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本編
6話
今日から本格的なリハビリが始まる。
……とはいえ、部屋でも言われた通りできる範囲のことは続けていたから、そこそこで本当に“そこそこ”動けるようにはなった。
壁の時計は八時五十八分。迎えが来るのは九時。
(そろそろかな……)
そう思った矢先、部屋の扉がガラガラと開いた。
「龍宮さーん、迎えにきましたよ!」
元気な声とともに長野さんが顔を出す。
「あれ? 車椅子ですか?」
「そうですよ。まだ歩けるってほどじゃないですからね!」
にっこり笑いながら車椅子を押し、中へ滑り込ませる。
「さぁ、支えますから乗りましょう!」
「ご、ごめんね。本当に重いでしょ?」
「事実を言うと重いわけじゃないですけど、梃子の原理って知ってます? あれ使ってるんで大丈夫です!」
「なるほど、そうなんですね」
「そうじゃなきゃ女性が男性支えられませんって~」
「ははっ、確かに」
そんな軽口を交わしながら廊下へ。
エレベーターで一階に降りると、少し奥まった場所にあるリハビリステーションへ向かった。
「おはようございます!」
リハビリステーションに到着すると職員らしき男性が礼儀正しく挨拶してきたので、こちらも返す。
「龍宮翔さんでお間違いないですか?」
「はい」
「俺は龍宮さんの担当になった村上聡です! よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします」
(爽やか体育会系イケメン……身近にイケメン多すぎじゃない?)
村上さんは歯を見せて笑い、
「まずは身体、固まってると思うのでほぐしていきましょう!」
「はい」
「じゃ、マットのところにどうぞ~」
誘われたマットに向かい、軽く準備運動をすると――
「はい、では体操から!」
お馴染みの音楽が流れた。
(ラジオ体操第一……!)
しかし終わった頃には、軽く息が上がっていた。
「ふぅ……」
「疲れました?」
「ええ……ラジオ体操でこんなに疲れるとは……」
「ラジオ体操でも本気でやると疲れますからね。昔ダイエットで流行ったくらいですし」
「あ~確かに、そんな時期ありましたね」
「ちょっと休んだら柔軟いきますね。飲み物持ってきますので」
戻ってきた村上さんが差し出したのは、透明のボトルに入った謎の飲み物。
「お待たせしました」
「すみません、ありがとうございます」
一口飲むと――
「ん! これ美味しいですね。何のメーカーですか?」
「あー、これ俺の手作りなんで売ってないですよ」
「えっ、すごい!」
「いやいや、簡単なんで全くすごくないっす。……ないです」
「いや、俺なんて作ろうとすら思わないですよ」
「褒めないでくださいって! ほら柔軟しますよ!」
「ははっ、はいはい」
「では、足を前に伸ばして……つま先触れます?」
「うっ……無理! お腹が邪魔で!」
「ははっ……っと、すみません」
「いいんですよ、太ってるのは自覚してます」
「いえ……じゃあ開脚してみましょう! 横ならいけるかも」
「あ、これはできる! お腹の肉が邪魔しない!」
「ぷっ……ちょ、ほんとやめてください自虐ネタ!」
「いや~特に理由はないよね」
堪えきれなくなった村上さんが、腹を押さえて笑い出した。
「ふぅ……お腹痛い。龍宮さんのご子息ってことでもっと近寄りがたい人かと思ってましたけど、めっちゃ面白い人ですね」
「そう? 楽しんでくれたなら良かったよ」
「いやほんと楽しかったですけど、自分のこと悪く言わないでくださいよ……笑った俺が言うのもなんですけど」
「ありがとうね」
⸻
「翔様」
振り返ると和也が立っていた。時間を過ぎていたらしい。
「ごめん和也、待たせちゃった」
「いえ、お気になさらず」
村上さんに挨拶をしてその日のリハビリは終了した。
「どうでしたか、リハビリは」
「うん、楽しかったよ。担当の村上さんも良い人だった」
「それは良かった」
「ねぇ和也……トレーニング始めてみたいんだけど……」
「トレーニング、ですか? 何故また」
「今日、お腹がつっかえて大変だったから……ウエイトコントロールしたいなって」
「なんだ、そんなことだったのですね」
「そんなことって……」
細い人にはこの苦労わかんないのかな。
「今のままでも、もちもちして可愛らしいではないですか」
(……ん? 何言ってんだこいつ?)
「いや可愛くなくていいし。痩せたいの」
「そこまで言うなら先生に聞きますが……動けるようになるまでは無理ですよ? それでも良ければ」
「うん、大丈夫! お願い」
「承知しました」
(はぁ……前は筋トレしてたのになぁ。今の身体、動きづらいし太ってるし体力ないし……)
⸻
翌朝
リハビリの前、和也がやってきて…
「翔様。先生からの返事ですが……“動けるようになったらOK”とのことです」
「ほんと!? よかったぁ!」
思わず声が弾んでしまい、和也は小さく笑うのだった。
⸻
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