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理性を無くしながら兎達は指名を待ち侘びる

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指先から二の腕までを覆う黒色をした手袋を纏った手で、男達は訪れた客達に酒や食事の提供を行っている。爪先から太ももまでを包む黒色のニーソックスの上から真紅のハイヒールを履いた足で優雅な歩行を見せ付けながら、男達は一スタッフとして仕事に勤しんでいる。
その様子は、ほとんど肌を隠していない淫猥さを引き立てるだけの衣装を身に着けた者とは到底思えない物だ。雌をかすかに感じさせる慎ましやかな膨らみを有した乳房の頂点ではしたなく尖りきった乳首を桃色をしたハート型のニップレスで隠し、黒く細い紐と睾丸のみを囲う面積しか無い黒色の布で構成された下着を装着し、頭頂部にあてがわれた白い兎の耳飾りと尻穴に差し込まれたアナルプラグと一体化している兎の尻尾飾りをひょこひょこと跳ねさせている人物とは考えられぬ程の冷静な態度で、男達は接客を行っている。
しかし、実際の男達はもう心も身体も限界だ。淫らな兎の格好を取った男達は、平静の仮面の下で欲望をはち切れんばかりに溜め込んでいる。はしたない姿を自ら取った事実に対する欲情と、その姿を自分達を目当てに店へと足を運んだ客達に視姦されている状況に対する興奮。そして、自分達がより淫らに火照り理性の壁を崩されていく様を見たいと願う客の金で振る舞われた媚薬入りの飲み物が引き起こした発情に苛まれている男達は、己の身体が無意識に本能を露わにしたおねだりを披露していることにももはや気付けない淫乱兎以外の何物でもないのだ。
桃色のハートを内側から押し上げている乳首を突き出して自己主張しながら酒を運ぶ兎。パンパンに張り詰め先走りを垂らしている男根と、尻穴から生えた尻尾を必要以上にふるふると揺らしながら食事をテーブルに置く兎。接客の表情を完全に忘れ、肉欲を欲する思考を剥き出しにした声音で注文を受ける兎。全ての男が快楽を希求する兎と化した淫蕩な店。そんな店の中に、とうとう一羽の兎を欲望から解放するアナウンスが響いた。

『○○さん、五番席指名です』

そのアナウンスを耳にした兎は、手にしていた盆を兎に扮していないスタッフに預けると、他の兎から寄せられる羨望の眼差しを浴びつつ指定された五番席へと足を運んでいく。
ようやくこの気が狂う程の疼きと欲望から逃れられる。その幸福を噛み締めながら指名を受けた兎は満足げに微笑んだ客が待つ五番席に到達し、がに股に足を開き頭部の後ろで手を組んで淫猥に変化した恥部がよく見えるようにしつつ、自分を買った客の男に感謝と服従の宣言を口にした。

「ご指名ありがとうございます、ご主人様。はしたない兎に慈悲を下さってありがとうございます、ご主人様。○○は今夜一晩、ご主人様だけの兎です。お好きなところを好きなだけ苛めて、この発情兎を無様に鳴き叫ぶくらいにイきまくらせて下さいね、ご主人様?」

人間を捨てた淫らな被虐を希求する言葉を頷きながら耳にした客が兎の身体に手を伸ばし願い通りに悦楽を加える光景を羨ましげに横目で眺めながら、肉欲の渦に取り残された兎達は自分への指名を求める思いの加速に合わせて無自覚の誘惑の勢いを強め、店内に漂う空気の淫蕩さを一層濃く深めさせていくのだった。
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