをやっているその辺の子供の方がまだ堂に入っている。
「へっぴり腰なのか……よく分らないな」
魔導人形は腰に手を当て、ちょうどいい位置に決まらないとでも言うように押したり引いたりし始めた。
「……何か時間の無駄のような気がしてきたけど、一応行くわよ。あんたが駄目でも、茸狩ってこなきゃいけないのは変わらないからね。足引っ張んないでよ」
「足を……? そんなの引っ張らないよ」
このポンコツは慣用句が分からないのか? 言葉さえ怪しい。しかし相手するだけ無駄のようだった。こいつはポンコツだ。アイーシャは早々にこの魔導人形に見切りをつけ始めていた。
家から十分ほど歩き、山を登って森の中を進んでいく。道は整備はされていないが何度も人が通った踏み固められた獣道があり、アイーシャと魔導人形は邪魔をする草木をかき分けながら進んでいった。やがて足元がぬかるみ始め、足音が湿った音に変わっていく。アイーシャは構わずに進んでいくが、突然歩みを止めしゃがみ込む。
「何かあったのか?」
「しっ! 声を立てるな!」
魔導人形の問いかけに、アイーシャは小声で叱責を返す。魔導人形もアイーシャと同じようにしゃがみ込んだ。
「見なさいポンコツ。あれがお化け茸よ」
アイーシャが魔導人形を振り返って言う。指差す先には五十セントル程の高さの茸がいた。軸の部分が丸々と太く、傘は軸よりやや大きいくらいで、傘の中心は上に膨らむのではなく逆に下にへこんだような形をしていた。軸の下の部分は一部が裂けたようになり、それが脚になっていた。腕はなく、顔もついてはいない。
周囲を確認するとお化け茸は三匹いた。もっと大きな群れの時もあるが、ここは三匹だけのようだ。どのお化け茸もぬかるみの中をよちよちとした足取りで行ったり来たりしている。
「獲ってきなさい。剣で一突きすればいいわ」
「えっ、あれを仕留めるのか……」
魔導人形は困ったように顔をしかめた。魔導人形の顔の表面は皮製品のように少し硬そうだったが、表情で感情を察することが出来る程度には動いていた。
そんな表情を見せる魔導人形に、アイーシャは舌打ちを返した。
「言うんじゃないかと思ったけど……どうせ何か殺さなきゃ生きていけないのよ、私たちは。あんたは魔力だけでいいんでしょうけど」
「理屈は分かるが……分かった。やむを得ないな。茸を助けて、君が飢え死にするのでは困る」
「そうよ。主のために働きなさい。中心を狙うのよ。別に心臓がある訳じゃないけど、中心を貫くと即死する。こっちに気付いたらあいつらは走って逃げるけど、速くないから追いかけなさい」
「ああ……」
小さな声で魔導人形は答え、茂みの中を足音をひそめ進んでいく。お化け茸までの距離は十メットル程だったが、八メットル、五メットルと魔導人形は距離を詰めていく。お化け茸はまだ気付いていない。
お化け茸の一匹が気まぐれに歩く。ちょうど魔導人形の隠れている木の方で、魔導人形の間合いに入った。アイーシャはちゃんと魔導人形がうまくやれるか息をひそめ見つめていた。
お化け茸が立ち止まり、何かを探すように左右に首を振る。目がある訳ではないが、何らかの方法で周囲の状況を感じ取っているようだった。そしてすぐ近くの木の幹の裏に魔導人形がいたが、その事にお化け茸は気づいていないようだった。
魔導人形が動く。立ち上がり隠れていた姿を晒し、持っていた剣を振り下ろした。振りかぶったせいで切っ先が頭上の枝にぶつかり、勢いが落ち剣筋が逸れる。
一刀両断……とはいかず、剣は頭頂から体の三分の一程の所で止まった。そして魔導人形の襲撃を受けた他のお化け茸は逃げ出す。魔導人形の剣がめり込んでいるお化け茸も逃げようと暴れるが、魔導人形は剣で押さえようと力を入れ、徐々に剣がめり込んでいく。
「何やってんのよ、下手くそ! 突けって言ったでしょ! 何で斬ってんのよ!」
「す、すまない」
アイーシャの声に驚いたのか、斬られているお化け茸は大きく飛び跳ねた。その拍子に剣が外れぬかるみに倒れ込む。そして短い脚を必死に動かし逃げていく。
「ああ、もう! 私がやる!」
見かねたアイーシャは短刀を抜き、お化け茸を走って追いかけた。お化け茸も走っているが、いかんせん脚が短い。全速力でもたかが知れており、アイーシャはすぐに追いついた。そして短刀で背中から真ん中辺りを一突きにする。お化け茸は痙攣するように全身を震わせ、数秒で体から力が抜けぐったりとなった。
「あんたのせいで泥だらけよ! こんなの売り物にならない! まったく!」
お化け茸を短刀に刺したまま持ち上げ、アイーシャはその姿を魔導人形に見せた。ぬかるみに転んだせいでお化け茸の全身が泥にまみれていた。
「すまない。うまくやろうとしたんだが……」
「忍び寄るのはまあいいけど……剣の使い方がなってないわね……? あんた本当に戦士として作られたの? 別の用途じゃない?」
言いながらアイーシャはお化け茸の表面の泥を手で払い、汚れた表面を短刀で削いでいく。
「僕が何のために作られたかは……それも記憶にない。だが誰かに仕えていたのは間違いない。一緒に戦っていたような気がするんだが……」
魔導人形は剣を鞘に納め、気落ちしたように項垂れた。
「まあいいわ。次、行くわよ」
「続けるのか?」
「あったり前でしょ! 最低五匹よ! こういう湿地みたいな水分の多い所にいるから、その辺を探しなさい」
「分かった……」
その後もお化け茸狩りは続き五匹仕留め、全部で六匹のお化け茸を手に入れた。だが、魔導人形が仕留めたのは最後の一匹だけで、他の四匹は失敗し、結局アイーシャが仕留めることになった。
帰り道のアイーシャが不機嫌そうに眉間にしわを寄せていたのは、言うまでもないことだった。
「何その……へっぴり腰」
力の入っていない、脚も腰もバラバラに動いているような、そんなひどい素振りだった。チャンバラをやっているその辺の子供の方がまだ堂に入っている。
「へっぴり腰なのか……よく分らないな」
魔導人形は腰に手を当て、ちょうどいい位置に決まらないとでも言うように押したり引いたりし始めた。
「……何か時間の無駄のような気がしてきたけど、一応行くわよ。あんたが駄目でも、茸狩ってこなきゃいけないのは変わらないからね。足引っ張んないでよ」
「足を……? そんなの引っ張らないよ」
このポンコツは慣用句が分からないのか? 言葉さえ怪しい。しかし相手するだけ無駄のようだった。こいつはポンコツだ。アイーシャは早々にこの魔導人形に見切りをつけ始めていた。
家から十分ほど歩き、山を登って森の中を進んでいく。道は整備はされていないが何度も人が通った踏み固められた獣道があり、アイーシャと魔導人形は邪魔をする草木をかき分けながら進んでいった。やがて足元がぬかるみ始め、足音が湿った音に変わっていく。アイーシャは構わずに進んでいくが、突然歩みを止めしゃがみ込む。
「何かあったのか?」
「しっ! 声を立てるな!」
魔導人形の問いかけに、アイーシャは小声で叱責を返す。魔導人形もアイーシャと同じようにしゃがみ込んだ。
「見なさいポンコツ。あれがお化け茸よ」
アイーシャが魔導人形を振り返って言う。指差す先には五十セントル程の高さの茸がいた。軸の部分が丸々と太く、傘は軸よりやや大きいくらいで、傘の中心は上に膨らむのではなく逆に下にへこんだような形をしていた。軸の下の部分は一部が裂けたようになり、それが脚になっていた。腕はなく、顔もついてはいない。
周囲を確認するとお化け茸は三匹いた。もっと大きな群れの時もあるが、ここは三匹だけのようだ。どのお化け茸もぬかるみの中をよちよちとした足取りで行ったり来たりしている。
「獲ってきなさい。剣で一突きすればいいわ」
「えっ、あれを仕留めるのか……」
魔導人形は困ったように顔をしかめた。魔導人形の顔の表面は皮製品のように少し硬そうだったが、表情で感情を察することが出来る程度には動いていた。
そんな表情を見せる魔導人形に、アイーシャは舌打ちを返した。
「言うんじゃないかと思ったけど……どうせ何か殺さなきゃ生きていけないのよ、私たちは。あんたは魔力だけでいいんでしょうけど」
「理屈は分かるが……分かった。やむを得ないな。茸を助けて、君が飢え死にするのでは困る」
「そうよ。主のために働きなさい。中心を狙うのよ。別に心臓がある訳じゃないけど、中心を貫くと即死する。こっちに気付いたらあいつらは走って逃げるけど、速くないから追いかけなさい」
「ああ……」
小さな声で魔導人形は答え、茂みの中を足音をひそめ進んでいく。お化け茸までの距離は十メットル程だったが、八メットル、五メットルと魔導人形は距離を詰めていく。お化け茸はまだ気付いていない。
お化け茸の一匹が気まぐれに歩く。ちょうど魔導人形の隠れている木の方で、魔導人形の間合いに入った。アイーシャはちゃんと魔導人形がうまくやれるか息をひそめ見つめていた。
お化け茸が立ち止まり、何かを探すように左右に首を振る。目がある訳ではないが、何らかの方法で周囲の状況を感じ取っているようだった。そしてすぐ近くの木の幹の裏に魔導人形がいたが、その事にお化け茸は気づいていないようだった。
魔導人形が動く。立ち上がり隠れていた姿を晒し、持っていた剣を振り下ろした。振りかぶったせいで切っ先が頭上の枝にぶつかり、勢いが落ち剣筋が逸れる。
一刀両断……とはいかず、剣は頭頂から体の三分の一程の所で止まった。そして魔導人形の襲撃を受けた他のお化け茸は逃げ出す。魔導人形の剣がめり込んでいるお化け茸も逃げようと暴れるが、魔導人形は剣で押さえようと力を入れ、徐々に剣がめり込んでいく。
「何やってんのよ、下手くそ! 突けって言ったでしょ! 何で斬ってんのよ!」
「す、すまない」
アイーシャの声に驚いたのか、斬られているお化け茸は大きく飛び跳ねた。その拍子に剣が外れぬかるみに倒れ込む。そして短い脚を必死に動かし逃げていく。
「ああ、もう! 私がやる!」
見かねたアイーシャは短刀を抜き、お化け茸を走って追いかけた。お化け茸も走っているが、いかんせん脚が短い。全速力でもたかが知れており、アイーシャはすぐに追いついた。そして短刀で背中から真ん中辺りを一突きにする。お化け茸は痙攣するように全身を震わせ、数秒で体から力が抜けぐったりとなった。
「あんたのせいで泥だらけよ! こんなの売り物にならない! まったく!」
お化け茸を短刀に刺したまま持ち上げ、アイーシャはその姿を魔導人形に見せた。ぬかるみに転んだせいでお化け茸の全身が泥にまみれていた。
「すまない。うまくやろうとしたんだが……」
「忍び寄るのはまあいいけど……剣の使い方がなってないわね……? あんた本当に戦士として作られたの? 別の用途じゃない?」
言いながらアイーシャはお化け茸の表面の泥を手で払い、汚れた表面を短刀で削いでいく。
「僕が何のために作られたかは……それも記憶にない。だが誰かに仕えていたのは間違いない。一緒に戦っていたような気がするんだが……」
魔導人形は剣を鞘に納め、気落ちしたように項垂れた。
「まあいいわ。次、行くわよ」
「続けるのか?」
「あったり前でしょ! 最低五匹よ! こういう湿地みたいな水分の多い所にいるから、その辺を探しなさい」
「分かった……」
その後もお化け茸狩りは続き五匹仕留め、全部で六匹のお化け茸を手に入れた。だが、魔導人形が仕留めたのは最後の一匹だけで、他の四匹は失敗し、結局アイーシャが仕留めることになった。
帰り道のアイーシャが不機嫌そうに眉間にしわを寄せていたのは、言うまでもないことだった。
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