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第三章  導く者選ばれし者

四話  石碑の呪文

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 マリクは二人の姿を見るとすぐさま駆け足で彼らの後を追った。
「あの・・・すみません。」
ムサイは息を荒くした男に警戒をした。
「なんでございましょう。」
「私はマリクと申します。失礼ですがそちらの方はマーヤさんですか?」
マーヤとムサイはマリクという名前に反応して目を見合わせた。
「あなたマリクさんと言いましたか?」
「はい。」
「おーなんという幸運だ。私たちはあなたに会うために遥か北の大地からやってきました。」
「えっ!?」
「失礼しました。私はムサイと申します。こちらは孫娘のマーヤです。」
マリクは二人の反応に戸惑ったが夢が現実を写していたことを確信した。
「マリクさんはなぜマーヤの名前ご存知なのですか?」
「なんと言って良いやら。信じてはもらえないかもしれませんが、お二人の事を夢で何度も見ました。
その時にマーヤさんの名前が頭に浮かんできたのです。」
「そんな事が現実にあるなんて。」
「私もお二人がなぜ私の名前を知っているのか。ここではなんですので場所を変えてお話しを伺いたいです。」
マリクは二人を宿へ連れて行き部屋を確保した後で近くの飲食店へ向かった。
それから三人はお互いの事情を詳しく話し合った。
「マーヤさんが生まれた年に村の最長老様にお告げがあって、約束の歳になったので使命を受けて私に会いにエレムまでやってきた訳ですね。」
「そうです。」
「何かを知るためとか何かを伝えるとか、具体的な目的は聞かされていないのですか?」
「聞いておりません。ただあなたに会いに行けと。」
「そうですか・・・。お二人に一度見ていただきたい物があります。」
宿に戻りマリクは二人に発掘した長方形の箱を見せた。
「これは何でありますか?」
「私にもわかりません。最近発掘された物です。これの発掘を始めた頃からあなた達の姿を何度も夢で見るようになったのです。」
「いったい何でありましょうかの。」
何も手かがりを掴めないままいたずらに時間が過ぎた。
マリクはいくつかの夢を見るようになってから記録していたノートをまとめた。
「これまでの事を考えると他に見た夢も何か関係がある可能性が高い。」
マリクは部屋に閉じこもったまましばらく出てこなかった。
マーヤとムサイは長旅の疲れを癒しながら気長に待つことにした。
 二人の元にサリーがやってきた。
サリーはマーヤとムサイを見て不思議な気持ちでいた。
食事の席でサリーが二人に質問した。
「大魔道士の村に魔法は存在するのかしら?」
「これといった魔法は存在しません。」
「それではどうして二千七百年も大魔道士の村として存続してきているのかしらね。」
「私たちは開祖様が建てた石碑の呪文を守るために代々存続し続けています。」
石碑には次のようなら文字が刻まれていた。

 我らが子孫たちに永く伝え続けてほしい呪文をここに記す。
「 HANABIDAISUKI 」
この大地に白き光が現れる時、神器の眠りを呼び覚まし呪文を唱える。
どうか皆の健康と幸せを祈る。

「その他の呪文や言い伝えはないのかしら?」
「私の知る限りではありません。」
「唯一のお告げがマーヤをここに連れて行くことなのです。」
「マーヤさんが何か鍵を握っていそうね。」
「マーヤは先祖代々の歴史の中でも特別なのです。」
「特別?」
「マーヤは次期大魔道士の位になる予定なのですが、それまでの大魔道士で女性は一人もいませんでした。
今まで大魔道士の位についた者に女性が生まれたことがないのです。」
「そうなのですね。そんなことがあるのね。」
そこへマリクがやってきた。
マリクはノートを出して二人に話しを聞かせた。
「あくまで仮説でしかありませんが、私が見た夢が他にも現実に存在すると仮定するならば、他にも関係している人物や遺跡が存在すると考えます。」
「他にも関係している者がいる・・・。」
「これを見てください。」
「これは?」
「私がマーヤさんの夢を見始めた時から記録したノートです。マーヤさん以外でも二人の人物が記録されています。」
「一人は男性、もう一人は女性です。その他にも遺跡のような建造物、風景などがあります。
その中で頻度が高い順にまとめたのですが、そこに大河と黒い棒を背負った女性の姿がありました。
女性が身にまとっている服装は印象的で東のパオー国の民族衣装に似ていると思いました。
パオー国には大河があります。さらに戦争の光景が記録してあります。
パオー国は内乱が続いている。
もしかするとそこに何か手がかりがあるのではないかと考えました。」
「なるほど、そのような記録があるのですか。私たちの例もありますし、可能性は大いにありそうですね。
私たちはあなたに会うようにお告げをもらいました。
そのあなたが導き出した答えであれば私どもはついて行きます。」
マリクはムサイの言葉を聞いて行動に移す決断を下した。
「サリー、私たちはこれからパオー国へ向かう。子どもたちのことを頼む。」
「私たちもついていくわ。」
「パオーでは内乱が起きている。子どもたちを連れての旅は危険だ。わかってほしい。」
サリーは子どもたちを連れて故郷へ帰ることになった。
 マリクとムサイはパオー国へ向かう道のりを話し合った。
「ここから北上するルートは危険が多いかと思います。道のりは大変になりますが、ここから東に直線的に砂漠を越えるのはいかがでしょうか。こちらのルートなら盗賊から狙われる心配も少ないと思います。」
「マリクさん安心してください。私たちが通ってきたルートは安全です。途中までは我々が来たルートで行きましょう。」
マリクはムサイの意見を尊重した。
こうして三人はパオー国を目指すため移動を始めた。

 それから時は経ち、マリクたち一行はパオー国の領有内まで足を運んだ。
「ムサイさん、あなた達はこれまでどのような旅をされてきたのですか?」
「ただひたすら牛車に乗ってきただけです。」
「とてもそれだけとは思えません・・・。」
マリクは道中の先々でマーヤとムサイが町の人々から歓迎される姿を見てきた。
「ただの旅人が救世主とか水の守り神などと言われることなんてないですよ。
やはり魔法を使えるのではないですか?」
「魔法はつかえませんよ。ほほっ。」
マーヤはニコニコしながら二人の会話を聞いていた。
マリクは納得いかない様子だった。
なぜなら荷車がいつの間にか四台に増えていたからだ。
「どう考えたっておかしい・・・。」




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