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近すぎる距離
しおりを挟む「なっ!?」
明らかに動揺しており、一瞬不快な目をする。すぐに作り笑いを浮かべているが、あれが本性だろう。
あぁ、思い出したわ。あの眼、最初で最後の舞踏会でずうずうしくも私に絡んできたわね。この私をエスコートするとか言い出したから、立場の違いを教えてあげたわね。
「いや、ハハ。聖女様も人が悪い……あの時は幼かったですから……記憶違いでしょう。僕は泣いてなどいませんよ。ほら、あの時いたもう1人の……オリバーと勘違いしているのですよ。いましたでしょう?? 空気を読めないやつが。彼はなんというか……あまりいい印象ではなかったですからね。その証拠に、あの後家からも見放されたのか、すぐに他国へ行ってしまったとか」
明らかに周りを意識している。聞いてもいないことをべらべらと。まぁ、公爵の跡取りが泣いたなんて言われたら、プライドが許さないわね。ずいぶん笑顔が引きつっているようだけど。
「あら、そうかしら……」
「ハハハ、そうですよ。それよりも……ずいぶんと僕たちも長いこと会えなかったわけですし、どうでしょう?? このあとゆっくりとお互い話しなど……」
さりげなく腰に手を回してくる。
その手、腕ごと無くしちゃってもいいかしら。いいえ、ここは2人きりになった後に存在そのものをこっそり消した方が……
「…………」
「失礼、聖女様が困っているだろう」
「なっ!?……っ!! いっ!! いててててて!!」
ヤナンの手が後ろにねじ曲げられ、すぐに引き離される。
「なんだ!? お前は!! 不敬だぞ」
「聖女様に許可なく触るお前はどうなんだ」
あら、分かっているじゃない。ここは、この男に合わせた方が良さそうね。
すぐにその男の後ろに隠れるようにまわり込む。
騒ぎを聞きつけ、ヤナンの父、公爵様がかけつける。
「なんだ!! この騒ぎは。ヤナン、まさか聖女様に何か粗相をしたわけではあるまいな!!」
「父上!? いえまさか!!」
あら、この光景なんだか懐かしいわね。思い出してきたわ。確かあの時もこうやって全員が親に怒られて……いえ、1人付き添人しかいないのがいたわね。
「聖女様、愚息が大変失礼致しました、このお詫びはまた後日……」
「父上っ!! 違います。騒ぎの原因は……この男によるものです。あろうことか公爵である僕の手を締め上げ、お前呼ばわりと。きっと聖女様を愚かにもそそのかそうと近付いてきたに違いありません……お前、僕を公爵と知っての行いか!! 身分の低い者が公爵家にはむかうなど、どうなるか分かっているんだろうな!!」
「公爵だ」
「はっ!?」
「だから、この俺も公爵だ」
「お前何言って!? この国の公爵家に僕以外の若い男は……」
「久しぶりの再会だというのに、ずいぶんとひどい言いようだな」
「っ!? まさか……あのオリバーか!? そんな、国外に追い出されたんじゃ……」
「父に頼み、長いこと鍛錬の旅に出ていただけだ。先日、成功した事業をいくつか持ち帰ったら家督を継ぐ話が出たところだから、まだ知らない人も多いがな」
「家督の話だと……」
ふーーん、長男とはいえ、公爵家には実力が求められるものね。もしも、跡継ぎとなる子が十分な資格を満たしていないと判断されれば、養子をとるくらいだから、この歳でその話が出ていないってことは、大分焦ってるわよね。さしずめ、私に近づいて一気に名誉回復しようと思っていたってところかしら。
どさくさに紛れてこの場を離れようと思っていると、オリバーが急にこちらを向く。
「??」
「…………」
「おい、僕を無視するんじゃない」
「…………」
ヤナンをそっちのけでこちらを黙って見ている。
何!? そもそもオリバーってこんなだったかしら……背は高くなっているのは当然として、なにか……筋肉かしら!? 服で覆われているけど、そこらへんの貴族の坊ちゃんの身体つきではないわね。ヤナンと比べても肩幅からして違うじゃない!!
「……………フッ」
「っ!?」
笑った!? 今、笑ったわよね!? まさか、私の視線に気づかれた!? ありえないわ。この私の視線に気づくなんて普通の人間に出来るはずないもの。
って、え……何!? なんで近づくわけ!? 近いわよ!!
「……聖女様、お誕生日お喜び申し上げます」
「っえ……えぇ。どうも……」
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