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番組開始後 しばらくして
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ある日、謎の光線が地球に降り注いだ。
その光線により、超人となった五人の戦士。
彼らこそ、選ばれし勇者。人は彼らをファイバーズと呼ぶ!!
◆
会議室の正面のスクリーンには五人のヒーローの姿が映し出されていた。
赤、青、黄色、緑、桃色。
全身タイツの様に見える強化服を身にまとい、悪の異世界人「だぢづで人」と戦っている。
それを見ているのは良い年をした大人達だ。だが人間ではない。
犬や猫、イノシシ——様々な種類の動物に良く似た生き物たち——その誰もが高そうなスーツを着ていた。
異様な光景である。だがその珍妙な顔はかぶり物ではなく、誰も彼もが気まずそうな表情を浮かべていた。
いや、唯一気まずそうな顔をしてない者が居る。スクリーンが見やすい一番奥の席に座っているモグラである。一番高そうなスーツを着ていた。
「キリマン君!」
モグラが叫ぶ。不機嫌な事を隠そうともしないその声に、キリマンと呼ばれたライオンが喉の奥で小さく悲鳴を上げた。
何を隠そう、彼こそが映っている映像の責任者である。
「は、ハイなんでしょうか? ハマンディ局長」
胃が痛むのか、お腹の辺りを摩りながらキリマンが椅子から立ち上がった。
それに対してハマンディ局長と呼ばれたモグラはイライラとした様子で口を開く。
「これは何かね!」
「は、はあ……そのぉ、ファイバーズの最新の映像です」
言葉尻が小さくなるキリマンに周囲の者達は心配そうに見守っている。
「最新映像です、じゃないだろ、君ぃ!?」
「ひいぃい」
吠えたハマンディ局長の声に、キリマンは悲鳴を上げる。そのついでに椅子をひっくり返してしまい、あわてて椅子を直す。
「ファイバーズは子供向けの異次元ドキュメンタリードラマ! わかるかね!? 子供向けだ! チャイルドだよ!」
「は、はぁ。重々承知しております」
そう、スクリーンで流れているファイバーズの映像はこの世界の子供向けテレビ番組だった。ただし、ドキュメンタリー……ノンフィクションの映像である。
「だったら、あの泥臭い戦いは何かね!?」
そう言ってハマンディ局長が太い指で指し示した先にあるスクリーンには、“鉄砲”を連射するレッドの姿が映しだされていた。
強化スーツの上に無粋なポケットのいっぱい付いた服を着込んでいて、胸のところからボールを取り出し投げる。
爆発した。
場面が変わる。イエローである。彼女が持っているのは大きな鉄砲だ。持ちきれないのだろう。彼女は地面にうつぶせで寝そべって、鉄砲の上に付いた筒を覗き込んでいた。
引き金を引く。撃ち出された弾が怪人の頭に当たった。崩れ落ちる。
再び場面が変わる。グリーンが逃げていた。追うのは複数の怪人である。
必死で逃げるグリーン、時折振り返って手に持っている小さな鉄砲を撃つ。
だが無駄だ。あたらない。転がるようにして角を曲がる。
そこに待ち構えていたのはピンクだった。その手には何かが握られている。それを押し込む。
爆発。先ほどのレッドの投げたボールとは比較にならない轟音を立てて、怪人達が吹き飛ぶ。
喜ぶグリーンとピンク。
……それは子供向けというよりは戦場であり、実に泥臭い。火薬と硝煙、土煙と瓦礫の世界である。
「なんだ、あの鉄砲は!?」
そう巻き舌で吠えた局長に対してキリマンは目を泳がせながら、それでもなんとか反論の言葉を口にする。
「あ、あれは現地の世界で使われている銃と言う武器でして、レッドが使ってますのはP90、イエローが使ってますがM24というもので———」
キリマンは冷や汗をダラダラかきながら、そう説明した。
だが尋ねた本人のハマンディ局長の表情は全く和やかにはならず……むしろ、ますます不機嫌なものになる。
尖った鼻の先から空気を山ほど吸込んでそれをすべて使い切る勢いで怒鳴り散らす。
「そおおおおおおぉいうことじゃない!! 鉄砲の事なんてどうでも良いんだ!!」
自分が聞いたくせに、と会議に参加しているものの多くが思ったが、勿論口に出したりしない。この場に居るトップはハマンディなのだ。
「あれのどぉおおこが子供向けなのかね!? 言ってみろ!!」
怒声に首をすくめながら、それでもキリマンは口を開く。
「いえ、その。ハマンディ局長? 戦闘がリアルになるのは致し方が無い事なのです。彼らにとっては子供向けではなく、”現実”なのですから」
そうキリマンが説明する通り、画面の中の様子は現実の事である。正しくは”異世界の”と注意書きをしなくてはならなかった。ファイバーズの売りはその現実感にこそあった。
異世界ドキュメンタリー。
異世界を撮影する技術を用いて現地の生命体の活躍を撮影する。登場人物達の日常生活は異次元隠しカメラによって撮影され、それを一週間で撮りまとめ、番組にする。それこそが異世界ドキュメンタリーだ。
ファイバーズはその中でも、異世界の侵略者から襲われる世界を守るために戦うヒーローの活躍を描くヒーロー番組だ。
当事者達の生の葛藤、いつ終わらぬともわからぬ戦い。それをリアルに演出する事がファイバーズの売りなのだ。
「わかっている! その為に、異世界の穴も開けた。あくまでリアル、筋書きの無いドラマというキャッチコピー。良いだろう、それは良い。わしが言っとるのはだ!」
ダァンと机が叩かれて周囲の者が肩を上げてびっくりする。イノシシが驚いた拍子にフゴッと鼻を鳴らしてしまい、慌ててその鼻を押さえる。
再びハマンディ局長はビシリとスクリーンを指差す。
そこには大きな……自分よりも遥かに大きな”鉄砲”を構えるブルーの姿があった。
地面に設置され、鉄砲の先端は高速で回転している。
轟音と共に銃の先端から火花が飛んでいく。情け容赦無くと降り注ぐそれを受けて怪人が四散した。
えげつない光景である。
「向こうの世界の武器ばかりではないか! ファイバーソードとファイバーブラスターはどうした!」
ハマンディ局長のその言葉にキリマンが視線をそらす。
ハマンディ局長が他のメンバーをぐるりと睨みつけると、全員が揃って目線をそらした。
「子供向けっていうのは、子供におもちゃを買ってもらう為にやってるんだ!!」
身もふたもない事を叫んで机を叩く。キリマンの顔には脂汗が浮いていて、立派なたてがみも萎んでいる。
「でも、あの、視聴率は……」
「良いというのだろう!? 知ってるとも。だがなぁ! スポンサーはおもちゃ会社なんだよぉ!!」
その雷に全員が頭を垂らした。
「なんとかしろぉ!!」
怒声が会議室に響いた。
その光線により、超人となった五人の戦士。
彼らこそ、選ばれし勇者。人は彼らをファイバーズと呼ぶ!!
◆
会議室の正面のスクリーンには五人のヒーローの姿が映し出されていた。
赤、青、黄色、緑、桃色。
全身タイツの様に見える強化服を身にまとい、悪の異世界人「だぢづで人」と戦っている。
それを見ているのは良い年をした大人達だ。だが人間ではない。
犬や猫、イノシシ——様々な種類の動物に良く似た生き物たち——その誰もが高そうなスーツを着ていた。
異様な光景である。だがその珍妙な顔はかぶり物ではなく、誰も彼もが気まずそうな表情を浮かべていた。
いや、唯一気まずそうな顔をしてない者が居る。スクリーンが見やすい一番奥の席に座っているモグラである。一番高そうなスーツを着ていた。
「キリマン君!」
モグラが叫ぶ。不機嫌な事を隠そうともしないその声に、キリマンと呼ばれたライオンが喉の奥で小さく悲鳴を上げた。
何を隠そう、彼こそが映っている映像の責任者である。
「は、ハイなんでしょうか? ハマンディ局長」
胃が痛むのか、お腹の辺りを摩りながらキリマンが椅子から立ち上がった。
それに対してハマンディ局長と呼ばれたモグラはイライラとした様子で口を開く。
「これは何かね!」
「は、はあ……そのぉ、ファイバーズの最新の映像です」
言葉尻が小さくなるキリマンに周囲の者達は心配そうに見守っている。
「最新映像です、じゃないだろ、君ぃ!?」
「ひいぃい」
吠えたハマンディ局長の声に、キリマンは悲鳴を上げる。そのついでに椅子をひっくり返してしまい、あわてて椅子を直す。
「ファイバーズは子供向けの異次元ドキュメンタリードラマ! わかるかね!? 子供向けだ! チャイルドだよ!」
「は、はぁ。重々承知しております」
そう、スクリーンで流れているファイバーズの映像はこの世界の子供向けテレビ番組だった。ただし、ドキュメンタリー……ノンフィクションの映像である。
「だったら、あの泥臭い戦いは何かね!?」
そう言ってハマンディ局長が太い指で指し示した先にあるスクリーンには、“鉄砲”を連射するレッドの姿が映しだされていた。
強化スーツの上に無粋なポケットのいっぱい付いた服を着込んでいて、胸のところからボールを取り出し投げる。
爆発した。
場面が変わる。イエローである。彼女が持っているのは大きな鉄砲だ。持ちきれないのだろう。彼女は地面にうつぶせで寝そべって、鉄砲の上に付いた筒を覗き込んでいた。
引き金を引く。撃ち出された弾が怪人の頭に当たった。崩れ落ちる。
再び場面が変わる。グリーンが逃げていた。追うのは複数の怪人である。
必死で逃げるグリーン、時折振り返って手に持っている小さな鉄砲を撃つ。
だが無駄だ。あたらない。転がるようにして角を曲がる。
そこに待ち構えていたのはピンクだった。その手には何かが握られている。それを押し込む。
爆発。先ほどのレッドの投げたボールとは比較にならない轟音を立てて、怪人達が吹き飛ぶ。
喜ぶグリーンとピンク。
……それは子供向けというよりは戦場であり、実に泥臭い。火薬と硝煙、土煙と瓦礫の世界である。
「なんだ、あの鉄砲は!?」
そう巻き舌で吠えた局長に対してキリマンは目を泳がせながら、それでもなんとか反論の言葉を口にする。
「あ、あれは現地の世界で使われている銃と言う武器でして、レッドが使ってますのはP90、イエローが使ってますがM24というもので———」
キリマンは冷や汗をダラダラかきながら、そう説明した。
だが尋ねた本人のハマンディ局長の表情は全く和やかにはならず……むしろ、ますます不機嫌なものになる。
尖った鼻の先から空気を山ほど吸込んでそれをすべて使い切る勢いで怒鳴り散らす。
「そおおおおおおぉいうことじゃない!! 鉄砲の事なんてどうでも良いんだ!!」
自分が聞いたくせに、と会議に参加しているものの多くが思ったが、勿論口に出したりしない。この場に居るトップはハマンディなのだ。
「あれのどぉおおこが子供向けなのかね!? 言ってみろ!!」
怒声に首をすくめながら、それでもキリマンは口を開く。
「いえ、その。ハマンディ局長? 戦闘がリアルになるのは致し方が無い事なのです。彼らにとっては子供向けではなく、”現実”なのですから」
そうキリマンが説明する通り、画面の中の様子は現実の事である。正しくは”異世界の”と注意書きをしなくてはならなかった。ファイバーズの売りはその現実感にこそあった。
異世界ドキュメンタリー。
異世界を撮影する技術を用いて現地の生命体の活躍を撮影する。登場人物達の日常生活は異次元隠しカメラによって撮影され、それを一週間で撮りまとめ、番組にする。それこそが異世界ドキュメンタリーだ。
ファイバーズはその中でも、異世界の侵略者から襲われる世界を守るために戦うヒーローの活躍を描くヒーロー番組だ。
当事者達の生の葛藤、いつ終わらぬともわからぬ戦い。それをリアルに演出する事がファイバーズの売りなのだ。
「わかっている! その為に、異世界の穴も開けた。あくまでリアル、筋書きの無いドラマというキャッチコピー。良いだろう、それは良い。わしが言っとるのはだ!」
ダァンと机が叩かれて周囲の者が肩を上げてびっくりする。イノシシが驚いた拍子にフゴッと鼻を鳴らしてしまい、慌ててその鼻を押さえる。
再びハマンディ局長はビシリとスクリーンを指差す。
そこには大きな……自分よりも遥かに大きな”鉄砲”を構えるブルーの姿があった。
地面に設置され、鉄砲の先端は高速で回転している。
轟音と共に銃の先端から火花が飛んでいく。情け容赦無くと降り注ぐそれを受けて怪人が四散した。
えげつない光景である。
「向こうの世界の武器ばかりではないか! ファイバーソードとファイバーブラスターはどうした!」
ハマンディ局長のその言葉にキリマンが視線をそらす。
ハマンディ局長が他のメンバーをぐるりと睨みつけると、全員が揃って目線をそらした。
「子供向けっていうのは、子供におもちゃを買ってもらう為にやってるんだ!!」
身もふたもない事を叫んで机を叩く。キリマンの顔には脂汗が浮いていて、立派なたてがみも萎んでいる。
「でも、あの、視聴率は……」
「良いというのだろう!? 知ってるとも。だがなぁ! スポンサーはおもちゃ会社なんだよぉ!!」
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「なんとかしろぉ!!」
怒声が会議室に響いた。
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