ボッチ冒険者の私が魔法職の少女をナンパしてみた

神子さん

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第一章 パーティ結成編

第6話 修行編スタート

「修行編の開幕です!」

 そう高らかに叫ぶのは装備を整えなおして以前よりも魔術師らしい風格を漂わせているイチカだ。
 私達は現在リーベルの隣町、ジルの町周辺の平原に来ていた。
 ここにはリーベル近郊よりも強い魔物が多く生息しており、リーベルで腕を上げた冒険者達が次なる目標に向けて腕試しの目的で訪れる事も多い場所だ。
 そんな場所に来たのは勿論イチカの育成の為、イチカ風に言うと修行編突入の為である。



 ――――時は今朝まで遡る。
 私達はアリスが帰った後、朝食を済ませて今日の予定を考えていた。
 
「私は最速で強くなりたいです」

 イチカは食器を洗いながら私に言った。
 家で女の子が食器を洗ってくれている……なんて素晴らしい光景なのだろうか。
 今日はこのまま家で2人仲良くしていればいいのではないだろうか。
 と思う私の心を抑えつつ私は冷静に返答をする。

「最速というのは余り推奨出来ることではないな」
「どうしてです?」 
「危険な橋を渡ることになるだろうし、そもそも数日で身につくような付け焼き刃で皆が強くなれるなら誰も苦労はしないだろう」
「それはそうですよね」

 私の説得に、イチカは特に反論は無かった。
 強くなる。それにはアリスの言う通り地道に足元の問題から解決していくしかないのである。

「ただ戦闘技術や経験は兎も角、モンスターを倒して基礎の底上げを図るというのが無難な道だろうか」

 魔物を倒すと基礎能力が上がる。
 冒険者は皆多くの魔物の命を糧に強くなってきた。
 
「つまりレベルアップだ!!!」
「うむ。それと装備の見直しか」

 私は洗い物をするイチカの装備を眺めた。
 あまり魔力が篭っていないほぼ布のような魔術師のローブと現在椅子に掛けてある普通の帽子、そしてただの木の杖。アクセサリーも無し。
 そして後ろ姿からでもわかる豊満な胸。
 スリットの隙間から覗く健康的な脚、丸くてかわいい臀部。
 洗い物の為に結んだ髪と、いつもは隠れているうなじ。
 ふむ……えっちだ。



 じゃなくて。

「君のスキルによる弱体化をカバーするには装備を整えるのが手っ取り早いだろう」

 イチカの直近の問題である魔法攻撃力常時マイナス50%というスキル。
 無効化の手段が現状ない以上は能力値の底上げでカバーするしかないだろう。
 
「でも……」
「お金の事は気にしなくていいと言っただろう。長い付き合いになるんだから、そのうちご飯でも奢ってくれればいいさ」
「ありがとうございます。いつかお返し出来るように頑張ります!」

 私がお金を出すことを素直に受け入れてくれて助かる。
 イチカ自身もなりふり構っている余裕は無い、と思っているのだろうか。
 
 慌てなくてもいいのに。
 私たちの冒険者生活は始まったばかりなんだから。
 まだゆっくりと、私は君との時間を過ごしていきたい。
 
 出会って2日目でこんな感情を抱いている私と、冒険者を始めて2日目で人類にとっての大ボスと戦う決意を固めたイチカ。
 そのどちらがおかしいのだろうか。
 あるいはどちらもおかしくて、どちらも正しいのかもしれない……。

 

 そして私達は繁華街にやって来た。
 勿論イチカの装備を整える為である。
 魔法職の知識はあまり無いが、ギルドで息を殺しながらクエストを探している時に盗み聞きした魔法職の冒険者がよく通っていると言っていた魔道具のお店、私はそこに行ってみる事にした。

「二人でお買い物ってなんだかデートみたいですね」
 
 私の横を歩くイチカがそんな魔性の言葉を囁いた。
 デート、デートね。

「浮かれていられるのは今のうちだぞ。今日から厳しい特訓なんだからな」
「そうですね!」

 ……私はバカだ。
 デートみたいと言われて、日和ってしまった。
 動揺して内容のないお説教みたいな言葉しか出てこなかった。
 なぜ素直に同意できないんだ。

 私が自身のコミュニケーション能力の低さに絶望していると、目的地が見えてきた。
 リーデルの繁華街に建てられたそのお店は一見古臭い雑貨屋のような佇まいだった。
 
「魔法職の店と言うのはなんでこうも埃っぽい感じなんだろうか」
「雰囲気があって私はいいと思いますけどね~!」

 薄暗くて埃っぽい店内に鼻がムズムズしている私とウキウキで店内を見て回るイチカを年老いた女性の店主が出迎えてくれた。

「いらっしゃい。始めてみる顔だね」
「はじめまして!昨日から冒険者になりました!!!」
「そうかいそうかい。じゃあ少し待ってて」

 そういうと店主は店の奥から水晶玉のようなものを持ってきた。

「これは昔の勇者様のお仲間が使用していた鑑定用のマジックアイテムでねえ。魔術師の得意な属性や魔法の系統がわかるアイテムなんだよ」
「魔法の系統ですか?」
「攻撃が得意とか補助が得意とか。偶に呪術や聖職者向きの子とかもいるから早めに適性は測っておいた方がいいからねえ」
「なるほど。便利だな」

 私は魔法のセンスが無いと思うがこういう診断みたいなイベントはちょっと惹かれるものがある。
 子供の頃、田舎の友達とよく魔術師の著した占い本を使って占い師ごっこもしたものだ。
 確かその時の占い結果は、『肉欲に支配されて道を大きく踏み外す』……。
 私は肉欲をコントロールしているので今のところ問題ない。
 
 私がソワソワしているとその様子に店主が気づいたようだ。

「剣士のお嬢さんもよかったらやってみるかい?」
「……お願いします」

 顔が熱くなるのを感じながら私は店主のお誘いに乗ることにした。
 イチカがニヤニヤしながら私のことを見ている。
 からかうのはよせ、と小声で呟いた。

「じゃあ水晶に手をかざして見て」
「こんな感じですか」
「そうそう……これは!!!!」

 店主は驚いていたが、私には変化がよく分からなかった。
 しばらく何かを考えた後、店主は口を開いた。

「剣士のお嬢さん……君は魔法のセンスがからっきしだね。若干呪術の才があるようだがそれも一般人程度だろう」
「そう……ですか」
「ベアさん……」

 わかっていた事だが私にはセンスが無いらしい。
 微妙に呪術のセンスがあるというのもなんというか……という感じだ。
 完全な偏見なのだが呪術師は陰気な雰囲気の術者が多い。
 大規模なレイドボスで活躍する呪術師のデバフのおかげで命拾いした場面はたくさんあるから悪くは言いたくはないのだが。
 まあ私の本質も陰気なソロ冒険者なわけなので、呪術師の印象を更に下げる一員になってしまった。という訳なのだが。
 
「……じゃあ次はそっちのお嬢さんだね」
「はい!」

 前座であるセンス無し子の出番が終わり、いよいよ本命であるイチカの鑑定が始まる。

「じゃあ手をかざして」
「はい!!!」

 気合いの入った声で返事をしてイチカが手をかざした。
 おお!これは!!!

「なんかすっごい光ってる!!!」
「これは!」

 魔道具の水晶が輝かしい光を放つ。その光は薄暗い店内を光でつつみ、店の外にまで発光していた。

「もういいだろう。手を離しなさい」
「はい!!!!」

 店主の指示で手を離すと、先程までの煌々とした光は消えた。
 イチカは鑑定前よりも元気が増えている気がする。

「ふむ……君は術者としてのセンスがかなりあるようだ」
「ありがとうございます!!!」
「ただ……その才が何に由来する物なのかが分からなかった。君はダイヤの原石のような才を持っているようだな。」
「つまり……どういうことだ?」

 私が結論を急かすと店主は困ったように言った。

「つまり何をどう伸ばしても上手くいくが、現時点で一番の適性は分からないということだ」
「つまり……育成の指標が見えてこないということか」

 それは困った。イチカが求める最速での成長。
 その手がかりがひとつ消えてしまったという事だ。

「まあそんな気はしてました」

 しかしイチカはそうだろうなと思っていたような顔をしていた。

「私のスマホ、というか鑑定モドキみたいな道具覚えてますか?」
「あの光る板か」
「そうです。昨日の戦闘で私のレベルが上がっていたのでステータスも上がってないか確認してみたんですよ。そしたら数値が全く変化していなくて。おかしいなと思って色々いじってみたら、スキルポイントを自由に振れるタイプのビルドシステムだったみたいなんです」
「ふむふむ」

 なるほど。わからん。
 スキルポイントってなんだ。

「まあつまり自分の好きな塩加減で攻撃力とか魔力とかの基礎値を上げたり、特殊なスキルを選んで取得出来るみたいな感じです」
「それは便利だな」
「だから現時点での才能が不明というよりは、どう伸ばすかがまだ決めてないから測定不能だったということだと思います」

 自分の望んだ通りの能力を手に入れられる。
 それは持って産まれたものに左右されるしかない人類においては相当稀有な才能じゃないだろうか。

「凄いじゃないかイチカ」
「はい……でもこれってやっぱりゲームの設定みたいですよね」
「?」
「ごめんなさいなんでもないです」

 イチカがコホンと咳払いをした。
 
「ですので今後の育成方針は必要になってから決めるとして、ひとまず魔法攻撃力と魔法スキル取得をメインにあげていこうと思います」
「いいんじゃないか?」

 魔術師系統の攻撃能力は、ボス戦特化の呪術師やサポート特化の聖職者と比べて潰しが効く。
 好きな能力を入手出来る方法があるのならその決断は先延ばしでもいいと思い、私はイチカの意見に同意した。

「という事なので魔術師の装備を一式お願いしたい」
「畏まりました。イチカさんでいいのかな?採寸をしたいのでこちらにお願いします」
「分かりました!」
「イチカちょっと待ってくれ」

 そう言って2人が店の奥に行こうとしていたので少しだけ待ってもらう。

「私も少し街へ買い物をしに行ってくる。用事がすんだら戻ってくるのでここで待っててくれ」
「了解です!」

 イチカが騎士のように敬礼した。
 可愛いね。


 そして私はイチカを魔道具店に残して次の目的地へ向かった。
 その目的地は、武器屋と防具屋である。
 イチカの装備の新調と合わせて、私の装備も新しいものへと変えることにしたのである。
 といってもこの町で今の私の装備より上質な装備は恐らく手に入らない。
 私の長剣も鎧も、3年間のソロ活動中に手に入れたドロップアイテムで鍛えた特注品だ。
 しかし今回は、言ってしまえば私自身の弱体化。それに意味を見出して武器屋に足を運んでいる。

「すみません。この剣と盾をください」
「あいよ!あれ?お客さん。腰の剣はこの剣よりも質のいい武器に見えますが?」
「気にしないでくれ」

 というやり取りを防具屋でも行い、購入したものを魔法の道具入れにしまって私は魔道具屋に戻った。

 イチカの装備の新調も終わっていたようだ。
 採寸を取っていたので時間がかかるかと思ったが意外にもスムーズに手続きが進んだようである。
 イチカの新しい装備は、フード付きのローブと先端に結晶がついた魔法のロッドという先ほどまでの装備をワンランク上げたようなものだった。

「この杖はすごいですよ!無属性魔法の攻撃力に20パーセントの補正がかかるみたいです!しかもローブにはロッドに魔力を込める際のサポート機能まであるみたいです!」

 イチカはスマホをみながらぴょんぴょんと飛び跳ねてそういっていた。

「一度家に古い装備を置いて、それからギルドでクエストを受注しにいこうか」
「わかりました!」

 

 そして現在。

「修行編の開幕です!」

 ということだ。
 
 ギルドで受注したクエストはサイクロプスの討伐。
 この平原でゴブリンの強化種、ホブゴブリンの群れを率いて通行人に悪さをしているので、そいつらを駆除することが今回のクエストの達成条件である。
 だが、今回はあえてそのクエストをしばらく無視して、ひたすらこの辺りのモブをなぎ倒していってイチカのれべりんぐ、養殖をすることにした。

「ベアさん、本当にそんな装備で大丈夫ですか?」
「大丈夫だ、問題ない」

 私の新装備を心配そうな顔をするイチカに親指を立てた。

 私の新装備は武器屋で安売りされていたブロードソードとバックラー。
 そして重い鎧を脱いでシャツとズボンに着替えて、その上から胸当てとプレートを付けたいわば飛び道具を装備していないスカウトのような出で立ちだった。

「昨日のクエストで君のスキルが発動した時のことが気になってな。少し装備を弱体化してみたんだ」
「というと?」
「君のスキルは仲間がピンチの時に能力が上がるものといっていた。だが前回能力が発動した時はゴブリンの投擲を受けていたとは言えピンチというほど切迫した状況ではなかった」
「まあ言われてみればベアさんならあそこからでもなんとかなっていそうですよね」
「うむ。ということは君のスキルはピンチというよりも、攻撃を受けたら確実に怪我をするな~くらいの状況でも条件を満たせるんじゃないかと思ってね」

 だからあえて装備の防御力をだいぶ落としてみた。ということだ。
 ただ防御力が下がると今までのように無茶な立ち回りはできないので護身用の小盾を装備して、盾と併用しやすい片手武器を準備してきたというわけだ。
 普段使用している刀身が長めのツーハンドソードとロングソードの中間のような剣は基本的に両手で使用していたので、今回はお留守番だ。

 というわけで、装備も一新した我々はイチカの修行。という名の養殖が始まった。
 
 スライムをちぎっては投げ、ゴブリンの足を切り落としては投げ、ウルフの鼻から顎を切り落としては投げ。
 とにかく抵抗できないくらい弱らせてからイチカにとどめを刺してもらい続けた。

「まだいけるか?」
「大丈夫です!」

 今日は修行一日目なので、とりあえず能力上昇の伸びが悪くなるまではひたすらこの作業を繰り返すことにした。
 昨日のイチカはチームとしての動きにこだわりがあり、このような露骨な経験値稼ぎのようなことは嫌がっている節があったが、目標が決まった今は文句一つ言わずにこの作業をしていた。
 魔力が切れた時用のエーテルも多めに準備してある。ブロードソードの替えもいくつかある。というかこの作業を効率的に行うために使い捨てのブロードソードを準備してきたところはある。
 作業は順調だが、一つだけ読みが外れた点もあった。
 イチカのスキルの発動条件、その読みが外れたのである。
 何度か攻撃を受けそうな場面があったが、特にスキルが発動したような形跡はなかった。
 ということは彼女のスキルが言うところのピンチは、彼女の主観的な要因が大きいのだろうか?

 私達はこの作業をお昼ごはんの時間まで続けた。
 平原のど真ん中は絶えずモンスターが現れる危険地帯なので、一度私達は街道近くまで移動した。
 
「すごいですよ!一日で一気に10レベルも上がりました!」
「それはよかった」

 スマホを指で操作しながらイチカがうれしそうに言った。
 イチカの言うレベルというものにいまいちピンと来ていないので私はいつも通り生返事で対応した。
 イチカの喜び方から見て労力に見合った成果はあった、と今は思っておこう。

「これでレベルは22レベ。ベアさんが80レベルだからこの調子で上がっていくのなら上位層に追いつくのも時間の問題かな?」
「私は80レベルなのか」
「でも80レベルの横に+のマークがついてるんですよね」

 イチカはスマホを見ながら首を傾げていた。

 「まあ私のことはいいさ。それよりも、お昼ご飯を食べ終わった後はもう少しモンスターを倒した後、サイクロプスを倒しに行こう」
 「今日ですか!?」
 「クエストを受注して挑戦もせずに帰れないからな」

 そもそもギルドに依頼されるクエストというものは、戦闘力を持たない一般人が困っているから依頼してくるのだ。
 しかも安くはない依頼料を払って。
 なので私情で先延ばしするのにも限度がある。

 私は先ほど街道へ戻る際にサイクロプスの一団の場所を確認していた。
 あの場所にいるのは確かに通行人にとっては邪魔だろう。

「というわけでイチカ、成長した君の力を試す時だ。取り巻きのホブゴブリンは私が相手をするので、君がサイクロプスを倒してみるんだ」
「……わかりました!」

 強くなるための道筋、その最初の関門に挑もうとするイチカは立派な冒険者の顔をしているように私は見えた。
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