職場は超ブルー

森山 銀杏

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死するべき戦いの始まり3

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テレビの向こうの映像を見ていたスタッフ達は声も出ない。

ワンマンショー。そう言って良い。

あれだけ準備した怪人がとにかく殺されて行く。

ブルーは怪人のバージョンが変わった事など、意にも介していないようである。

おかしいだろうと誰かが疑問を保ち、調べるとその正体はあっさりと明らかになった。

急所撃ち。

怪人の目は二つある。外部入力装置はこの箇所しか無い。

その他の感覚を理解させると、吸収データが多くなり、自我に目覚める可能性があるからだ。

敵を捕捉し、仲間へと情報を伝達し、敵を追いかけ、ほどほどに暴れる。

これが怪人の基本スペックだ。

弱点は頭部。そこには入力器官と通信器官が集約されているからだ。

バージョンワンは加えて内蔵部分にも弱点があった。だがバーションツーは全身の防御力が強化されている。

それは小さな地味な鉄砲では打ち抜けないようになっていたはず……だった。

だが実際は両目を打ち抜かれ、その間の眉間を貫かれている。そこは小さいが一番防御力が低く……ことさらに弱点とも言える場所だった。

目の大きさは親指の爪ほどしかなく、あの距離で動いている敵相手に狙うとなれば、まさに神業の難易度だ。

そしてその後のワイヤーアクションからの爆弾の連鎖。

まるで楽器のようにブルーが指を滑らすたびに、どこかしらで爆発が起きる。

その合間を見ての大きな鉄砲での連射はこれまた怪人の弱点を正確に撃ち抜いている。

そしてそれが、全く躊躇がないのだ。彼は自分がそうすべきなのか、事前に知っているかのように動く。

スタッフ達も声を失い、ただ呆然とする中でブルーだけがスルスルと画面の中で動いて行く。

無駄が無く、澱みが無く、力みも無く、そして間がない。

すべてがまるで決められたことのように行われているのではないかと……それがありえないと知っているスタッフでさえもそう思わざるを得ないほどの息も突かせぬ動きが青い形となって彼らの前には体現していた。

「す、すげえ」

誰かの声が皮切りとなり、全員が口々に喋った。

「ブルー、今日はすごくないですか。これ?」

「ああ、いつもだいたいすごいが今日は別格っすね」

「これがブルーの本気なのか」

「いつもは手加減してたってことになるんか?」

口々に喋るスタッフが見守る画面の中でブルーは何かの箱に手を伸ばす。

そうすると大きく太い鉄のかたまりが箱の中から首をもたげた。

彼らはそれを見た事が無かった。初めて見る兵器だ。

兵器だと分かったのは、動き出したそれがあまりにも重圧を放っていたからだ。

しかもそれは一つではない首をもたげたのは合計四つもあった。

「ヒュドラだ」

会議室に誰かは分からないつぶやきが漏れる。

ヒュドラは複数の頭を持つ蛇の化け物だ。

言い得て妙だったかもしれない。まるで蛇の頭のごとく鉄砲は揺れていた。

そして火を吐いた。その迫力に一同は度肝を抜かれた。

四門が同時に火を噴くその様は止まらない爆発のようであり、その銃声は止まる事を知らない雷鳴のようだった。

吐き出された火の中から流星のつぶてのごとく、銃弾が飛んで行く。

情け容赦のない鋼の銃弾が完膚なきまでに怪人の体を消し飛ばす。

オレンジの光が通り過ぎた瞬間には怪人の脇腹が消え失せていた。

崩れ落ちる前に左足が無くなり、体が斜めになる前にその首から上が吹き飛んだ。

それが四門。それぞれが的確に、いっさいの容赦なく、火を吹き上げ続ける。

哀れな怪人は薙ぎ払われ、蹂躙し、砕かれてなんだか良く分からない物に次々と成り果てる。

轟音と閃光と、硝煙が画面の中で入り交じっていた。

大虐殺である。

「う、うへぇ。あんなの見た事無いぞ」

「無人兵器は軍から圧力がかかってたんじゃないのか?」

やいのやいのと話が出る。

日頃のファイバーズの戦いと比べて、明らかに戦いの質が違うのを全員が感じていた。

最近のファイバーズの戦いはチームプレイだった。

誰かの失敗は誰かがカバーする。それはそれで優れていたが、今日の戦いは凄まじくおおざっぱでありながら精密でもある。

それはファイバーズ最初期の頃の戦いに良く似ていた。

他のメンバーを戦わせず、ブルーが単身で戦っていたときの戦い方。

その当時もスタッフ達は驚いたものだが……今日の戦いは気迫が違う。

気迫を支えるのは研ぎすまされた技巧の冴えだ。ただ単純に狙いをつける速度と狙いの正確さが段違いだった。

スタッフ達も今回はブルーがたった一人で戦っている事はもちろん知っている。

だがそれを苦にしている様に感じないのだ。何の制約も無く、周囲への遠慮もなく、考えうる限りの手段を、大胆かつ繊細にこなしている。

日頃、怪人達がうっかりファイバーズにケガをさせないよう、今この場に居るスタッフたちは慎重に制御していた。

今の怪人達にその制御は無い。

目の前の彼は今日死ぬのだという現実から目をそらさず、スタッフ達は画面を見ていた。

ブルーは今日、死ぬ。それは変えられない事だった。

気が進まなくても、やらなくてはならない。それが仕事だからだ。

そしてやる以上は万全を尽くさねばならない。だからこそ声に出してブルーが戦う姿を応援は出来ない。

彼らの仕事はブルーを殺す事なのだ。

そして画面上にはブルーをしとめる為に作られた上位怪人がゆっくりと姿を現していた。

上位怪人、イーター。

一般視聴者、バッファローのネルネさんの考えた怪人である。

下位怪人を食べて回復すると言う設定のえげつない怪人だ。

ちなみに選ばれた特典として、ネルネさんにはファイバーズ特製手ぬぐいとスカジャンが送られた。

肉団子に虫の足を生やしました。そんな形をした上位怪人イーターは胴体から触手を伸ばし、ちぎれ飛んでいる怪人をかき集めるように食べていた。

あらかたの下位怪人を倒し終えたヒュドラの頭が一つ、上位怪人イーターを捉える。

肉塊の固まりであるイーターの体が弾け飛んで行く。だが貫通はしない。

表面の肉が飛び散るが、それより先に肉がふくれあがって行く速度の方が早い。

頭がもう一つ、もう一つとイーターに狙いをつける頭が増える。

しかしイーターは止まらなかった。その足を前に進めながら、辺り一面に飛び散っている下位怪人の死体をひたすら食べる。そうすると膨れ上がる速度はさらに上がる。

ついにヒュドラの四つの頭すべてがイーターに狙いを定めた。

肉がめくれ上がり、飛び散る。だがそれでも肉が膨らむ速度のほうが早かった。

回復量が与えられるダメージを超えているのだ。

尋常ではない回復力でふくれあがってゆく肉のかたまりは猛烈な火力さえも押し返すかのようにジリジリと前進し始めた。

その歩みは止まらない。目的は一つ、ブルーを殺すことだ。

スタッフの誰もが見た事の無い高火力さえも耐えきって歩くイーターの姿にブルーの死は避けられぬものだと改めて悟った。

ラッコも、コアラも、カマキリも、カタツムリも、その他の全員だ。

あの猛烈なヒュドラはきっとブルーの切り札だったのだろう。それでもまだ足りなかった。

彼はよく頑張った。すばらしかった。

ついにヒュドラの猛攻も、タネが尽きたのだろう。一つ、又一つと火が止まる。

終わった。

「ブルーを映してくれ。死ぬまえに」

その言葉にカメラが移動する。だがセントリーガンの後ろにはブルーの姿は無かった。全員がきょとんとする。

「逃げたのかな?」

誰かが発した心ないその声を否定するかのように、号砲が鳴った。

ドォウン!

そうすると無敵だと思われた肉塊が冗談のようにめくれ上がった。

ブルーの本当の切り札が履帯でアスファルトを凹ませながら、砲塔から硝煙を燻らせながら姿を現した。


 ◆


威風堂々とした、まごうことなき戦車の姿を見たとき、大林は思わず呟いていた。

「や、やりやがったな、青島君!」


 ◆


同じ頃。

スタッフが戦いを見守る会議室の遥か上のほう。局長室でキリマンとハマンディ局長はブルーの活躍を応接用のソファーに腰掛けて見ていた。

最初は良かった。何せブルーは独りなのだ。

最初、ハマンディ局長は上機嫌で笑っていた。

「一人で戦う。良いじゃないか、ドラマチックで」

しかし戦いが進むにつれて、ハマンディ局長の顔はだんだんと不機嫌になった。

「大丈夫なのかね?」

そう聞かれ、「準備は万全である」とキリマンは返事をする。

ブルーの新兵器である無人兵器が出てきたときには肝が冷えたが、上位怪人はその攻撃では止まらなかった。

そこでホッと一安心し、その攻撃も終わりブルーに哀悼を捧げた瞬間だった。

万全である。万全であったはずである。

しかし、自信を持っていた上位怪人がまるでドーナツの様な姿になった姿を見て、あぜんとする。

そして現れたのはなんだかでっかい箱だった。その先端には筒が生えていて、そこからは煙が上がっている。

ハマンディ局長は額に血管を浮かせながら、実に不機嫌そうに口を開いた。

「だいじょうぶなのかね!?」

その問いかけにキリマンは半笑いでこう答えた。もう半分は泣いていた。

「多分無理です」

実直に言ってもう手はなかった。今日の怪人のイーターは通常より予算をつぎ込んだ。加えてそのエネルギーになる怪人たちは山ほどつぎ込んだのだ。というかなんで死んでないのかが不思議なくらいだ。

「なんとかしたまえ!!」

だがハマンディ局長はそれを許さない。

キリマンは考えて考えて考えた。

そしてひらめく。

「手がありました」

「それじゃあ! さっさと手を打ちたまえ!」

そう喚かれてキリマンは通信機に手を伸ばし、部下に向かって命令する。

通信機の向こうでは部下達が喚いている。それを黙らせるように、キリマンは叫んだ。

「いいから、ジョンダー帝王を送り込め! 命令だ!」
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