29 / 49
29.王族
しおりを挟む「大丈夫だから」
公爵の言葉で落ち着きを取り戻す。エスコートをしながら自然に守ってくれているのが分かる。
優しく振る舞ってくれていますが、いつもより真剣な眼差しですわ。
「カレン、すぐに侵入者について確認してくる。念のため、前回のこともあるから、部屋に護衛をつけるから安全な部屋で待っていてくれるか?」
「きっ、危険ではないですか?」
思わず公爵の服をつかむ。
「大丈夫だ。既に捕えているはずだから、目的を確認してくるだけだ」
「えっ、もうですか?」
「この屋敷に侵入してきた時点で見逃すようなことがあれば全員クビだ。二度も同じ失敗する無能を許すわけがないだろう?」
いつものように優しくほほえんでいるが、その笑顔がなぜか怖い。
「すぐに戻る」
「……分かりましたわ」
いつのまにか、屋敷の中には護衛が隊列をつくり、中に入ると同時にカレンの身の回りを固める。
「お部屋までご安心致します」
「えぇ、あの……ミク、侍女頭はどこに行ったのかしら?」
ヤドラさんがエル様やニーナさんと馬車で出ていったのなら、ミクリさんは開放されているはずですわ。
不審者と聞いた以上、途中からいなくなった侍女頭の安否も心配だ。
「すぐに呼びに行って参ります」
護衛の1人が席を立つ。心配ないという割には、部屋の中ですらおおがかりの警備体制だ。
状況を聞こうと、声をかけようとしたその時、侍女達の悲鳴と大声が聞こえてくる。
「何がっ!?」
「動かないでくださいませ。公爵様の命によりカレン様を部屋から出さないようにと仰せつかっておりますので」
でも、もしミクリだったら? 他の侍女達に危害がいっていたら?
このまま1人安全なところで待っているなんて出来ませんわ。
「……私も行きます」
「いえ、ですから……」
「カレン様っ!!」
ミクリが息を切らしたように部屋の中に入ってくる。
「っ!! 良かった。無事だったのですね。先ほどの悲鳴は一体……それに今までどこに……」
「申し訳ありません。旦那様の指示で一時的に身を隠しておりました」
「ウェイド様の?」
「はい。実は……」
「事情は僕から説明しよう」
「ウェイド様!!」
「言っただろう? 確認だけだからすぐに戻ってくると」
いつもと変わらない公爵の優しい表情に一気に緊張がとける。
「ご無事で良かったですわ。でも、先ほどの悲鳴は一体……」
「侍女の中に君の失脚を狙う不届き者がいたんだ」
「え?」
ミクリも下を向いて辛そうにしている。侍女頭として、自分を責めているのだろう。
「彼女からブラウン伯爵夫人の菓子に細工をした者がいる可能性があると相談があった」
「細工ですか?」
確かに、ニーナさんが苦しみ出した時、ヤドラ医師を呼びに行くのに侍女頭のミクリが直接動いたのには驚きましたが……
「侍女の中に犯人がいるかもしれない可能性がある以上、誰かを動かすよりも私が動き、そのまま旦那様にご報告に行っておりました」
護衛もいてその他大勢がいる中で私に直接危害を与える可能性は低いですものね。
「侍女頭は何かあった時戦力にはならないからな。その代わり、異変にいち早く気づき報告するよう任せている」
公爵は少し申し訳なさそうに謝る。
「それでも、君が1番頼りにしている者がいなくなって不安にさせてしまったな。すまなかった」
「いえ、公爵家であれば当然のことですわ。ですが、なぜニーナさんを狙ったのでしょうか」
リドル家の婚約者の座を狙うのならばカレンの口にするものに仕掛けをすれば良い。
「それは、本人達からあとで説明してもらおうか……」
「っ!!??」
ロープで縛られた侍女と気の弱そうな男が連れてこられる。
「あぁ、あとで行くからさっさと地下に……」
「お許しくださいっ!! 屋敷に入ったことは本当に申し訳ありませんっ、ですが……自分は本当にただの新聞記者でして……決して暗殺などと滅相なことをしようとしたわけでは!!」
「…………」
よく喋る自称新聞記事の男と、全く何も話そうとしない侍女。男の方は侍女が引き入れたとすればこの厳重な警備の中侵入出来たと分かる。だが、侍女は?
「あの、ウェイド様」
「ん? どうした?」
「リドル家の使用人は全て……」
「あぁ、必ず身元調査が入る。僕が直接引き抜いた者でもない限りはそれなりに身分が保証されているが、一部例外はある」
公爵は地下牢に連れていくよう命じ、そのまま全員を下がらせる。
「あの、大丈夫ですか?」
「身元調査を外すのは、僕が連れてきた者かあるいは、王家から紹介された者だけだ」
「っ!?」
「正確には、あの侍女は王族のダガレ殿下からの紹介で来た」
「それは……つまり」
「あぁ、君の身の安全を強化する必要があるな。それと、手段は選んでいられなくなった」
ダガレ殿下は現王の弟で、愛娘を溺愛していることで有名だ。そして、その娘であるアイリン殿下こそがウェイド公爵へ結婚をと噂が出ていた相手だ。
噂では、ウェイド様が権力を手に入れる為、王族側が公爵をコントロールする為にとアイリン殿下との縁談話が持ち上がりそうだと聞いたことがあった。だが、なかなか進まないこの話に、社交界ではもう1つの憶測が飛び交うようになった。
――ウェイド公爵には想い人がいる――
政略結婚が当たり前だった貴族同士の縁談の中で、エル・ニシェード・ブラン伯爵のように、恋愛結婚をする者も近年では出てきた。
通常は、そうした恋人を第2夫人として迎え入れる者がほとんどだが、王族が第2夫人などありえない。
――合理的なウェイド公爵らしからぬ行動だ――
そんな噂が大きく広がる前に、公爵として無難な結婚相手であるカレン侯爵令嬢が婚約に至ったのだ。
30
あなたにおすすめの小説
旦那様は離縁をお望みでしょうか
村上かおり
恋愛
ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。
けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。
バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。
忘れ去られた婚約者
かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』
甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。
レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。
恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。
サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!?
※他のサイトにも掲載しています。
毎日更新です。
これ以上私の心をかき乱さないで下さい
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。
そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。
そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが
“君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない”
そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。
そこでユーリを待っていたのは…
【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした
ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。
彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。
そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。
しかし、公爵にもディアにも秘密があった。
その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。
※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています
※表紙画像はAIで作成したものです
無関心夫の手を離した公爵夫人は、異国の地で運命の香りと出会う
佐原香奈
恋愛
建国祭の夜、冷徹な公爵セドリック・グランチェスターは、妻セレスティーヌを舞踏会に残し、早々に会場を後にした。
それが、必死に縋り付いていた妻が、手を離す決意をさせたとも知らず、夜中まで仕事のことしか考えていなかった。
セドリックが帰宅すると、屋敷に残されていたのは、一通の離縁届と脱ぎ捨てられた絹の靴。そして、彼女が置いていった嗅いだことのない白檀の香りだけだった。
すべてを捨てて貿易都市カリアへ渡った彼女は、名もなき調香師「セレス」として覚醒する。
一方、消えた妻を追うセドリックの手元に届いたのは、かつての冷たい香りとは似て非なる、温かな光を宿した白檀の香水。
「これは、彼女の復讐か、それとも再生か——」
執念に駆られ、見知らぬ地へ降り立った公爵が目にしたのは、異国の貿易王の隣で、誰よりも自由に、見たこともない笑顔で微笑む「他人」となった妻の姿だった。
誤字、修正漏れ教えてくださってありがとうございます!
そして鳥は戻ってくる
青波鳩子
恋愛
リネットの幼馴染ジョディーの家に、ジョディーより7か月だけ年下のクレイグという義理の弟がやってきた。
同じ伯爵家同士で家も隣、リネットはクレイグに恋をする。
3人での交流を重ねているうちに、クレイグがジョディーに向ける視線が熱を帯びていることにリネットは気づく。
そんな頃、ジョディーの誕生会の場でトラブルがあり、リネットはクレイグから自分へのマイナス感情を立ち聞きしてしまう。
その晩リネットは、裁ちばさみを握りしめて——。
*荒唐無稽の世界観で書いていますので、そのようにお読みいただければと思います。
*他のサイトでも公開します
*2026/2/26 番外編を追加でアップしました。リネットの父親視点です。
P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ
汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。
※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。
【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく
たまこ
恋愛
10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。
多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。
もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる