私は哀れな吸血鬼?

クロウサギmyu

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2、吸血鬼の恋

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 私は吸血鬼でありながら美人ではない。むしろ顔は悪い方。そこそこな名家に生まれたから結婚相手には困らないかもしれない。とはいえ誰も言わないだけで私は不必要なやつだ、というのは気づいてる。
 そんな私だけどずっと一緒にいる友達がいる。
「キャラ!キャラってば。何読んでるんだよ。呼ばれたから俺遊びに来たのに。」
「ごめん。つい落ち着かなくて。」
頭の上にハテナがたくさん浮かんでいるなー。なぜ落ち着かないのか?と思っているっぽい。今日ここにコイツ、ハイスを呼んだのはとても、とても重大な理由がある。…こ、告白ってやつかな。いやいやいやいや。そんなんじゃないな。ハイスは私を友達として?好きかどうか聞きたいだけだし…
「ねぇ…ハイス?私のこと」
「ん?何か言った?」
「なんでもないわよ!!」
「なんで切れんの~」
そんなヘラヘラ笑わないでよ。でもその笑顔もカッコ…って何考えてんだー!
「あのね、キャラ。」
「ん?何?」
「俺もう結婚するよ。」
「は?」
「可愛い女の子だよ。前から付き合ってはいたんだ。プロポーズしたら受けてくれて、今の吸血鬼との生活も認めてくれて 」
「よかったじゃない!おめでとう」
「なんで?」
あれ、祝福してないのバレた?いやそんなことは…
「俺と遊ぶ時間なくなるかもしれないんだよ?」
あぁ…そういうことか。そんなことでコイツは。
「好きなんでしょ?」
「うん!」
「じゃあべつに私のことなんて気にしないでその子にかまってあげなさいよ。」
グルグルグルグル視界が回っている。ガンガンどこからともなく音が聞こえる気がする。心が、心臓が、いたい。
「うん。本当にいい子なんだよ?それに美人で可愛い!吸血鬼でもかなわないよ。」
「ハイハイ。その辺りにして帰ったら?彼女のためにも」
「そうだね。結婚式は呼ぶから!」
ちゃんと笑顔、できていたかしら?ともかく家に入ろう。歩く。足取りが重いのがわかる。でも歩く。誰にも、親にも心配はかけはしない。ただでさえこんな容姿で迷惑かけてるんだから。
 やっと部屋にたどり着いた。良かった。感じてたよりずっと大丈夫じゃない!てか大丈夫じゃない理由なんてない。あれ。この水は何?眼から流れてるの?これがナミダ…なのかしら。ナミダなんて吸血鬼は流さないのに。
やっぱり好きだった?あいつが。そうなんだ。こんな苦しい思いをするのが恋、なのね…よくわかったわ。
 吸血鬼でもかなわない、か。もっと前に自分の気持ちに気付いて、告白できていたら少しでも何か変わったのかしら?性格が良くない、タイプじゃない、あいつは長生きできるようになったけど人間で私は化け物。醜い。エトセトラ…断られる理由はいろいろあるわね。断られないような理由は?ない。一つもない。もういい。考える、なんて面倒だ。どうとでもなればいい。人里にでも降りてみようか。まだ日が昇るには時間がある。
 親にも使用人にもバレないようにこっそり家を出る。村を囲む林を抜ける。しばらくすると崖にでる。吸血鬼なら頑張れば飛び降りられる高さだ。下は見えないけど大丈夫。何回も降りているから慣れている。
 綺麗な夜景、とは言えない。けど個人的には好きな風景。崖の近くの黒いところからから向こうにかけて少しずつ明かりが増えていく。家々の間の畑の色が吸血鬼の目には夜でも季節によって変わって見える。けど普通の人間が見ている明るい間でのこの景色はどう見えるのだろうか。ここに化け物が住んでいるなんて知らない人間は。
 スッと足を踏み出す。あっという間に下に着く。降りる時の空気が体を運ぶようなこの感覚。結構好きだからもう少し長くてもいいと思う。何をして帰ろう?とりあえずやることもないから目の前の森の中をぶらぶらして気分転換でもしようかしら?そうしよっと。
 ほんとうにブーラブーラ歩く。いろんな音が聞こえる。木の葉のかすれる音、鳥の鳴く音、狙う獣と狙われる獲物の息遣い。ムダに思えるほど多い木。その中でまたムダに思えるほど多くの獣達。夜に繰り広げられる残酷な「本能」というパレード…こんなもの見えなければいいのに。目の前のものだけ見える人間のような目であれば森全体で行われる事を見なくていいのかな?うらやましいな、人間って。
そろそろ日が昇りそう。ちゃっちゃと帰ってしまいましょう。パキッと近くで音がする。二足歩行の動物の音。二足歩行なんて動物は…人間。どうして気がつかなかったのよ!やっぱり考え事なんてするもんじゃない!近づいてくる。複数?いや一人っぽい。
 怖い。なぜ怖いかなんてわからない。でも余計なことを思い出す。人間は化け物には容赦なく、仲間であっても残忍になれるのだと。
『人間は里のもの以外姿を見せてはいけない。信用するなど命を捨てるに等しいんだよ?』
昔教え込まれたんだった。太陽が出てくる前に逃げなきゃいけないのに…!吸血鬼とはなんて脆弱な化け物なの…人間より強いけど人間が怖いし人間が当たれる太陽にあたれないなんて。
「あれ?こんなところに女の子?何してるの?」
見つかった!!!
「あぁ!迷子?村まで連れていってあげるよ」
「…迷子なんかじゃない。」
そういうと男は困った顔をする。あぁ迷子が強がっていると思われている。
「じゃあ帰りますので。」
「か弱い女性を放っておけるわけがないでしょ?」
「帰れます。」
どれだけ丁寧に断っても送るの一点張り。ほんとうに日が昇りそう。だけど帰るところを見られるわけにはいかない。いっそこいつ、殺してしまおうか。私は吸血鬼。化け物なのだから。男の持つ柔らかそうな首に牙を突き立ててやる。もう一族の中ではこの容姿のせいではぐれているんだ。人殺しぐらいでもっとはぐれたってなんてことないわよ。堂々と寄っていく。
「そこの綺麗なお嬢さん、お名前は?」
なんとこの男。膝をついてこっちに手を差し伸べてにんまり笑っている。それを見てバカバカしくなる。のにナミダが出てくる。どうして?そんなことわかっている。かぶったのだ、あいつ。ハイスと。こんなヤツと。止まらない。止まってくれない。人間の前でこんな醜態を見せるなんて!でも止まらない。当の本人。オロオロしている。
「空が白んできたなぁ。一緒に朝日でも見て、落ち着こっか。」
「誰が、あんた、なんか、と。」
また困ったように笑う。
 でも一興かもしれない。醜い吸血鬼が綺麗と呼ばれる朝日を見て死ぬ。面白いじゃない。
 向こうからだんだんオレンジに染まっていく空。これだけでも綺麗だわ。本当に人間はうらやましい。何度もこれを観られるのね。
「ごめんなさい」
朝日からの逃げ場はない。
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感想 1

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みんなの感想(1件)

狂
2018.05.27

ハッピーエンドではなく少し悲しい終わり方でこの後どうにかしてハッピーエンドに変わる事はないかなぁなんて思ったりもしました.

解除

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