大人のためのファンタジア

深水 酉

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第3部 第一章

8 とかげとごはん

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 「簡単なもの」と言っていたのにやたら細かい注文が入り、厨房係のロッタさんは眉間に皺を寄せ悪戦苦闘していた。
「辛味は抜け」「臭いのも論外」「繊維は断て」「骨は外せ」「喉越しが良くて」「程よく硬さもあって」「二、三品作れ」「火入れはもちろん」「日持ちのするもの」
 メモを片手にロッタの頭の中はぐるぐると絡み合う。
 「細かいなぁ」とぼやくものなら、とかげの睨みと舌打ちが降り注いでくる。
 「だってさあ…」
 何を作ればとか言ってくれたら、メニューを考える手間も少しは省けるのにとぼやく。
 「酒はいつものでいい」
 「あ、はぁ。…どうもです」
 そっちじゃなくてさ。ああもう仕方ないなあ!ちょっと待っててくださいとロッタは頭をかきむしりながら厨房に入って行った。
 「あの坊主の飯はうまいんだ」と、とかげはフンッと自慢げに鼻を鳴らした。
 「ドエドには出せない味なんだよ」
 「そうなんですか?」
 「ドエドは切って焼いてドーンてな感じだろう。まあ、それでいい時もあるが、あやつは繊細な味付けをする。酒にも良く合う」
 お気に入りはミンチにした肉の中に香草を散らして成型して焼いたもの。味付けは塩胡椒のみのシンプルなものだが、香草で肉の旨味を引き出し、焦げ目が着くまで焼くとジューシーな油が出る。腸詰にして茹でたり、団子状にして汁物に入れたり。パンに挟んで食うのもよし。酒にも合う。
 海がある町で肉料理は大変珍しく、なかなか出てこない。キアもなかなか食べる機会がない。無意識に唾を飲み込んだ。
 「とにかく肉だ」
 滋養のあるものを食わせたい。とかげは前足の爪先をべろりと舐めた。
 「娘さんはお体はどうかしたのですか?ご病気か何か」
 「ただの湯当たりだが、怠くて動けないとさ」
 「湯当たり…。温泉地でのぼせてしまったんですね」
 「まあな。最初のうちは気持ちよかったんだが、慣れてくると油断がでたな。元々砂漠のあった土地で熱い風呂など地獄のようだからな」
 今日行こうとしていた場所だ。地熱を使って風呂を沸かしたり、料理を作ったりしてるという。マヌエラさんは足湯を推していた。
 そういえば、シャドウさんが会って話を聞きたい人がいると言っていた。それはこの人のことだろうか。できたら会いたくないとも言っていた。くせの強さに頭を抱えている姿が目に浮かぶ。
 キアはちらっととかげを見た。
 「おまえ。届けてくれるか?」
 「私ですか?」
 「そうだ。こんなところで突っ伏してるより、うちに来い。ここはマヌエラの声がうるさくて敵わない」
 とかげの口がへの字に曲がる。大きな瞳もジト目になり、冷ややかに笑った。
 「あたしも酒は飲むがヤツのように飲まれることはない。興が乗ったヤツの声は耳障りだ」
 「…確かに」
 あの声は苦手だ。キアは遠目にマヌエラがいる方に目を向けた。人だかりができていて姿は見えないが、時折りけたたましく響く声はマヌエラそのものだ。普段は優しいマヌエラも、お酒を飲むと気が大きくなるのか、言葉遣いも態度もがらりと変わる。世話になっている分、声を上げることはないが大分参っていた。
 「…おおらかでいいひとなんですが」
 今日まで何とかこの文言で耐えてきた節がある。
 「フン」
 伏し目がちに視線を逸らすキアに対し、とかげは鼻をならした。
 「まあいい。おまえがどう思うと自由だ。それより飯の配達を頼んだぞ。家の場所は坊主にでも聞け」
 「え、待ってください!」
 まだ行くとは言ってないと、キアは焦ってとかげの方に振り返る。
 コレだけは先に貰っていくぞと酒瓶に巻いてある紐に爪を掛けて飛び立って行った。
 「ま、待って!!」
 キアの声にちらっとだけ首を回すが無言で立ち去った。
 「お代はまだいただいてません!」
 キアはとかげに向かって叫んだが、あっという間に姿が見えなくなってしまった。
 「ロッタさん!とかげさん行っちゃいました」
 「ああ。まあ、いつものことだよ。あの人はいつも金は持たないから、届けた時にもらえばいいよ」
 「そうなんですか?」
 「うん。大将も女将さんも知ってる人だから、そんなに気にしなくていいよ。エマに貰ってくればいいから」
 「エマさんというのが娘さんですか?」
 「そうだよ。キアと歳が近いんじゃないかな」
 キアはふと考える。私と同じ歳くらいのとかげとは?
 「さあ、できたよ。肉の香草焼きときのこの温野菜のサラダ。根菜のスープ。あとはパン。パンとスープは一、二日はもつから」
 「おいしそう」
 それぞれを小分けの容器に入れ、熱が冷めないように厚手の布で包んだ。包みの上からでもうまそうな香りがただよってくる。
 「キア。届けてくれるかい?地図を書くよ」
 「ええ。指名されちゃいましたからね」
 「ずいぶん気に入られたみたいだね。こんな短時間ですごいな。明日店は昼過ぎに入ればいいから、ゆっくりしてくれば?」
 大将と女将さんには伝えておくよとロッタはキアを送り出した。
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