20 / 40
第五話 今日の稼ぎ
5-4
しおりを挟む
「しかし、今日のところはひとまず帰ろうか。その方がエルデンも安心するだろう」
ブレンにそう言われ、アイーシャは獲物が入った雑嚢を軽く振った。
「もうちょっと欲しいわね。無理はしたくないけど……お化け茸でもいいから、何かもうちょっと狩っていこう」
「そうか。お化け茸だと……ここから東の方が湿地だったな。そちらに行ってみるか」
ブレンの言葉に、アイーシャが驚いた顔を見せる。
「あんた、お化け茸の生息地を覚えたの?」
「一度行った場所は記憶できる。頭の中に地図みたいなのがあるんだ」
言いながらブレンは左手でこめかみのあたりを押さえた。
「へえ、魔導人形は便利なのね。あんたの言う通り東の方に湿地があるわ。行って――」
吠声が響いた。それほど遠くない場所で、何かが戦っているようだった。
「何だろう?」
ブレンが聞くと、アイーシャはしばらく耳を澄ませてから答えた。吠声は間断的に聞こえていた。
「狼……普通のじゃなく、多分暴れ狼の方ね。なにか捕まえたのかしら?」
「そいつらも狩りをしているというわけか。危険だな。やはり帰ろうか。暴れ狼は手強いんだろう?」
そう言い、いくらか真面目な顔をしてブレンはアイーシャを見る。
アイーシャは耳を左右に振って音や距離を確認しているようだった。ブレンの聴覚機能は南南西に約百メットルと判断していたが、方向に関してはアイーシャも南南西とみたらしい。そちらを睨んで考え込んでいるようだった。
「……行ってみましょう」
「本気か? 危険じゃないのか?」
「危険は危険だけど……食事中なら多少は気が緩んでいるはず。五頭程度の群れなら……一人だと無理だけど、あんたがいれば何とかなるわ」
「もっと多かったらどうするんだ? 囲まれたら危険だぞ」
「だから、言われなくても分かってるわよ! 私だって闇雲に近づく気はない。数が多いようなら引き返すわ」
「暴れ狼は金になる、ということか」
「そうよ。と言うか、金にはならないけど、暴れ狼は指定害獣だから特別に報奨金が出るのよ。耳か尻尾を交換所に持っていけば一つ一万ダーツ。五頭なら五万。悪くない儲けよ」
アイーシャは雑嚢を担ぎ、吠声のする方向へ歩き始めた。
「ほら! 何やってんのよ! 早くしないと獲物を持ってどっかに行っちゃう!」
ブレンは足を止めたまま、急かそうとするアイーシャを見ていた。
「僕はまだ、暴れ狼の危険度がどの程度かわからない。だから、君を守れるかどうかわからない」
「何言ってんのよ、狂い猪を倒したくせに! 狂い猪一頭で、ざっと暴れ狼五頭よ。戦力的にはね」
「ふむ。五頭だとすれば、あの時の狂い猪並ということか」
「だったら行けるでしょ? あんたの剣で五回斬ればいいだけよ! それが無理でも、今の私なら魔法をたくさん使える。あんたが狼を引き付けていれば、私は攻撃に専念できる。無理な戦いじゃないわ」
「一〇頭や二〇頭いたらどうするんだ? 僕はまだ自分の体を完全に扱えてはいない。こんな状態で、わざわざ危険な魔物を相手にすることは……危険だと思う」
「そんなこと言ってたら何にも出来ないわよ! やってみなきゃ、あんたの力だって戻るものも戻らないわよ!」
反論するブレンにアイーシャ苛立った声をぶつける。
「むう……しかし」
ブレンは煮えきらない様子でまだためらっているようだった。アイーシャはそんな様子に奇妙なものを感じた。
通常、魔導人形は人間に従順だ。聞いた話でしか無いが、基本的にはなんでも言うことを聞く。極端なことを言えば、自分を壊せといえば壊してしまうのだそうだ。従順と言うより自分を壊すと自分がどうなるのか理解をしていない……そういう面もあるそうだが、今のブレンは明確にアイーシャに反対の意思を表明している。
ますます変な魔導人形だ。アイーシャはそう思ったが、今はとにかく暴れ狼を逃したくなかった。
「しかしも案山子もないの! 行くわよ! ご主人様の命令!」
そう言ってアイーシャは草木をかき分けて森の奥へと進んでいった。ブレンはその背を見ていたが、アイーシャに遅れないように駆け出した。
ブレンにそう言われ、アイーシャは獲物が入った雑嚢を軽く振った。
「もうちょっと欲しいわね。無理はしたくないけど……お化け茸でもいいから、何かもうちょっと狩っていこう」
「そうか。お化け茸だと……ここから東の方が湿地だったな。そちらに行ってみるか」
ブレンの言葉に、アイーシャが驚いた顔を見せる。
「あんた、お化け茸の生息地を覚えたの?」
「一度行った場所は記憶できる。頭の中に地図みたいなのがあるんだ」
言いながらブレンは左手でこめかみのあたりを押さえた。
「へえ、魔導人形は便利なのね。あんたの言う通り東の方に湿地があるわ。行って――」
吠声が響いた。それほど遠くない場所で、何かが戦っているようだった。
「何だろう?」
ブレンが聞くと、アイーシャはしばらく耳を澄ませてから答えた。吠声は間断的に聞こえていた。
「狼……普通のじゃなく、多分暴れ狼の方ね。なにか捕まえたのかしら?」
「そいつらも狩りをしているというわけか。危険だな。やはり帰ろうか。暴れ狼は手強いんだろう?」
そう言い、いくらか真面目な顔をしてブレンはアイーシャを見る。
アイーシャは耳を左右に振って音や距離を確認しているようだった。ブレンの聴覚機能は南南西に約百メットルと判断していたが、方向に関してはアイーシャも南南西とみたらしい。そちらを睨んで考え込んでいるようだった。
「……行ってみましょう」
「本気か? 危険じゃないのか?」
「危険は危険だけど……食事中なら多少は気が緩んでいるはず。五頭程度の群れなら……一人だと無理だけど、あんたがいれば何とかなるわ」
「もっと多かったらどうするんだ? 囲まれたら危険だぞ」
「だから、言われなくても分かってるわよ! 私だって闇雲に近づく気はない。数が多いようなら引き返すわ」
「暴れ狼は金になる、ということか」
「そうよ。と言うか、金にはならないけど、暴れ狼は指定害獣だから特別に報奨金が出るのよ。耳か尻尾を交換所に持っていけば一つ一万ダーツ。五頭なら五万。悪くない儲けよ」
アイーシャは雑嚢を担ぎ、吠声のする方向へ歩き始めた。
「ほら! 何やってんのよ! 早くしないと獲物を持ってどっかに行っちゃう!」
ブレンは足を止めたまま、急かそうとするアイーシャを見ていた。
「僕はまだ、暴れ狼の危険度がどの程度かわからない。だから、君を守れるかどうかわからない」
「何言ってんのよ、狂い猪を倒したくせに! 狂い猪一頭で、ざっと暴れ狼五頭よ。戦力的にはね」
「ふむ。五頭だとすれば、あの時の狂い猪並ということか」
「だったら行けるでしょ? あんたの剣で五回斬ればいいだけよ! それが無理でも、今の私なら魔法をたくさん使える。あんたが狼を引き付けていれば、私は攻撃に専念できる。無理な戦いじゃないわ」
「一〇頭や二〇頭いたらどうするんだ? 僕はまだ自分の体を完全に扱えてはいない。こんな状態で、わざわざ危険な魔物を相手にすることは……危険だと思う」
「そんなこと言ってたら何にも出来ないわよ! やってみなきゃ、あんたの力だって戻るものも戻らないわよ!」
反論するブレンにアイーシャ苛立った声をぶつける。
「むう……しかし」
ブレンは煮えきらない様子でまだためらっているようだった。アイーシャはそんな様子に奇妙なものを感じた。
通常、魔導人形は人間に従順だ。聞いた話でしか無いが、基本的にはなんでも言うことを聞く。極端なことを言えば、自分を壊せといえば壊してしまうのだそうだ。従順と言うより自分を壊すと自分がどうなるのか理解をしていない……そういう面もあるそうだが、今のブレンは明確にアイーシャに反対の意思を表明している。
ますます変な魔導人形だ。アイーシャはそう思ったが、今はとにかく暴れ狼を逃したくなかった。
「しかしも案山子もないの! 行くわよ! ご主人様の命令!」
そう言ってアイーシャは草木をかき分けて森の奥へと進んでいった。ブレンはその背を見ていたが、アイーシャに遅れないように駆け出した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
天城の夢幻ダンジョン攻略と無限の神空間で超絶レベリング ~ガチャスキルに目覚めた俺は無職だけどダンジョンを攻略してトップの探索士を目指す~
仮実谷 望
ファンタジー
無職になってしまった摩廻天重郎はある日ガチャを引くスキルを得る。ガチャで得た鍛錬の神鍵で無限の神空間にたどり着く。そこで色々な異世界の住人との出会いもある。神空間で色んなユニットを配置できるようになり自分自身だけレベリングが可能になりどんどんレベルが上がっていく。可愛いヒロイン多数登場予定です。ガチャから出てくるユニットも可愛くて強いキャラが出てくる中、300年の時を生きる謎の少女が暗躍していた。ダンジョンが一般に知られるようになり動き出す政府の動向を観察しつつ我先へとダンジョンに入りたいと願う一般人たちを跳ね除けて天重郎はトップの探索士を目指して生きていく。次々と美少女の探索士が天重郎のところに集まってくる。天重郎は最強の探索士を目指していく。他の雑草のような奴らを跳ね除けて天重郎は最強への道を歩み続ける。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる