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残忍な口付けは情熱的に深められる

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朝の訪れを告げる扉の開く音が、狭い監禁部屋の中に響いた。それを耳にした男は睡眠すらも満足に取れない状況で一晩放置され動きが大きく鈍った思考に戦慄を募らせながら、部屋の天井と床から伸びた鎖の先にある黒革の枷達を両手首と足首に嵌められたことによって上下に引き延ばされ自由を奪い取られた裸体を苦しげにくねらせつつ、誇りを捨てて許しを請う怯えに染まった呻きを弱々しく漏らした。

「はぁ……あぉ、おあぁぁ……っ!」

ほんの数日前まで悪を憎む鋭い思いを携えていた目で慈悲をねだり、縛めを一切加えられていないというのに怒りの叫びさえも思い通りに放てなくなった開きっぱなしの口から唾液を垂らしつつ助けを求める意思を悲痛に示す哀れな男。敵対していた悪が開発した非道なナノマシンをたっぷりと塗布され男根を遥かに超える感度を有した器官に変えられた口内の肉が惨めに震える様子を見せ付けながら、舌と上顎が触れ合う快楽が生まれないよう開いた状態に保っている口から、悦楽に繋がる振動が発生しないギリギリの音量で懇願の声を紡ぐ無様な男。
そんな滑稽極まりない痴態を晒し、男根を露出させられている恥辱よりも口内を責め立てる異常な疼きに心と身体を掻き乱されている愉快な男を堪能する悪の男は、見る影も無く陥落した正義の男を無言で嘲笑いつつ歩み寄ると、そのまま何の躊躇いも見せずに哀願の呻きを無視して残忍な凌辱を注ぎ出した。
正義の男を自身の娯楽として監禁している悪の男はみっともなく開かれている口に右の人差し指と中指を嬉々として潜り込ませ、恐怖と絶望を露わにする予想通りの反応を味わいながら、性器を超える淫らな弱点と化した肉達を意のままに蹂躙し抗えぬ正義の男をよがり狂わせ始めてしまったのだ。

「んぅ!? あぶっ、もぁ、ほ! んむぉぉぉっ!!」

口内に侵入した二本の指が、左右の頬肉や上顎、狭い範囲で逃げようともがく舌を好き勝手に弄ぶ。普通であれば不快さと気色悪さのみを抱かせるそれらの刺激を強烈な快楽と紐付けられてしまった男は、ついさっきまで声を抑えていたのが嘘のような甲高い絶叫を撒き散らしながら、あっという間に口だけで絶頂へと上り詰めさせられていく。

「んぅ、んむっ、みゅぁぁぁっ!!」

口でイかされたくない。憎い男の前で射精を迎えたくなどない。当たり前に湧き上がるはずの拒絶を浮かべる余裕も無くした思考を口をいたぶる甘く苦しい至福に翻弄されながら、男は触られてすらいないのに限界まで張り詰めた男根から精液を勢いよく噴き出させた。
だが、一回射精に至ってもこの残忍な淫獄は終わらない。指に噛みつく力も残されておらず、食事さえも快楽無しではもはや摂れず、呼吸すらも快楽の引き金になるよう仕立て上げられた惨めな口で遊ばれる拷問は、まだまだ終わらない。
抵抗する気力も手段も没収された男は、絶頂に喘ぐ口から引き抜いた指を愛しげに舐めしゃぶった悪の男の口がもたらす濃厚な口付けという責め苦に、嫌悪を募らせることも許されぬまま意に染まぬ甘い悦びを覚えさせられるしか無いのだ。

「あぶっ、んむぅぅ! はふっ、んぢゅ、ぷぁ、んみゅぅぅぅっ!!」

許可無くねじ込まれた舌が、鋭敏に改造された口内の肉を指とは全く違う速度と感触で弄り倒す。冷酷で熱烈な口付けに容赦無く追い詰められる男はもう、悪の男の衣服を次々と迸らせる精液で汚していく己の男根をとめることも、まるでこの状況を嬉しがるかのように悪の舌へと絡み付き返す自身の舌を制することも叶わない。
愛とは真逆の意思を向けていた男からの苛烈なキスで為す術無く幸福を増幅されながら休み無く絶頂に達する正義の男の悶絶を目で、耳で、肌で、匂いで、そして舌と唇で確かめている男は、今以上に苦しみの量を増やす為に立ったままの体勢を強いられた裸体を抱き寄せて快感を散らす目的で無意識に行われる身悶えを封じつつ、口付けをより情熱的な物へと深めていくのだった。
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