ふたつ目の僕

ちより

文字の大きさ
13 / 15

13.これが僕の答え

しおりを挟む

 いつのまにか雨は小雨になり、簡易テントの中で座って待つ。リュックの中には出来る限り長期戦でねばる準備をしてきた。

「すごいな」

「ジュースもあるよ」

「喉がかわいてたんだ。研究所ではジュースなんて出ないからな。これは……何味だ?」

 一口飲んだ翔は思った以上に甘い味に驚く。

「フルーツジュースだけど……」

「これが!? 甘すぎだろっ!! なんのフルーツが入ってるか分かんないぞ!!」

「そんなことないって!!」

「じゃあなんのフルーツが入ってるか、言ってみろよ」

「えーーっと、確かオレンジとバナナと、パイナップルは……入ってたっけ?」

「なんだよそれ、味で分かってるわけじゃないじゃないか!!」

「……っふ」

 2人で笑う。

 目的地に着いた安堵感もあって、大声で笑い合っていた。

「はぁ、こんなに笑ったのは久しぶりだ」

「僕は、初めてかも」

「なんか、歩ってどんな生活送ってきたんだよ。車の中の感じじゃ、父親とは仲良さそうだったぞ?」

「うん、親には感謝してるよ」

 そこから、お互いの話をする。この世界のこと。別の世界のこと。

「ふたつ目がいっぱいいるの?」

「違う、皆んなが2つなんだ」

「それじゃあ、どうやって自転車や車を運転するの?」

「それは……運転中はスマホ見ないんだよ」

「えっ!? 見ないの??」

「いや、本当はダメっていうか。見ながら運転しちゃうやつもいるけど…て」

「それは、事故にならない?」

「……なるな」

「翔の世界って、みんな死にたいの?」

「違うって!! いや、そうなのか?」

「なんだよ、それ」

「ははっ、本当だな」

「じゃあ、歩いている時は?」

「見てるな」

「ええっ!? 全員じゃないか!!」

「うーーん、やっぱり眼って必要?」

「くくっ、本当だ。じゃあ帰るのやめる?」

「俺は2つしかないから一緒だろ!!」

「そうだよね」

「…………」

 盛り上がっていた空気が終わり、肝心の話に触れる。

「……扉が開いたら、一緒にくるか?」

「…………」

「歩が来るなら、俺の家に一緒に住もうぜ。気を遣うなら、ばぁちゃん家に住んでもいい。もう使ってないから自由だぞ!!歩は頭がいいから、動画をアップして稼ぐ事もできるだろう?」

「…………」

「……嫌か?」

「もし、行けるなら……僕は普通になるのかな」

「そうだな、超普通だ」

「誰かに気持ち悪がられたり、変に気を遣われたりしない?」

「あぁっ!! 空気みたいな存在だ!!」

「友達も、出来るかな……」

「もう出来てるじゃん!!」

「そっか、僕は普通なんだ」

「おうっ!! って、歩……あれ……」

 雨が止んだ代わりに、急に温度が下がる。翔の指差した方向から、オーロラのような光が現れる。

「あれ、か?」

「こんな場所で、しかも目の前でオーロラなんてありえないよ」

「じゃあ、帰れるんだな!!」

 勢いよく立ち上がる翔に手を差し出される。

「行こう」

「…………」

「どうしたんだよ!? 行きたくないのか?」

「翔、ありがとう」

「? おうっ」

「だから、決められた」

「あぁっ、行こうぜ!!」

「翔がいるから、僕はもう大丈夫だ」

 何か言おうとする翔の背中を押す。

「歩っ!?」

「元気でな!!」


 僕はこの世界で生まれた。だから、ここで生きる。翔の言うとおり、方法を探せば、1人で生きていけるかもかもしれない。いつか、翔に会いに行ける装置も作れるかもしれない。


「翔ーーーーーーっ!! 僕は大丈夫だ!!」

 その瞬間、白いガスで辺りが覆われ、意識がとだえる。

「!?」






「前田歩、15才。異端者検査終了」

 男が茂みから防護マスクをして出てくる。その後ろには、両親が揃う。

「歩……」

 父が歩を抱えあげ、研究所の職員が担架を持ってくるのを待つ。母は眠っている姿に涙を浮かべ、男に確認する。

「それで……歩は手術を受けられるんでしょうか?」


「そうですね。とりあえずはこの世界を選んだようですし、システムダウンを企てた以外は他の者への危険行動もなしと判断していいでしょう。移植適合検査で心理面が心配でしたが……」

「ご両親の発言にはいくつか行きすぎた誘導があったようにも見えましたが、まぁ、元々過保護だったという点で不自然ではないでしょう」

 心理士が全ての会話にチェックをつけ、赤い線で歩が研究所へ行くのを意図的に避けさせようとしたと思われる箇所を抽出する。

「彼は知能が高い。かつてのふたつ目の人間のように、自己の利益を優先して動く脳だと判断されれば、研究所で隔離する予定でしたが、ぎりぎり及第点というところでしょう」


「良かったわ……」

「あぁ」

 安心する両親から歩を回収すると、研究所の車へと運ばれる。 

「君もご苦労だったな」

「はい」

 オーロラの光も全て消され、茂みに隠れていた翔が出てくる。

「移植相手と交流など前代未聞だが、なかなか悪くなかっただろう?」

「はい」

 翔の顔からは表情が消え、男の前で直立する。

「眼に異常はないか?」

「問題ありません」

「よしっ、撤収するぞ。野草も全て回収しろよ。今の生態系に影響が出ないよう全て片づけろ」

 男の指示に、大人数のスタッフが動く。

「さて、翔くん。君のその眼は前田歩の細胞から培養された大事なものだ。ご両親にもよく見せてあげなさい」

「はい」

 そう言って、車に乗る前に両親に眼を確認してもらう。

「……問題なさそうだな」

「これが、歩の眼……もう1つはスペアね。歩と同じ瞳だわ。ふふっ、こうやって見ると眼はあなたに似たのね」

「眼は息子のものから分化させたものだな?」

「当然です。息子さんの細胞から培養したものを、彼の目として機能テストさせたのですから、問題ありません」

「まさかこの子がロボットだなんて……信じられないわ」

「彼の感情や会話はすべて、息子さんを担当していた心理士監修のものです。身体に共通点を増やし、親近感をもたせたのも彼女のアイデアです」

「恐縮です。赤ちゃんの頃から歩くんを担当しておりますので、友達のプログラミングは難しくありません」

「そうですか……今後は本物の友達が出来るといいんですが……」

「眼を移植すれば、彼もようやく普通になれますよ」

「体重と体力はどうでしょう? 自分から運動を始めたので管理できなくて……」

「先ほどの声量からも、肺活量は手術に耐えられるかと。運動、体重面ともにクリアしていますよ。ははっ、友達の為に、息子さんはよくやりましたよ」



「それでは、我々も一度戻りましょうか」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アリアさんの幽閉教室

柚月しずく
児童書・童話
この学校には、ある噂が広まっていた。 「黒い手紙が届いたら、それはアリアさんからの招待状」 招かれた人は、夜の学校に閉じ込められて「恐怖の時間」を過ごすことになる……と。 招待状を受け取った人は、アリアさんから絶対に逃れられないらしい。 『恋の以心伝心ゲーム』 私たちならこんなの楽勝! 夜の学校に閉じ込められた杏樹と星七くん。 アリアさんによって開催されたのは以心伝心ゲーム。 心が通じ合っていれば簡単なはずなのに、なぜかうまくいかなくて……?? 『呪いの人形』 この人形、何度捨てても戻ってくる 体調が悪くなった陽菜は、原因が突然現れた人形のせいではないかと疑いはじめる。 人形の存在が恐ろしくなって捨てることにするが、ソレはまた家に現れた。 陽菜にずっと付き纏う理由とは――。 『恐怖の鬼ごっこ』 アリアさんに招待されたのは、美亜、梨々花、優斗。小さい頃から一緒にいる幼馴染の3人。 突如アリアさんに捕まってはいけない鬼ごっこがはじまるが、美亜が置いて行かれてしまう。 仲良し3人組の幼馴染に一体何があったのか。生き残るのは一体誰――? 『招かれざる人』 新聞部の七緒は、アリアさんの記事を書こうと自ら夜の学校に忍び込む。 アリアさんが見つからず意気消沈する中、代わりに現れたのは同じ新聞部の萌香だった。 強がっていたが、夜の学校に一人でいるのが怖かった七緒はホッと安心する。 しかしそこで待ち受けていたのは、予想しない出来事だった――。 ゾクッと怖くて、ハラハラドキドキ。 最後には、ゾッとするどんでん返しがあなたを待っている。

笑いの授業

ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。 文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。 それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。 伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。 追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。

6桁の数字と幻影ビルの金塊 〜化け猫ミッケと黒い天使2〜

ひろみ透夏
児童書・童話
ねこ目線のミステリー&ホラー&ファンタジー。知恵と根性だけでどうにかする少女《黒崎美玲》と化け猫《ミッケ》は、家出の途中で怪奇クラブ部長《綾小路薫》と遭遇。朝まで一緒に過ごす約束である場所へ向かった。それはある条件の夜にしか現れない幻影ビル。十億円以上の旧日本軍の金塊が隠されているという都市伝説のビルだった。足を踏み入れた二人と一匹。彼らの前に突如現れた男の正体と、怪奇的な6つの世界が混在する幻影ビルの真実とは……。戦後80年。昭和と令和のキャラが織りなす、現代の子どもたちに届けたい物語です。 ※ 演出上の理由により算用数字を使用しています。 ※ すでに完結済みですが、推敲しながら毎日1〜3話づつ投稿します。

その怪談、お姉ちゃんにまかせて

藤香いつき
児童書・童話
小学5年生の月森イチカは、怖がりな妹・ニコのために、学校でウワサされる怪談を解いてきた。 「その怪談、お姉ちゃんにまかせて」 そのせいで、いつのまにか『霊感少女』なんて呼ばれている。 そんな彼女の前に現れたのは、学校一の人気者——会長・氷室冬也。 「霊感少女イチカくん。学校の七不思議を、きみの力で解いてほしい」 怪談を信じないイチカは断るけれど……? イチカと冬也の小学生バディが挑む、謎とホラーに満ちた七不思議ミステリー!

【もふもふ手芸部】あみぐるみ作ってみる、だけのはずが勇者ってなんなの!?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 網浜ナオは勉強もスポーツも中の下で無難にこなす平凡な少年だ。今年はいよいよ最高学年になったのだが過去5年間で100点を取ったことも運動会で1等を取ったこともない。もちろん習字や美術で賞をもらったこともなかった。  しかしそんなナオでも一つだけ特技を持っていた。それは編み物、それもあみぐるみを作らせたらおそらく学校で一番、もちろん家庭科の先生よりもうまく作れることだった。友達がいないわけではないが、人に合わせるのが苦手なナオにとっては一人でできる趣味としてもいい気晴らしになっていた。  そんなナオがあみぐるみのメイキング動画を動画サイトへ投稿したり動画配信を始めたりしているうちに奇妙な場所へ迷い込んだ夢を見る。それは現実とは思えないが夢と言うには不思議な感覚で、沢山のぬいぐるみが暮らす『もふもふの国』という場所だった。  そのもふもふの国で、元同級生の丸川亜矢と出会いもふもふの国が滅亡の危機にあると聞かされる。実はその国の王女だと言う亜美の願いにより、もふもふの国を救うべく、ナオは立ち上がった。

【完結】またたく星空の下

mazecco
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 君とのきずな児童書賞 受賞作】 ※こちらはweb版(改稿前)です※ ※書籍版は『初恋×星空シンバル』と改題し、web版を大幅に改稿したものです※ ◇◇◇冴えない中学一年生の女の子の、部活×恋愛の青春物語◇◇◇ 主人公、海茅は、フルート志望で吹奏楽部に入部したのに、オーディションに落ちてパーカッションになってしまった。しかもコンクールでは地味なシンバルを担当することに。 クラスには馴染めないし、中学生活が全然楽しくない。 そんな中、海茅は一人の女性と一人の男の子と出会う。 シンバルと、絵が好きな男の子に恋に落ちる、小さなキュンとキュッが詰まった物語。

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

まぼろしのミッドナイトスクール

木野もくば
児童書・童話
深夜0時ちょうどに突然あらわれる不思議な学校。そこには、不思議な先生と生徒たちがいました。飼い猫との最後に後悔がある青年……。深い森の中で道に迷う少女……。人間に恋をした水の神さま……。それぞれの道に迷い、そして誰かと誰かの想いがつながったとき、暗闇の空に光る星くずの方から学校のチャイムが鳴り響いてくるのでした。

処理中です...