聖女に生まれた私は元魔王の娘でした 〜勇者との結婚は避けたいところです〜

ちより

文字の大きさ
32 / 51

ようこそジェダ国へ

しおりを挟む

 オリバーの用意した寝床のおかげで、地べたをはいずり回る虫の心配をせずに眠ることが出来た。

「んっ、もう少しで日が昇る頃ね」

 あいかわらず火の番をしていたのか、オリバーは焚き火の近くで休んでいる。もう少し寝かせてもいいだろうけど、暑くなる前に出発した方がいいわよね。

「オリバー、起き……」

 近づいてみると、リリアが側にいることに気づく。

 確か、昨夜はスープを飲んだ後にもう休むと言って先に寝ていたと思っていたんだけど……

「んっ……」

「あら、おはよう」

「あぁ、リア。おは……っ!?」

 一瞬、惚けたような笑みで挨拶を返そうとしたがすぐに自分の横でリリアが寝ていることに気づく。立ち上がるように勢いよく離れると、もたれかかっていた姿勢を崩したリリアも目を覚ます。

「きゃっ、ここは……あっ、オリバー様……と聖女様、おはようございます」

 ん? 変な間をおくのね。なんだかついでみたいな挨拶をされた気がするけど。

 オリバーは気づくとこちらにくっつくように立っている。それを見つめるリリアの目は笑っていないように見える。


「……あぁ」

「……木の幹で眠っていたんじゃなかったの?」

 別に気になったわけじゃないが、彼女が移動したことに気づかなかった。小娘の動く気配を感じとれないほど深い眠りについていたなんて、もう少し気を引き締めないといけないわね。

 オリバーが火の番をしてくれていることに気を許してしまっていたのだろうか。コードと山ごもりした時なんて、彼がこっそり用を足そうと立ち上がっただけですぐに目を覚ましていたっていうのに。

「えぇ。1人で寝ますとどうしても昨日の光景が頭をよぎりまして……ご迷惑かと思ったのですが、火のそばにいますと安心して、つい……」

「そう。でも寝ている彼に不用意に近づくのは危険よ。下手すれば寝ぼけて切られるかもしれないわよ」

 冗談だと思われたのか、リリアは少し驚いたように目を大きくしながらも、口元をおさえ笑っている。

「まぁ……ふふ、今度からは気をつけますわ」

「今日中にジェダ国に着けるはずだ……」

 残ったスープで簡単に食事を済ませると、荷物をまとめ、ジェダ国に向かって出発する。元々早足だったが、今日はいつもよりもかなり速い。まぁ、私はついていけるけど。

「ちょっ、ちょっと待ってください。砂に足を取られて、きゃあっ」

 まぁ、そうなるわよね。

「っうぅ、いたっ……」

 このまま泣かれても面倒ね。それに、怪我なんてさせたらお礼ももらえなくなっちゃうじゃない。

「ねぇ、オリバー。さすがにこのペースじゃ追いつかないんじゃない?」

「……あぁ」

 いや、動きなさいよ? 彼女と話すほどオリバーの態度が冷たくなる気がするのは気のせいだろうか。もしかして、この娘が好き、なの!? 前にコードが言っていたわ。人というのは思っている感情とは別の行動を取るものだって。そういえば、シシアに冷たくされているのは自分だけだって、なぜか自慢していたような。

「ねぇ」

 オリバーに小声で聞こえるよう近づく。

「っ!?」

 よく見れば顔が赤い。

「もしかして、照れてるの?」

「当たり前だろうっ……急に……何を……」

 やっぱりそうなのね!? 彼女に好意を持っているのね。でも、そんな態度じゃ逆効果じゃないかしら。オリバーの態度のせいであの娘の機嫌を損ねたら意味ないじゃない。

「昨日みたいに彼女を抱えてあげたら?」

「えっ」

 真っ赤だった表情からすぐに眉をひそめる。
 
「彼女、砂地に慣れていないみたいだし、このままだと今夜も野宿になるかもしれないわよ?」

「……いいのか?」

 もしかして私が歩くことに遠慮していたのかしら。問題ないって何度も言ってるじゃない。

「私は大丈夫って言ってるでしょう」

「…………」

 それ以上は何も言わず、座り込むリリアの方へ行くと、先に断りを入れ抱えあげる。

「ありがとうございます」

「…………」

 熱心に見つめるリリアとは異なり、オリバーの方は無言のようだが、これで今日中には入国出来そうだ。

 あら? さっきよりも歩調が少し緩くなったような気がするわね。あの娘を抱えたからかしら? まぁ歩調が合わせなくなって都合が良いけど。



「あっ、あれです。門番の方と先に話してきますわ」

 ほぼ休みなしで歩き、日が暮れる頃ようやくジェダ国にたどり着く。


「良かったわ、予定どおりね」

「そうだな」

 心なしかほっとしたような顔をしているところを見ると、やっぱり緊張していたのかしら? 昼食も携帯食をほぼ歩きながら食べた時には驚いたけど。まぁ、公爵だものね。やっぱり今日はベッドで横になりたいわよね。

 門番から入国書類をもらってきたリリアが笑顔で戻ってくる。

「お待たせしました。今日は遅いですし、是非うちに泊まっていってください」

「えぇ、お願いす……」

「いや、彼女は聖女様だ。先にこの国の司祭様と話をしに行く」

 えぇっ、明日でもいいじゃない……でも、確かジェダ国って大聖堂がある信仰の大きな国だったわよね。司祭の力は国王よりも強いって、コードが言ってた気がするわ。仕方ないわね、今夜はご馳走にありつけると思っていたんだけど……


「うふふ、でしたらなおさら我が家へいらっしゃる必要がありますわ」

 門番から連絡を受けたのか、馬車を率いた衛兵がやってくる。

「リリア様!! ご無事で何よりです。大司祭様がお待ちでございます」

「大司祭様?」

「えぇ、改めてご挨拶を。父に代わりまして歓迎致しますわ。ようこそジェダ国へ」

「あなたの父親って……」

「はい、ジェダ国大司祭である、ダウトン司教です」



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

王女様は聖女様?おてんば姫の大冒険~ペットのドラゴンが迷子なので冒険者になって探しに行きます!~

しましまにゃんこ
ファンタジー
アリシア王国の第3王女ティアラ姫には誰にも言えない秘密があった。 それは自分が全属性の魔力を持ち、最強のチート能力を持っていた「建国の賢者アリシア」の生まれ変わりであること! 8才の誕生日を境に前世の記憶を取り戻したものの、500年後に転生したことを知って慌てる。なぜなら死の直前、パートナーのドラゴンに必ず生まれ変わって会いにいくと約束したから。 どこにいてもきっとわかる!と豪語したものの、肝心のドラゴンの気配を感じることができない。全属性の魔力は受け継いだものの、かつての力に比べて圧倒的に弱くなっていたのだ! 「500年……長い。いや、でも、ドラゴンだし。きっと生きてる、よね?待ってて。約束通りきっと会いにいくから!」  かつての力を取り戻しつつ、チートな魔法で大活躍!愛する家族と優しい婚約者候補、可愛い獣人たちに囲まれた穏やかで平和な日々。 しかし、かつての母国が各国に向けて宣戦布告したことにより、少しずつ世界の平和が脅かされていく。 「今度こそ、私が世界を救って見せる!」 失われたドラゴンと世界の破滅を防ぐため、ティアラ姫の冒険の旅が今、始まる!   剣と魔法が織りなすファンタジーの世界で、アリシア王国第3王女として生まれ変わったかつての賢者が巻き起こす、愛と成長と冒険の物語です。 イケメン王子たちとの甘い恋の行方もお見逃しなく。 小説家になろう、カクヨムさま他サイトでも投稿しています。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

竜王に嫁いだら、推しの半竜皇子の継母になりました〜冷酷な夫には興味ありませんが、闇落ち予定の皇子は私が全力で幸せにします!〜

せりもも
恋愛
転生したのは、web小説の世界だった。物語が始まる前の時間、隣国の竜王へ嫁ぐ薄幸の王女、デジレに。 結婚相手である竜王ワッツァは、冷酷非道で人間を蔑む恐ろしい竜人だ。彼はデジレを、半竜(半分竜で半分人間)である息子の養育係としかみていない。けれどその息子バートラフこそ、前世の「わたし」の最オシだった。 この世界のバートラフはまだ5歳。懸命に悪ガキぶっているけど、なんてかわいいの!? 小説のバートラフは、闇落ちして仲間の騎士たちに殺されてしまうけど、そんな未来は、絶対に許さないんだから!  幼いバートラフに対する、愛情いっぱいの子育ての日々が始まる。やがて彼の成竜への通過儀礼を経て、父の竜王は、デジレに対して執着を見せ始める。 ところが、竜と人間の戦争が始まってしまう。おとなになったバートラフは人間側につき、聖女の騎士団に入った。彼は、父の竜王に刃を向けられるのか? そして、転生者デジレに与えられたスキル「プロットを破断する者」を、彼女はどう発動させるのか。

処理中です...