上 下
1 / 1

10年前に受けたバイトの面接先から採用通知の電話が来た話

しおりを挟む
ーー電話が鳴る







A「ん? 知らない番号だ。一応出てみるか。もしもし」







B「もしもし、私、Aさんが先日選考に起こし頂いたセボンイレボン亀甲店の店長、亀山と申します。ただいまお時間よろしいでしょうか?」







A「え? セボンイレボン……あー! あそこか。はいはい。え、どうされたんですか?」







B「またまた、Aさんもお人が悪い。選考のとき、合格者にはこうしてお電話を差し上げると申し上げておいたじゃないですか。つまり」







A「つまり……受かったと?」







B「そのとおりです! 選考において精査した結果、Aさんには是非当店で働いていただきたいと思っております。早速ですが雇用契約を結びたいので」







A「ちょ、ちょっとまってください!」







B「どうされました?」







A「いや、そんなこと言われても困ります」







B「どういうことですか? 当店を志望されたのはAさんじゃないですか」







A「そうですけど! いやでもびっくりしますよ!」







B「何に驚かれるんです」







A「だって僕がそこ受けたの、10年前じゃないですか!」







B「それが何か?」







A「それが何か!? あれ俺の常識が間違ってる!?」







B「ということで、雇用契約のために明日か明後日……」







A「いやいやいやいや何事もなかったかのように話進めないでください、困りますよ!」







B「え、選考からこの電話の間に何かあったんですか!?」







A「当たり前だろ、めっちゃいっぱいあったわ!! 10年だぞ10年!!」







B「例えば?」







A「例えば、あの時は大学生でしたが、今は正社員として働いてまして」







B「あ、じゃあうちの雇用契約の違反になるので、一旦そこは辞めてもらいまして」







A「いやいや、きついきついきついて。何で正社員辞めてまでコンビニバイトしなきゃいけないんですか。それもう逆にストイックだろ。あと、実は今、フェリーで北海道に向かってるところでして……」







B「あ、じゃあそれも一旦降りてもらって」







A「いや海の藻屑になるわ! 

  何で選考に10年掛かったのに雇用契約だけ死ぬほど急がせるんだよ! 70kmのスローボールの次に160kmの速球が来た気分だよ! だいたい普通バイトの面接なんて一週間以内に結果出るじゃないですか。10年も掛かるとか小学生が成人するレベルですよ」







B「ですから、Aさんの履歴書と面接態度を精査していました」







A「10年も!?」







B「ええ。様々な方法を用いてAさんがこのコンビニバイトに相応しいかどうかじっくりじーっくり考えていました」







A「何だそのワインの醸造みたいな選考は」







B「例えばこの10年間、私は毎日朝起きたときと夜寝るとき、Aさんの履歴書を10回づつ読んでいました」







A「それもう何らかの宗教だろ」







B「それからご飯を食べる時間は全てAさんの面接のとき録画した動画を見るのに費やしました」







A「もっと他にやるべきことが沢山あると思いますよ」







B「あとAさんの履歴書に書いていた志望動機を歌詞にして曲を作りました」







A「何がしたいんだよ」







B「そしてYouTubeに投稿しました」







A「何してくれてんだよ!」







B「十五万再生されました」







A「なんで結構回ってんだよ!」







B「十五万再生のうち、四万再生は私。十万再生は私の祖母です」







A「自分のおばあちゃんに何工作させてんだよ! 十年間も!!」







B「でも低評価数は39万個を超えました」







A「何でマクロ組んで組織的に低評価入れてるヤツいるんだよ!!」







B「あとAさんの履歴書に貼ってあった写真を複製して財布に入れてます」







A「お守りか」







B「拡大して仏壇に飾ったりもしました」







A「それ遺影じゃねえか!」







B「Aさんの顔を絶対忘れないように当店の会計カウンターにも貼ってあります」







A「そこからあげクンのポジションだろ!」







B「ちなみにその写真をバーコードで読み取ると北朝鮮の国営ホームページに飛びます」







A「人の写真で何してくれてんだよ!!」







B「わけもなくAさんの履歴書を1万枚も複製したりもしました」







A「偽札刷ってんのかお前は!!」







B「1000円以上お買い上げの方に無料でお配りしてました」







A「なに『一番くじ』みてえな個人情報のバラまき方してくれてんだよ!!!」







B「残ったものは休み時間にポスティングしておきました」







A「チラシか!!」







B「それでも配り切れなかった分は燃やして、灰は海に流しました」







A「処理方法が遺骨なんだが!!」







B「ここまでしてもまだAさんのことを理解しきれていないと感じていました」







A「いや最初から1㎜も理解できてないですよ」







B「私はAさんの事をもっと知るため、最終学歴である後攻大学を受験しました。でも受かりませんでした」







A「Fランだぞ俺の大学!」







B「6浪もしたのに!」







A「逆に難しいだろ!」







B「しかしそうやって九年間経った頃、あれ? 何かがおかしいぞ? との思いが湧き上がりはじめました」







A「遅えよ!」







B「そうだ、これは恋なんだ」







A「何言ってるのこの人!?」







B「えー、話を戻します。今日明日で店に来るのが難しいとの事でしたので、口頭で契約内容を確認させていただきます」







A「いやそんなの伝えられても……」







B「出勤日数が週7回。出勤時間が朝7時~夜24時。時給が100円でよろしかったですか?」







A「良いわけねえだろ! 北朝鮮でももうちょっとホワイトだぞ! それ絶対コンビニバイトの条件じゃないよ!」







B「ええ、違います」







A「え?」







B「俺の隣に永久就職しないか」







A「お断りします」











おわり

しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...