名付けセンスのある派遣社員は無表情を見誤る

嘉月

文字の大きさ
4 / 11

4.

しおりを挟む
「流石よねー、苦木君。営業成績も良いらしいし、あの無愛想加減なら浮気もしなそうじゃない?狙ってる子多いと思うわー」

ムクドリ達を難なくかわして帰っていく後ろ姿を眺めつつ、FGMが楽しそうに声を掛けてきた。私がそんなつもりないのなんて百も承知のくせに。

「ですねー。ま、私には関係ないですけど」

だからクソデカボイスでちゃんと宣言しておく。こういう気遣いもできるのだから、ほんと流石フェアリーゴッドマザーというしかない。やっぱり私の名付けセンスは秀逸だと自画自賛して、朝の準備の続きを再開した。



労務が総務が入っているオフィスは女子率と男性の高齢化が著しいのはどの会社でも同じなのだろうか。私が所属するグループは小さいのでFGMと私と40オーバーの男性が5人。下っ端はもちろん私になるので、誰かのお土産を配るなんて雑務は当然、私が担当になる。
「お土産なんて共有スペースに置いて『ご自由にどうぞ』って書いとけよ」と思わないでもないけれど、おじさま達にはその文化はないので仕方ない。今日も、昨日まで出張に行っていた『無害』石井課長のお土産を部署内に配っていると、ムクドリAが声をかけてきた。

「ね、さっき苦木さん来てたでしょ?あれって何の用だったの?」

「あー、ちょっと申請手続きで書類の提出が必要で。お忙しいのに態々持ってきてくださったんです」

「そうなんだー。それってさ、何の書類?もしかして個人情報とか、わかっちゃう系?」

そうだよ。だって労務なんだから、誰かを扶養に入れますとか出しますとか個人情報バリバリに決まってるよ。って言葉はもちろん、心の中だけ。この会社うちの人事は鉄壁だから、情報漏らしてくれないもんね。どうにかって思ったら労務が1番手っ取り早いよねって言葉も。

「まあ、労務ですからねー。あ、ここの席の方って今日はお休みですか?」

「あ、ああ。今日は有給。で、あの」

「そうなんですね、じゃあ机に置いて置くので、出勤してらしたらご説明お願いします」

言いかけてる事には気付かないふりで、Aを振り切る。ついでにそれを見ていたにも関わらず、果敢に挑戦してきたBも瞬殺。
大体、こうやって情報聞き出したいなら普段からもうちょっと態度どうにかしとけよ。もちろん、そんな親切な指摘はしないけど。
度胸がないのか、直接言い出せなくて目線で聞いてきたムクドリCは視線を合わせないことで回避して配り切り、席に戻るとFGMが「お疲れ様。ふふっ」と堪えきれない笑いと一緒に出迎えてくれた。

「分かってたなら代わってくれてもよかったんですよ?」

「まさか。それに私が代わったら、それはそれでまた色々言われるでしょ?」

「それは・・・そうです、けど」

同じグループで一緒に仕事する女性がFGM彼女って事はこの会社に来てからの1番の幸運かも、とは思う。どんな良い人だって、所詮男性はこういう空気には気付けないし。とりあえず笑い続けるFGMを冗談めかして軽く睨んでから自分の仕事に戻った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

新たな道

詩織
恋愛
恋人期間2年。 婚約までしてたのに突然逝ってしまった。 気持ちの整理が出来ない日々。 月日はたっても切り替えることが出来ない。

どうしようもない幼馴染が可愛いお話

下菊みこと
恋愛
可愛いけどどうしようもない幼馴染に嫉妬され、誤解を解いたと思ったらなんだかんだでそのまま捕まるお話。 小説家になろう様でも投稿しています。

実在しないのかもしれない

真朱
恋愛
実家の小さい商会を仕切っているロゼリエに、お見合いの話が舞い込んだ。相手は大きな商会を営む伯爵家のご嫡男。が、お見合いの席に相手はいなかった。「極度の人見知りのため、直接顔を見せることが難しい」なんて無茶な理由でいつまでも逃げ回る伯爵家。お見合い相手とやら、もしかして実在しない・・・? ※異世界か不明ですが、中世ヨーロッパ風の架空の国のお話です。 ※細かく設定しておりませんので、何でもあり・ご都合主義をご容赦ください。 ※内輪でドタバタしてるだけの、高い山も深い谷もない平和なお話です。何かすみません。

あやまち

詩織
恋愛
恋人と別れて1年。 今は恋もしたいとは特に思わず、日々仕事を何となくしている。 そんな私にとんでもない、あやまちを

一夜の男

詩織
恋愛
ドラマとかの出来事かと思ってた。 まさか自分にもこんなことが起きるとは... そして相手の顔を見ることなく逃げたので、知ってる人かも全く知らない人かもわからない。

貴方を愛することできますか?

詩織
恋愛
中学生の時にある出来事がおき、そのことで心に傷がある結乃。 大人になっても、そのことが忘れられず今も考えてしまいながら、日々生活を送る

俺から離れるな〜ボディガードの情愛

ラヴ KAZU
恋愛
まりえは十年前襲われそうになったところを亮に救われる。しかしまりえは事件の記憶がない。亮はまりえに一目惚れをして二度とこんな目に合わせないとまりえのボディーガードになる。まりえは恋愛経験がない。亮との距離感にドキドキが止まらない。はじめてを亮に依頼する。影ながら見守り続けると決心したはずなのに独占欲が目覚めまりえの依頼を受ける。「俺の側にずっといろ、生涯お前を守る」二人の恋の行方はどうなるのか

貴男の隣にいたい

詩織
恋愛
事故で両親をなくし隣に引き取られた紗綾。一緒に住んでる圭吾に想いをよせるが迷惑かけまいと想いを封じ込める

処理中です...