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冷酷な男は風呂場で情報を引き出す

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湯気が漂う風呂場に、水の音が響いている。その説明だけを聞けば何の不思議も無い、むしろ当たり前の状況だと誰もが思うだろう。しかし、今浴場で響いている水音は明らかに異常さを含んでいる。何故ならその水音には、息苦しさに震える男が放つ言葉にならない悲鳴が混ざっているからだ。

「刑事さーん、あと三十秒だよ。頑張れ頑張れー」
「ぶばっ! ぼ、ごぶぅぅっ! う、ぼ! がぁぁぁーっ!」

腰にタオルを巻き、浴槽の近くに置いた椅子に腰かけている男がにやにやと笑いながら、自分が刑事と呼んだ男の苦悶の様子を観察している。観察されている側の刑事は、男の意地の悪い言葉に対して怒りを覚えられず、反応を返す事すら出来ない。意地の悪い男の右手に縄を引かれ、浴槽の底に打ち付けられた金具を通して縄で鍵付きの赤い首輪を引かれ、顔を無理矢理浴槽に張られたお湯の中へと引きずり込まれ呼吸を封じられているのだから当然だ。
もちろん、刑事はただ大人しく責めを受けている訳ではなく、水責めからどうにかして逃れようと必死になってもがいている。だが、両手首を背中で縄に縛られ、二の腕を胸部に括り付けられた状態では手を使えず。足首と太ももを縄で短く結合された状態では足を使えず。手と足の自由を奪われた裸体では浴槽から自力で這い上がる事はおろか、首輪を引く男の手の力に抗う事さえ思い通りにならない。
結果として、刑事の男は必死にもがく物の成果は一向に得られず。刑事はただ息苦しさに追い詰められながら無駄に試行錯誤する無様な姿を微笑む男に提供するだけだ。

「さーんー、にーいー、いーーーーち! はいお疲れ様ー」
「あ、ぷはぁぁっ! はー、はぁーっ…!」

わざと最後の数秒を時間をかけて数えた男が右手に握った縄を緩めると、刑事は急いで顔を水中から脱出させ呼吸を行う。
そうして無我夢中に呼吸を行う刑事の顔は疲弊し、切羽詰まっている。度重なる水責めに屈辱と死の恐怖を叩き込まれた刑事は、表情のみでも分かるくらいに弱っていた。
それ故に、男はこの責め苦を始める前にぶつけた問いを、再度刑事にぶつけた。そろそろ、答えてくれる頃合いだと思ったからだ。

「刑事さん、話してくれる? 俺達の組織に潜入してる刑事さんの仲間は、一体誰なの?」
「あ、ふっ…はなさ、ない…っ! どんなに責め立てられても…話す、ものか…っ!」

男の問いに対して、刑事は気丈な返事をした。それが間違いの返事だと全く気付かないままに、男が欲しがっていた答えを口にしてしまった。
駆け引きが不可能な状況になるまで追い詰めた後ぶつけられた質問に、刑事は自分が尋問前にははぐらかしていた事を思い出せず潜入者の存在を肯定する答えを返してしまった。
それさえ分かれば、十分。後は組織への加入時期と行動を照らし合わせ、疑わしい人物全員に発信機や尾行などを付ければすぐに潜入者が誰かははっきりする。

つまり、男にとって目の前の刑事の理性と正気はもはや用済みだ。好きなだけ弄んで壊しても問題は無い。手加減無しで嬲って服従を誓わせ、従順な奴隷にしても良い。
潜入者の有無をはっきりさせるという目標を達成した冷酷な男は一層笑みを黒く濃くし、命を握った刑事を眺めながら左手を背後に回し、刑事に見えないように隠していた桶の中身である薄桃色の液体を何の躊躇いも無く刑事を入れた浴槽に流し込んだ。

「っ!? な、にを…ぶぐぅぅぅ!?」

液体の正体を尋ねた刑事は、尋ね切る前に再び縄を引かれ、顔を水中へと引きずり込まれた。
呼吸を制限され、正体不明の液体が溶け込みゆく湯に全身を浸され、焦りと怯えから暴れに暴れる刑事の男に、冷酷な男は聞こえない事を承知の上で小さく呟いた。

「強力な媚薬だよ、刑事さん。ここからは全身の発情と息苦しさを同時に味わわせてあげるから、思う存分愉しんでね」
「がぼっ…ごぶっ、ぶぉぉっ…!」

数十分後の自分が限界まで張り詰めた男根から浴槽内にだらしなく白の体液を撒き散らし、尻穴を小刻みにヒクつかせ、敵の男に情けない蕩け顔を見せ付けながら理性と正気を跡形も無く壊されていくとも知らず、刑事の男は未だに希望を信じて縄を打たれた裸体を一生懸命に動かしていた。
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