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連載
120 話 精霊結晶2(2021.08.12改)
しおりを挟む目の前の景色に目を奪われている間に、それはいた。それが何時からここにいたのかは分からない。
――それは話しかけてきた。
「どうだいキレイな滝と泉だろ、ここは私たちにとって自慢の場所なのさ」
目の前のそれはスライム似た魔物にも見える。透明な人の形をした何か……透明でも人の形に空間がずれていたため、かろうじてそれを認識することが出来た。
ウオルルであるゲコタの固有魔法『背景同化』に近い能力なのかもしれない。
「ゲコタ君とは違うよ、これは能力なんかじゃない、私そのものの姿さ……私には、まだ形が無いからね」
心を読まれた?僕がその疑問を口にする前に答えが返ってくる。
「ここは特別な場所だからね、キミの思ったことが私には見えているんだよ。で……何か聞きたい事があるんじゃないのかい」
〝心が読めるのなら、わざわざ聞かなくてもいいのに〟……そう心の中で愚痴りながらも、この遣り取りにも意味があると思えた。
「ここは何処で、何故僕はここにいるんですか?」
「ここは私たちの家で、私と話をするためにキミはココに呼ばれたのさ」
いつの間にか、透明の人の形をしたモノは複数に増えていた。
「キミに伝えなきゃいけないことがあるんだ。その前に質問さ、キミは私が怖くないのかい?少しくらい怖がってくれてもいいんだよ」
透明なそれが笑った気がした。
「敵意は感じませんし……僕は従魔師ですから、魔物だからといって全てが怖いとは思いません」
僕だけじゃなく、背中にある生樹の杖も反応してないし、悪い魔物ではないと思う……少し不安だけど。
「魔物ねー、人は自分と違う存在をすぐに魔物と呼びたがるよね!神すら魔物と呼んじゃうこともあるみたいだし、人という生き物はどうしてそんなに差別が好きなんだい」
「流石に神様を魔物と間違える人は、いないと思います」
「断言する、直接神の姿を見たら人は絶対魔物と呼ぶ!神は必ずしも人の形をしているわけじゃないんだ。蛇や竜や犬といったイロイロな生き物の姿をしているんだよ、大きな蛇を見て人は神と呼ぶのか?きっと魔物と呼ぶだろうね、そして恐れる。でもさ、キミだけはそんな神に会っても剣を向けないでくれると嬉しいな……なーんてね」
それは、そう話すと今度は大声で笑いはじめた。彼?彼女?なりの冗談だったんだろうか?話がまったく噛み合わないし進まない。そこで、またひとつ疑問が浮かぶ。それは神様を見たことがあるんだろうかと。
「あの……あなたは、神様を見たことがあるんですか?」
「ウン、あるよ。でも詳しくはヒミツね、ニャハハハ」
掴みどころのない生き物だ。性格もコロコロ変わるし、それは、人差し指を口と思われる場所に当て〝シー〟と静かにする様にと注意する。ナゼ……あれが人差し指で、それを口に当てたと僕は思ったんだろう……透明なのに。
「雑談はここまで、大事な話をするために呼んだんだからね!今日は、これについて伝えておきたいことがあってキミを呼びました」
突如目の前に、従魔の住処に置いてあるはずの召喚の壺と双四角錘をした青色の水宝玉、精霊の結晶が現れた。
「どうして、ここにあるんですか?」
「そんなことはどーでもいいじゃないか、盗んだりはしないから安心してよ。『これは』今回は開けない方が良い。今回使うなら『こっち』にするんだ」
それは、精霊の結晶を選び僕の前に差し出す。
「どうして、召喚の壺じゃダメなんですか?」
「それはね、今開けると『これ』から善くないモノが出てしまうからなんだよ」
僕はその答えに困惑した。召喚の壺から出る魔物はランダムなはずだ。それなのにそれは、何が出てくるかが分かるように話す。
「 『これ』から何が出てくるか分からないよ。でもね、『これ』は周囲の環境に強く影響を受けるんだ。今この場所は人とゴブリンの憎悪に溢れている。戦争が起きている場所じゃ開けちゃいけない物なんだよ。出て来るモノはゴブリンキングを倒す力を持つ者かもしれない。同時に、君たち人間をも滅ぼす者かもしれないんだ」
召喚の壺が環境に左右されることは、僕の実験とも合致する。ただ、人や魔物の気持ちにまで左右されることまで意識が向かなかった。精霊の結晶を使えと言われても、僕の魔力では使えなかったし、どうすればいいんだろう。
僕の心を見透かすように、それは話を続ける。
「『これ』を使うには、大きな魔力が必要なんだ。キミらがいうテイマーが使えば『これ』は、精霊と人との間を取り持つ鍵になる。だけど……魔術師が『これ』を使えば大規模破壊兵器にもなるんだ。『これ』には精霊の力が宿っているからね」
「でも、僕の魔力では、精霊の結晶を使うことはできませんでした」
「確かにキミの魔力では無理なはずだ。だから少しズルをする」
「ズルですか?」
「そうそう、裏ワザを使うんだ。キミの近くには大きな魔力があるじゃないか、キミはスパルトイを産み出すほどの魔力が宿る土地を持っていたはずだよ。畑に埋めてもいいし泉に沈めてもいい、ゴブリンキングと戦う前に『これ』を使い精霊の力を借りるんだ」
それが話し終えると同時に、強い風が吹いた。
一度目の強い風が吹くと、透明な人の形をしたモノと光の蝶が消えた。
二度目の強い風が吹くと、水が噴き出す岩と泉と池が消えた。
三度目の強い風が吹くと、白い木が消えて、森が草原へと変わる。
声が聞こえて来た。
「君には期待しているんだ。どうか私と私たちを解放してほしい。それが君の助けになるはずだよ」
その後、世界は黒く塗られてしまった。
✤ ✿ ★
目を覚ますと。僕は、従魔の住処にある自分のベッドの上にいた。〝やけにハッキリとした夢を見た〟体を起こすと僕に気付いてみんなが集まってくる。
上半身を起こした僕に、ローズが抱き付いてきた。
(お父様、やっと目を覚ましたんですね……心配しましたわ)
ローズの目からは涙が溢れ、スライムたちは体を伸ばし嬉しそうに踊る。ドングリはその場で跳び上がり、テリアやボロニーズは万歳を繰り返す。みんな心配してくれたんだろう。
「心配をかけてごめんね」
僕は二日間も眠っていたらしい。寝ている間に誰か来たかもしれない……と、急いで従魔の住処の外に出た。借りた職員寮の部屋の扉の下に一通の手紙が差し込まれていた。
手紙には『冒険者たちはまだルフト君を諦めていないみたいだ。あと五日前後は職員寮から外出しないほうがいいかもしれない。それと、ゴブリンの侵攻は、西の砦と南のキャンプ地で食い止められているので安心してほしい。今はゆっくり休むように――カストル』こう書かれていた。
僕は、部屋の外に吊るした黒板に返事を書く。『わかりました。動きがあったら早めに教えてください』と、これで良し。
次は精霊の結晶を畑に埋めるかフェアリーウエルに沈めるかを考えないと、夢……現実なのかもしれないけど、それを信じるのなら泉に沈めるのが正解だよね。
「あるじ、なにしてる?」
フェアリーウエルに精霊の結晶を投げ込む僕を見て、テリアが首を傾げながら聞いてきた。
「夢の中で出会った変な生き物に、こうする様に言われたんだよ」
「ゆめのなか?あるじ、だいじょーぶ」
「大丈夫!きっと良いことがあるはずだよ」
「あるじねすぎて、おかしく、なった?」
僕の話が理解出来ないと、テリアは頭の上にクエスチョンマークが浮かびそうな表情を見せる。
〝大丈夫だから!〟と僕はテリアの頭を思いっきり撫でる。たまに当たるテリアの耳の感触がプニプニしていて気持ちよくて思わず長めに撫でてしまった。
「あるじ、なにする、くすぐったい、みみはだめ」
そう言いながらもテリアは、僕が撫でやすい様に少ししゃがみ嬉しそうに笑う。他の従魔たちもそれを見て、自分も自分もと、僕に体を寄せてきた。
みんなの反応は嬉しいけど、アルジェントのサメ肌は擦れると少し痛い。
それでも、僕は笑いながら寝ている間いっぱい心配してくれたとみんなに、お礼を兼ねた触れ合いを楽しんだ。
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