2度目の人生は、公爵令嬢でした

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第一章

1話 第二の人生

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「エリーゼ、死ぬな、俺をおいて行かないでくれ!」

ジルの声は震えていた。妻の手を握るその指先は青ざめ、彼の目からは涙が溢れて止まらない。

「泣かないで、ジル。あなたがそんな顔をしていると、私…安心していけないわ。」

エリーゼの声はかすれていたが、どこか穏やかで優しい響きがあった。それでもその顔は明らかに生気を失っていき、額にはうっすらと汗がにじんでいた。

そんな中、そばにいた息子リュカが震える手で母の手を握りしめ、涙をこらえながら言った。

「お母さま、大丈夫です。僕もいますから。お父さまも、妹のことも守ってみせます。」

「ふふっ…リュカ…あなたは本当に、頼もしい子ね。」

エリーゼは微かに微笑みながら、リュカの手に力を込めた。それは、母としての最後の愛情の証だった。

彼女の視線は、そのまま隣の夫ジルに向けられる。

「ジル…お願い。子供たちを…幸せに育てて。私がいなくても、この子たちには笑顔が絶えないようにしてあげてね。」

「そんなことを言うな!お前は俺のそばにいなければならない…!」

ジルは絞り出すように叫んだが、エリーゼの瞳には既に覚悟が宿っていた。

「ジル…あなたと過ごせた時間は、私の人生そのものだったわ…。愛しているわ。」

「エリーゼ…俺もだ。俺もお前を愛している!」

彼の涙がエリーゼの頬に落ちた瞬間、彼女の手がすっと力を失い、静かにその瞼が閉じられた。

「お母さま!!」

リュカが泣き叫ぶ声が響き渡る中、ジルは妻の体を抱きしめて動けなくなっていた。

しばらくして、静寂が訪れた。使用人たちがそっと部屋を出ていき、残されたのは夫と子供たちだけ。

ジルはエリーゼの額に最後の口づけをし、涙ながらに息子に告げた。

「リュカ…お前が言った通りだ。この家族を、俺たちで守ろう。」

リュカは涙を拭い、震える声で「はい」と答えた。その幼い決意に、ジルはわずかに微笑みを浮かべた。



私を産んだ後、母は亡くなってしまったらしい。なのに父は、母が亡くなる原因となった私を恨むどころか、母との約束通りに私をとても大切に育ててくれている。

「おはようございます、クリスティア様。」

「おぁお~。」

「やはり、こちらの言葉を理解しているのでしょうか?」

「あぅ~。」

まだ赤ん坊なので返事はできないけれど、なんとなく彼らが私をとても大切にしてくれているのはわかる。この後、おしめを替えてもらい、ミルクを飲んだ私は、すぐにまた眠りについた。


「ふぇふぇ~ん!」

泣き声が自分の口から出たことに驚いた。でもそれ以上に、この体、何もできないんだけど!?

「クリスティ、どうしたの?泣かないで。」

誰かの声が聞こえた。とても優しい響きだ。安らぎを感じた私は、そのまま眠りに落ちた。

「今、クリスティの泣き声がしたのだが、どうしたリュカ。」

「それがわからないんです、お父さま。ですが、僕が声をかけたらすぐに安心して眠ってくれました。」

「ふむ、さすがリュカだな。」

「ありがとうございます。でも、僕が何か特別なことをしたわけではありませんよ。ただ、彼女が少し不安だっただけです。」

「なるほど。それなら良いが…」

お父さまの声が、どこかでまた不安になったのだろう。私は眠ったままだったが、ふわっと抱き上げられる感覚がした。

「リュカ、泣き声があればすぐ知らせが届く魔道具があるからな。」

「はい、これがあれば」

「うむ!クリスティの泣き声を聞き逃すわけにはいかんからな。」

いや、過保護すぎませんか?私は眠っているけど、内心でついそう突っ込みたくなる。

「さて、リュカ、今日は夕食を一緒にとろうではないか。」

「え?あ…はい、喜んで!」

その直後、ノックの音とともに執事が現れた。

「旦那様、執務室に新たな書類が届いております。お急ぎください。」

「あぁ、そうか。よし、戻ろう。」

え、結局戻るんですね。

その後、またお腹が空いて起きたとき、リュカが私にミルクをあげてくれた。

「ふぇ~ん。」

「おっと、クリスティ、またお腹が空いたのかな?」

優しく話しかけられ、私は安心してミルクを飲む。ミルクを飲んでいる間に、「かわいいな」とか「たくさん飲めよ」なんて声が聞こえてくるけれど…。いやいや、大人としては恥ずかしいからやめてほしいんですが!

飲み終わると、リュカは私を抱っこしてくれて、背中をリズムよく叩いてくれる。その温かさに、私は再び眠りについた。
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