49 / 49
49.愛しています
しおりを挟む帰りの馬車で、拒否するアイリン殿下の意向に反し、陛下直々の治療の許可を取っているヤドラはそのまましばらく、裁判が無事に終わるまで王都に留まることになった。
本人はかなり落ち込んでいたが、月に一度、公爵の診察をすることを条件にしぶしぶ納得した。
「ウェイド様、やはりヤドラにもう一度診てもらった方が……」
「表面をかすっただけだと言っていただろう。心配ない」
「ですが……」
「うーーん、そうだな。少し横になってもいいか?」
「もちろん、でっ……っ!?」
カレンの膝枕に横になると、少し意地悪そうにこちらを見る。
「夫婦も同然なのだから、構わないだろう?」
「そっ、そうですが……人目が……」
「馬車の中は見えないだろう。それに、少ししたら皆の前で見せつけるのだから問題ない」
「見せつけるっですか!?」
「ははっ、領地中をパレードするのだからな」
「……何日もかかりそうですわ」
「ドレスならいくらでも用意したのがある」
「……そうですね。その時は、私の実家の皆も招待したいですわ」
置いてきた侍女達や母親のことが気になっていた。
「あぁ。君の父上にも、この幸せそうな姿を見せなければ面目立たないからな」
「お父様ですか?」
「……君を幸せにして欲しいと、結納金を待っていった日に頭を下げられたんだ。自分は出来なかったからとな」
「…………」
「だから、とびきりのご馳走も用意しよう。大聖堂ではなく、君の両親の前でも誓いたい」
「…………はい。そういえば、ウェイド様のご両親は?」
「当主の座を交換してすぐに2人とも旅行に行っているよ。それこそ、羽を伸ばしているみたいだ」
「ふふっ、ウェイド様」
「どうした?」
「愛していますわ」
「っ!?」
膝枕で無防備になる公爵の唇を奪う。
「それはずるいな」
身体を起こした公爵におでこがくっつくほどの至近距離でささやかれる。
「カレン」
「はい」
「わざと殿下を挑発したのだろう?」
「……それは」
あの時、アイリン殿下のアザを止める為には公爵を諦めてもらうしかないと思った。だが、いくら綺麗事を言っても、聞いてくれるわけがない。もし、自分が傷つけば、殿下の暴走の証拠になるだけでなく、ウェイド公爵が怒ってくれるだろうとふんでいた。
ウェイド様が本気で怒れば、きっと殿下も少しはしおらしくなるかもしれないって思っていたのですけど……まさかご自身が盾になられるなんて。
「言っただろう? 何があっても君を守るって」
今度は指輪にそっと口づけをしながらカレンを見る。
「~~~~っ」
「もう自分を犠牲にしようと考えないと約束してくれ」
「ウェイド様」
「ん?」
「すみませんでした」
「いいんだ」
愛しい。気持ちが止まらなくなるのが分かる。穏やかな時間のはずなのに、心臓がどんどん暴れ出しそうになる。
どうしましょう……先ほどキスなんて大胆なことをしたばかりですのに、もっと触りたいだなんて……私ってばなんて破廉恥な……
「あぁ、そういえば」
「なっ、なんですか?」
「ヤドラが毎月王都に来る時にはミクリを連れてくるようにと指名していたな」
「ふふ、そうなんですか」
「どうやら医療班にスカウトしようとしているのだろうが、彼女は優秀な侍女頭だからな。連れてくるが医療班には寝返らないと言っているんだが……」
「そうかもしれませんが、ミクリも王都行きは喜ぶかと」
「どうしてだ?」
「あのお屋敷。彼女もファンになったはずですから」
正確には、あの素晴らしい使用人の師匠とも呼べそうな彼女のだが、公爵は確かにと納得している。
「なるほど。君は……どうだ?」
「もちろん、私もファンになりましたわ」
「では問題ないな。次は一緒に風呂にでも入ろうか」
「もちろ……一緒に、ですか?」
「そこが売りの1つだぞ」
「わ、分かりましたわ。お背中お流し致します」
「楽しみが増えたな」
機嫌良く膝枕に再度横になる。
「ファンといえば……君が言っていた推しは誰のことなんだ?」
「推しのことご存知なのですか?」
「知ってるも何も、新事業として投資しているんだから当然だろう? 今までは貴族から容姿の優れた者や、歌や芸術に秀でた者を対象に演劇を扱っていたが、僕は身分を問わず才能ある者に新しく門戸を開くべきだと思っている。たとえ子どもでもね」
「……もしかして、パーティのあの子どももですか?」
「彼女は孤児院から引き抜いた1人だよ。本当は泣いたふりをしてエル伯爵をあの場から遠ざけるだけだったんだが……思ったより彼は強情で引き止めるのに苦労したらしいが」
「あんな……小さな子がですか……」
「カレン、彼女たちの生活はひどいものなんだ。仕事なんて、特に女性はほとんど選択肢がない。本来は親御さんの許可や働く時間も考慮していかなければならないから。新事業としては課題も多いがな」
生活の苦しさは知っているつもりだが、孤児達とは比べものにならない。公爵がやろうとしていることは、身分関係なく自分の才能を発揮、豊かな生活を送れるチャンスなのかもしれない。
「……もしかして、ゼビオ様やロゼ様、ユア様とかいらっしゃいますか?」
名前を聞くと公爵は勢いよく起き上がる。
「君の推しは、まさか彼らか!? 長く慕っているなら……まさかゼビオ? あいつは……確かに性格もいいが……」
「ふふっ、違いますわ……私の推し、知りたいですか?」
「……いや、やはりいい」
「っ!?」
今度は公爵から唇を重ねてくる。
「誰にも譲る気はないからな」
「……大丈夫ですわ」
後に、リドル家が投資した新事業は貧しい生活から抜け出せる新たな選択肢として国外からも注目を集めるようになる。また、アイリン殿下は国外追放が決まり、2度と帰還が許されない判決が言い渡された。
「カレン、来月久しぶりに王都へ行くかい?」
「まぁ、是非行きたいですけど……でも、急では?」
「あの2人が第2土曜日を埋めるわけがないだろう。行くと決まっていないというのに、いつでもこの日は空けておくと譲らんからな。ヤドラなど、もう専属医じゃないというのに、いまだに僕の健康状態を管理したがるからな……」
「ふふふ、2人の休日になっているのかもしれませんわね。今では国外からも王族クラスがよく泊まりにくる人気ぶりですし」
「久しぶりにブラン侯爵家も誘ってはどうだい? たまには妻と2人きりで子育てから息抜きをしたいと嘆いていたぞ」
「そうですね……でも、やっぱりまた次の機会にした方がいいかと。数時間馬車に乗るのは、まだ不安定ですから……」
「体調でも悪いのか?」
「ふふっ」
「?」
「ヤドラとミクリが長期休業すると言わなければ良いですが」
そう言ってお腹を優しくなでる。
「っ!? まさか?」
「はい。王都に行くのは当分先になりそうですわ」
「……そうか!! ええと、どうしたら!? とりあえず医者を!! それとお湯か!?」
「まだ産まれませんわ。ふふっ」
「なるほど、ではとりあえず安静にだな!?」
「きゃあ!? ウェイド様??」
「確かに重くなったような……」
「まだ体重は変わりません!!」
「……守る存在が増えるんだからな」
公爵の手が震えているのが分かる。
「1人じゃありませんわ。一緒に、ですわ」
「そうだな」
「ウェイド様」
「ん?」
「愛してますわ」
「また、そんな不意打ち……」
85
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
旦那様は離縁をお望みでしょうか
村上かおり
恋愛
ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。
けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。
バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。
忘れ去られた婚約者
かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』
甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。
レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。
恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。
サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!?
※他のサイトにも掲載しています。
毎日更新です。
これ以上私の心をかき乱さないで下さい
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。
そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。
そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが
“君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない”
そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。
そこでユーリを待っていたのは…
【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした
ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。
彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。
そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。
しかし、公爵にもディアにも秘密があった。
その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。
※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています
※表紙画像はAIで作成したものです
無関心夫の手を離した公爵夫人は、異国の地で運命の香りと出会う
佐原香奈
恋愛
建国祭の夜、冷徹な公爵セドリック・グランチェスターは、妻セレスティーヌを舞踏会に残し、早々に会場を後にした。
それが、必死に縋り付いていた妻が、手を離す決意をさせたとも知らず、夜中まで仕事のことしか考えていなかった。
セドリックが帰宅すると、屋敷に残されていたのは、一通の離縁届と脱ぎ捨てられた絹の靴。そして、彼女が置いていった嗅いだことのない白檀の香りだけだった。
すべてを捨てて貿易都市カリアへ渡った彼女は、名もなき調香師「セレス」として覚醒する。
一方、消えた妻を追うセドリックの手元に届いたのは、かつての冷たい香りとは似て非なる、温かな光を宿した白檀の香水。
「これは、彼女の復讐か、それとも再生か——」
執念に駆られ、見知らぬ地へ降り立った公爵が目にしたのは、異国の貿易王の隣で、誰よりも自由に、見たこともない笑顔で微笑む「他人」となった妻の姿だった。
誤字、修正漏れ教えてくださってありがとうございます!
そして鳥は戻ってくる
青波鳩子
恋愛
リネットの幼馴染ジョディーの家に、ジョディーより7か月だけ年下のクレイグという義理の弟がやってきた。
同じ伯爵家同士で家も隣、リネットはクレイグに恋をする。
3人での交流を重ねているうちに、クレイグがジョディーに向ける視線が熱を帯びていることにリネットは気づく。
そんな頃、ジョディーの誕生会の場でトラブルがあり、リネットはクレイグから自分へのマイナス感情を立ち聞きしてしまう。
その晩リネットは、裁ちばさみを握りしめて——。
*荒唐無稽の世界観で書いていますので、そのようにお読みいただければと思います。
*他のサイトでも公開します
*2026/2/26 番外編を追加でアップしました。リネットの父親視点です。
P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ
汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。
※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。
【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく
たまこ
恋愛
10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。
多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。
もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
侍女頭はミクリなの?ミリアなの?それとも2人いるの?混乱して内容が頭に入ってこなかった