婚約破棄された令嬢は王太子の懐刀になる

香月

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護衛

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食堂に入ると、自分の席の横に男性が立っていた。
年はジルウェルシアよりも年上か。白いシャツに黒のトラウザー、腰ベルトに剣があることから彼が護衛なのだろう。茶髪の長い髪は結わえられ、肩に流されている。顔立ちは整っているが、白いシャツのボタンがなぜか胸元近くまで開いているせいで護衛よりも遊び人というイメージが先行した。

「あなたが私の護衛の方?」

ジルウェルシアは男を気にせず席に着くと、すぐさま料理が運ばれてきた。

「お目にかかれて光栄です。本日からジルウェルシア様の護衛を命じられたナチルと申します」

見かけによらず丁寧に挨拶をした為、ジルウェルシアは思わず食事の手を止めてナチルを見た。

「あなた以外と見かけによらないのね」

「お褒めの言葉と捉えておきます」

ナチルが 微笑むと、ジルウェルシアは頬を赤らめ顔を背けた。

───何なのよその色気は!

顔には出さないように、けれど心の中では必死に悶えていた。

「早速だけど今日は街に行こうと思っているの。あなたも来てくださる?」

「早速お出掛けですね。お任せください」

なるべくナチルの方を見ないようにして会話を続ければ、自然と心は落ち着いてきたのでそのまま食事に専念することにした。
ナチルは、顔を赤らめたまま一心不乱に食事を取るジルウェルシアをただ微笑んで見ていた。





街は伯爵家の馬車に乗って10分ほどの距離にある。王都程の規模ではないが日用品から珍品まで揃い、周辺の領地から買い物に来る者がいるほど賑やかだ。

今日は私的な買い物の為ドレスはシンプルなデザインにしている。一見すれば街娘だが、侍女と遊び人に見える護衛を共に連れて歩けばすぐにジルウェルシアだとばれてしまった。

「ジルウェルシア様、今日もお美しいですね!これ持ってって下さい!」

よく声を掛けてくれる野菜売りの青年から紙袋一杯の野菜を渡されれば、負けじと肉屋の青年もはち切れんばかりの袋を渡してくる。似たようなことがその後も続き、屋敷に持ち帰る土産が一杯になってしまった。

通りを歩けば誰もがジルウェルシアに優しい。
街の優しい雰囲気に傷ついたジルウェルシアの心も少し癒されていた。


「ジルウェルシア様、楽しいですか?」


ふとナチルが声を掛けた来た。


「えぇ。とっても」


ジルウェルシアはありのまま素直に答えた。


「ならよかった。朝よりも顔色がいいようですから」

「私そんなひどい顔をしていたかしら?」

「それはもう」

ナチルはくくっと口許に手を当てて笑う。

「あなたモテるでしょう?」

「?いえ?残念ながら全く」

そう言いながらもどこか楽しげに笑うナチルに、ジルウェルシアの心の中で隠していた悲しい気持ちが晴れていたことに気付くのは、もうすぐのことだった。
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