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第一章 パーティ結成編
第8話 完璧なデートプラン
ベアトリクスとイチカはクエストクリア後、ジルの町を訪れていた。
ジルの町は湖の近くに作られた町だ。
新人の冒険者が集まり活気のあるリーベルから近いこの町を訪れている冒険者も多く、町に建てられたギルド内にも冒険者が多く滞在していた。
私たちがギルドの木の扉を開けると、数名の冒険者がこちらをみてひそひそと何かを話し始めた。
この場合、原因は大体私だ。
ソロのBランク冒険者というのは実力がある者からは異端者扱いを受け、英雄的行動や個人プレーの活躍に憧れる新人の冒険者からは尊敬の念を集める。
だからギルドや冒険者の多いところでは悪目立ちすることには慣れていた。
「おい見ろよあれ……」
まだ新人と思わしき冒険者の若い男がこちらを指さしている。
ハイハイまたですか。
「あの魔術師の女の子ゲロマブじゃね?」
「おっぱい大きいし顔もかわいいな」
「ちょっと声掛けにいかね?」
「隣のゴリラ女とパーティ組んでるんじゃないか?」
「あの人はソロ専で有名な変人だから多分他人じゃね?」
「じゃあ一人でここまで来たってことか。実力もあってかわいい魔術師ちゃん……」
どうやら彼らの視線は私ではなくイチカに向けられているようだ。
ていうかゴリラ女ってなんだ。
男性の心無い一言で普通に傷ついた年頃の可愛らしい乙女である私は、隣にいるイチカに視線を向けた。
装備の新調で魔術師の帽子を外し、代わりに詠唱速度があがるイヤリングを耳につけたイチカは今までとは違いその愛らしいご尊顔をむき出しにしている。
そして前を開けたローブの中に見えるインナーはボディラインがはっきりと浮かび上がっており彼女のスタイルの良さが強調されていた。
この天女のごとき乙女の隣に突っ立っていたら、確かに私はゴリラに見えたことだろう。
しかし、天女であるイチカはおむずかりのようだった。
「ベアさんにひどいこと言ってましたよね今。頭に来ました」
ぷんすこ怒りながらイチカがそういった。
「イチカ、私は気にしていないから大丈夫だよ」
最初は傷ついたが、状況を冷静に観察した結果私がゴリラであることは受け入れているウホ。
「気分が悪いから申し訳ないんですけど外で待ってます」
そう言ってイチカは扉を強く締めてギルドから出て行った。
「私の為に怒ってくれるなんて……君はなんて素敵な女性なんだ……ウホ」
私は身体だけではなく心までゴリラになりかけながらそんなことを思った。
ギルドの受付でクエストクリアの報告をした後、私は外で待っていたイチカと合流し、町を歩いていた。
「ベアさんがゴリラなんて見る目がなさすぎます!こんな綺麗なゴリラがいたら動物園にモデルのスカウトが殺到しますよ!!!」
「彼らは君と比べたときの私についてそう例えただけだ。普段から私のことがそう見えていることはないはずだ」
先程は心までゴリラになりかけていたギリギリヒューマンの私は怒れるイチカを宥めた。
「というか君の方こそ男性にいやらしい目で見られて気分は悪くなかったか?」
「いやらしい目?私はベアさんがゴリラしか聞いてなかったのでよくわからないです」
「なるほど、いい耳と目を持っているようだ」
都合のいい耳と目のおかげで下卑た男性の視線には気づいていなかったようだ。
だが荒くれものの冒険者が集まるギルドでは今日みたいなことがまた起こるだろう。
私がイチカを守護らねばいけない。
「イチカ、君のことは私が守る」
「いつも守ってもらってるから感謝してますよ」
「魔物だけじゃない、君をいやらしい目で見てくるすべての男からも……」
「よくわからないですけど。私って昔のナンパみたいなセリフで声をかけてきた人と今冒険者のパーティを組んでるみたいですよ」
「……過去はいつでも私を苦しめる」
ファーストコンタクトのミス。
これは後々まで尾を引きそうだ。
「そういえば私達って今どこに向かっているんですか?」
ギルドから今日宿泊する宿とは反対方向に歩き始めた私の後に続いていたイチカが目的地を聞いてきた。
「ああ、いいところだよ」
イチカの質問を短い言葉でかわした。
今から行く場所。そここそが私がイチカの特訓にこの町周辺を選んだ理由だ。
日が完全に沈み、民家から漏れ出る光と月明かりだけが頼りの状況で私達はこの町の名物であるジルの湖にやってきた。
「この町の湖はこの時期になると光虫が湖に集まってきてとてもきれいなんだ」
「なるほど! その景色を見てもらいたくてここまで来たんですね!」
そう、ジルの湖は光虫の集まる美しい湖。
つまり有名なデートスポットだ。
私は昔この町に初めて来たときから恋人ができたらこの場所に恋人を連れてこよう、と決めていた。
私とイチカは恋人ではなくただのパーティだが。
だがいずれは恋人になるんだ。
ちょっとぐらい前倒しにしても構わんだろう。
そして目的地である湖に私達は到着した。
その湖は、夜の闇に慣れてきた私達の目でようやく少し先が見えるくらいの暗さだった。
月の光が水面に反射している様は美しい。
だが光虫は全く飛んでいなかった。
いるのは水辺に集まる蚊だけだ。
「なん……だと」
私は膝から崩れ落ちた。
「り、リサーチ不足……なんということだ」
かっこつけて、ウキウキで来たのにこの体たらく。
なぜ今年は光虫が集まってきていないんだ……。
「大雨とかが降った後で蛍さんが集まりにくい年だったのかもしれないですね」
「すまないイチカ……」
遅い時間に無理やり連れだしてこの体たらく。
穴があったら入りたい。
しかしイチカは私の手を取り、優しく私に囁いた。
「私の為にサプライズを用意してくれてありがとうございます。今年がダメだったとしても来年また一緒に見に来ましょう」
「イチカ……」
イチカの優しいフォローに胸を打たれる。
――来年また来ましょう。
元の世界に帰りたい。そう言っていたイチカから来年の、未来の話をされた。
その言葉を心の中で復唱すると、私の目から熱いものがこぼれた。
その涙をイチカに見られないように私は顔をそらした。
私は不安なんだ。
君の望みを叶える手伝いをすること。
それがどう転んでも最後には別れに繋がっていることが。
私の涙に気づいたのか、手に伝わるイチカの力が強くなる。
しばらくそうした後、涙の引いた私はイチカをまっすぐ見つめた。
「ああ、また来年こよう」
「約束です!」
この先の未来が不安な私には、イチカとの約束がまるで蜂蜜のように蠱惑的な甘さだった。
ジルの町は湖の近くに作られた町だ。
新人の冒険者が集まり活気のあるリーベルから近いこの町を訪れている冒険者も多く、町に建てられたギルド内にも冒険者が多く滞在していた。
私たちがギルドの木の扉を開けると、数名の冒険者がこちらをみてひそひそと何かを話し始めた。
この場合、原因は大体私だ。
ソロのBランク冒険者というのは実力がある者からは異端者扱いを受け、英雄的行動や個人プレーの活躍に憧れる新人の冒険者からは尊敬の念を集める。
だからギルドや冒険者の多いところでは悪目立ちすることには慣れていた。
「おい見ろよあれ……」
まだ新人と思わしき冒険者の若い男がこちらを指さしている。
ハイハイまたですか。
「あの魔術師の女の子ゲロマブじゃね?」
「おっぱい大きいし顔もかわいいな」
「ちょっと声掛けにいかね?」
「隣のゴリラ女とパーティ組んでるんじゃないか?」
「あの人はソロ専で有名な変人だから多分他人じゃね?」
「じゃあ一人でここまで来たってことか。実力もあってかわいい魔術師ちゃん……」
どうやら彼らの視線は私ではなくイチカに向けられているようだ。
ていうかゴリラ女ってなんだ。
男性の心無い一言で普通に傷ついた年頃の可愛らしい乙女である私は、隣にいるイチカに視線を向けた。
装備の新調で魔術師の帽子を外し、代わりに詠唱速度があがるイヤリングを耳につけたイチカは今までとは違いその愛らしいご尊顔をむき出しにしている。
そして前を開けたローブの中に見えるインナーはボディラインがはっきりと浮かび上がっており彼女のスタイルの良さが強調されていた。
この天女のごとき乙女の隣に突っ立っていたら、確かに私はゴリラに見えたことだろう。
しかし、天女であるイチカはおむずかりのようだった。
「ベアさんにひどいこと言ってましたよね今。頭に来ました」
ぷんすこ怒りながらイチカがそういった。
「イチカ、私は気にしていないから大丈夫だよ」
最初は傷ついたが、状況を冷静に観察した結果私がゴリラであることは受け入れているウホ。
「気分が悪いから申し訳ないんですけど外で待ってます」
そう言ってイチカは扉を強く締めてギルドから出て行った。
「私の為に怒ってくれるなんて……君はなんて素敵な女性なんだ……ウホ」
私は身体だけではなく心までゴリラになりかけながらそんなことを思った。
ギルドの受付でクエストクリアの報告をした後、私は外で待っていたイチカと合流し、町を歩いていた。
「ベアさんがゴリラなんて見る目がなさすぎます!こんな綺麗なゴリラがいたら動物園にモデルのスカウトが殺到しますよ!!!」
「彼らは君と比べたときの私についてそう例えただけだ。普段から私のことがそう見えていることはないはずだ」
先程は心までゴリラになりかけていたギリギリヒューマンの私は怒れるイチカを宥めた。
「というか君の方こそ男性にいやらしい目で見られて気分は悪くなかったか?」
「いやらしい目?私はベアさんがゴリラしか聞いてなかったのでよくわからないです」
「なるほど、いい耳と目を持っているようだ」
都合のいい耳と目のおかげで下卑た男性の視線には気づいていなかったようだ。
だが荒くれものの冒険者が集まるギルドでは今日みたいなことがまた起こるだろう。
私がイチカを守護らねばいけない。
「イチカ、君のことは私が守る」
「いつも守ってもらってるから感謝してますよ」
「魔物だけじゃない、君をいやらしい目で見てくるすべての男からも……」
「よくわからないですけど。私って昔のナンパみたいなセリフで声をかけてきた人と今冒険者のパーティを組んでるみたいですよ」
「……過去はいつでも私を苦しめる」
ファーストコンタクトのミス。
これは後々まで尾を引きそうだ。
「そういえば私達って今どこに向かっているんですか?」
ギルドから今日宿泊する宿とは反対方向に歩き始めた私の後に続いていたイチカが目的地を聞いてきた。
「ああ、いいところだよ」
イチカの質問を短い言葉でかわした。
今から行く場所。そここそが私がイチカの特訓にこの町周辺を選んだ理由だ。
日が完全に沈み、民家から漏れ出る光と月明かりだけが頼りの状況で私達はこの町の名物であるジルの湖にやってきた。
「この町の湖はこの時期になると光虫が湖に集まってきてとてもきれいなんだ」
「なるほど! その景色を見てもらいたくてここまで来たんですね!」
そう、ジルの湖は光虫の集まる美しい湖。
つまり有名なデートスポットだ。
私は昔この町に初めて来たときから恋人ができたらこの場所に恋人を連れてこよう、と決めていた。
私とイチカは恋人ではなくただのパーティだが。
だがいずれは恋人になるんだ。
ちょっとぐらい前倒しにしても構わんだろう。
そして目的地である湖に私達は到着した。
その湖は、夜の闇に慣れてきた私達の目でようやく少し先が見えるくらいの暗さだった。
月の光が水面に反射している様は美しい。
だが光虫は全く飛んでいなかった。
いるのは水辺に集まる蚊だけだ。
「なん……だと」
私は膝から崩れ落ちた。
「り、リサーチ不足……なんということだ」
かっこつけて、ウキウキで来たのにこの体たらく。
なぜ今年は光虫が集まってきていないんだ……。
「大雨とかが降った後で蛍さんが集まりにくい年だったのかもしれないですね」
「すまないイチカ……」
遅い時間に無理やり連れだしてこの体たらく。
穴があったら入りたい。
しかしイチカは私の手を取り、優しく私に囁いた。
「私の為にサプライズを用意してくれてありがとうございます。今年がダメだったとしても来年また一緒に見に来ましょう」
「イチカ……」
イチカの優しいフォローに胸を打たれる。
――来年また来ましょう。
元の世界に帰りたい。そう言っていたイチカから来年の、未来の話をされた。
その言葉を心の中で復唱すると、私の目から熱いものがこぼれた。
その涙をイチカに見られないように私は顔をそらした。
私は不安なんだ。
君の望みを叶える手伝いをすること。
それがどう転んでも最後には別れに繋がっていることが。
私の涙に気づいたのか、手に伝わるイチカの力が強くなる。
しばらくそうした後、涙の引いた私はイチカをまっすぐ見つめた。
「ああ、また来年こよう」
「約束です!」
この先の未来が不安な私には、イチカとの約束がまるで蜂蜜のように蠱惑的な甘さだった。
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