2度目の人生は、公爵令嬢でした

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第一章

14話 形見のブローチ

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 その日のリリアも、いつもと同じように私のものを欲しがってきた。ただ、彼女が欲しがったものが、あまりにも『いけない物』だったのだ――。

「ねぇ、クリスティア。私、あなたの持ってるサファイアのブローチが欲しいの。ちょうだい?」

 リリアはいつもの調子でさらりとそう言った。けれど、その言葉を耳にした瞬間、私は背中に冷たい汗が流れるのを感じた。

「えっ…」
私は思わず声を詰まらせた。心臓が嫌な音を立てて鼓動を速める。

「それだけは絶対にダメよ!!」

 咄嗟に声を張り上げた私に、リリアはわざとらしく眉をひそめた。

「はぁ?どうしてよ!かわいくないあんたなんかより、かわいい私が身につけたほうがアクセサリーたちも喜ぶに決まってるでしょ。だから、さっさとよこしなさい!」

 その言葉が胸を刺した。心臓がぎゅっとつかまれたような感覚。

「嫌よ!あのブローチは大切なものなの!」

「ふーん、大切って言えば通ると思ってるの?本当に聞き分けが悪いわね!」

 リリアの声が部屋に響いた次の瞬間、パチンッと乾いた音が空気を切り裂いた。

「っ……痛った……。」

 私は反射的に頬に手を当てた。リリアが私の頬を平手で打ったのだ。じんじんと熱を持つ肌の痛みに、涙が込み上げそうになる。

「本当にあんたっていつもいつも!私が欲しいって言ったら何も言わずに渡せばいいのよ!わかる?その足りない頭でよーく考えなさい!」

 リリアの目は、まるで燃え上がる炎のようだった。そこにあるのはただの嫉妬。それとももっと別の感情? わからない。ただ、彼女のその顔に初めて恐怖すら覚えた。

「そのブローチ以外にも使ってないアクセサリーがたくさんあるじゃない!使わないんだから、私が使ってあげるって言ってるのよ!」

「違う!それは……それはお母さまの形見なのよ!それに、他のアクセサリーだって全部そう!お母さまの形見なの!私はまだ子どもだから、大切にしまって壊さないようにしてるだけ!それを、どうしてあなたに奪われなきゃいけないの!?」

 リリアは一瞬驚いた顔をした。けれどすぐに鼻で笑い、肩をすくめる。

「形見?だから何?壊したくないとか、子どもだからとか言ってたけど、それって結局あんたが鈍臭いからでしょ?私はそんな失敗しないわよ。だから、ほら――渡しなさいよ!」

 私は震えながら首を横に振った。

「絶対に嫌よ!」

 その時――。

 ガチャッ

 勢いよく扉が開き、お父さまが部屋に入ってきた。

「部屋の外まで声が聞こえている!何があった!?」

 リリアはその瞬間、私に背を向け、顔を掌で覆った。そして、次に聞こえたのは、震える声で泣くような演技だった。

「うゎ~ん、ジルバルトさん!クリスティアがひどいの~。私の大切なものを取ろうとしたの~!」

「何だと?」

 お父さまは眉間に深い皺を寄せて私を見る。その目には疑念が浮かんでいた。

「違うわ!」
私は慌てて否定する。

「リリアが私に無理矢理ブローチを渡せって言ってきたのよ!」

「なんでそんな嘘を言うの!さっきだって私のブローチを取ろうとしたじゃない!」

 リリアの嘘があまりにも堂々としていて、一瞬、私の頭は真っ白になった。そして、その瞬間、抑えていた感情が一気に爆発した。

「いい加減にしてよ、リリア!」

 自分でも驚くくらいの大声で怒鳴った。

「あなたはいつもいつも私のものばかり欲しがって!ぬいぐるみやドレスぐらいなら、まだ我慢もできた!でもね、このアクセサリーは違うの!」

 涙が頬を伝うのを感じながら、それでも私は続けた。
 
「壊す壊さないではないの、リリア、このアクセサリーは、あなたには関係のないことかもしれないけど、ただの飾りじゃないの。これを見ているとね、お母さまがいつもそばにいてくれる気がするのよ。お母さまの思い出が詰まった、私にとって大切な物。だから、絶対に渡せない!」

 部屋は静まり返った。お父さまは驚いた顔で私を見ていた。リリアも目を見開いて動かない。

 その沈黙の中で、お父さまはようやく口を開いた。

「……詳しい話を聞く。だが、今はお互い頭を冷やすんだ。クリスティア、リリア、それぞれ別々の部屋で待機しなさい。」

 お父さまの厳しい声に、リリアも黙り込み、私は泣きながら部屋を出た。

 廊下を歩きながら、胸と頬に残る痛みと、悔しさで足が震えた。

「お母さま……私はどうすればいいの……?」

 問いかけても、答えは返ってこない。
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