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第四章  トタスドームの話

二話  パープルデビル

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 ルーカス・チャールズ・トーマスの三人は休日にトタスパークへ出かけた。
トタスパークは夢のレジャー・アウトドア・スポーツ・体験教育を取り入れた一大施設だった。
パーク内には多くのホテルが併設されていて、その全てのホテルが無料で利用できる。
また施設内の至る所で寝泊まりが可能で食事もできた。
「ここはいつ来ても良いな。」
「今日はどこを回ろうか?」
「そうだな。今日は水上アトラクションへ行くか。
地味だが昔の地球の暮らしが体験できるコースに行ってみたい。」
 彼らは水上アトラクションが体験できるブースに入り乗り物に乗った。
そこでルーカスはある映像に意識が奪われた。
それは小舟に乗って沖に出ている漁師が網を投げて魚を取る為の仕掛けを行なっている作業シーンであった。
「この時代の人はああやって魚をとって暮らしていたのだな。
網を上手いこと広げて投げている・・・。はっ!」
「ルーカスどうした?」
「チャールズ、透明化フィルムを暗幕にして上から壮大に包みこむことはできると思うか?」
「う~ん、どうだろうか。レイボーファクトリーの設備があればできないこともないと思うけど。」
「やってみようぜ。」
「今のところ他に良いアイデアもないし試しに作ってみるか。」
 水上アトラクションを終えた三人はルーカスの要望により「完全なる助手」に関する資料館に向かった。
「ほんとお前は完全なる助手の事が好きだよな。」
「そのきっかけを作ったのがここだ。」
そこは「完全なる助手」が誕生するまでのニューローカーズたちのエピソードや万能機械の優れた機能などを紹介するところだった。
「完全なる助手の魅力的なところは、それ自体も探査機となりつつ採掘した資源でなんでも造れてしまうところだな。」
「そうだよな。移動した先で宇宙ステーションだって造れるから人間の移動もしやすくなるし、エネルギー供給もできるからすごいよな。」
 三人はその日パーク内でテントを張り一泊した。
巨大ハンモックに揺られながら三人はドーム天井に映る星々を眺めていた。
「こうして天井を見ているとここを創ったニューローカーズの人たちの凄さを感じる。」
「人類の歴史を知れば知るほど、今の生活が快適なのだと思う。」
「俺たちは生活に不自由することがないからな。」
「地球でも生活に不自由はないものの、俺たちとは違う生活を送っている人たちがいることを考えると不思議な気持ちになる。」
「ニューローカーズが歴史の大きな壁を突破させたことが、今の俺たちに優雅な生活をもたらしてくれていると思うとほんと感謝だよ。」
「その子孫の親父さんは今火星にいるのだろ?」
「あぁ火星で完全なる助手の新たな開発に携わっている。」
「今や火星にもドームを造っていて、さらに太陽系外の惑星へ足を踏み入れようとしているからな。
人間の可能性ってすごい。あっ、この話しをするとルーカスがまた燃え上がっちまう。」
「宇宙の彼方はいったいどうなっているのだ!」
 翌日ルーカスはオリビアとトタスパークで合流して、パーク内のスポーツトレーニングセンターにいた。
「オリビア、今日は何をするつもりなんだ?」
「私はテニスのビジターコースかな。」
「最近テニスやる機会増えたんじゃないか。」
「そうね。やってみると楽しいの。ルーカスは?」
「俺はクォーターマラソンのワールドクラスをやる。」
「相変わらずがんばるわね。」
「フェスティバルの衣装を新調したいからポイントを貯めたい。ついでに課題もクリアできるし、健康にも良いし、飯もうまくなるし良いことだらけだ。」
「お互い頑張りましょう。」

 トタスドームでは想像・価値観(目標)と実務能力(目標達成能力)のバランスという概念がポイントとして通貨の価値の代わりを担っていた。
一般的に必要な生活必需品は提供される。
娯楽や贅沢品などはこのポイントを貯めて対価交換する。
ある程度の物であれば定期ポイントで賄えるが、高価な物はトタス公認の地域貢献などを行うことでポイントが得られる。
また教育で得られるポイントも存在した。
年代別でそれぞれ定期教育のプログラムがあり、任意でおこなっており参加して実績を積むと定期ポイントを増やすことができた。
ルーカスたちがいるスポーツトレーニングセンターもその対象となる施設で、バーチャル空間で様々なスポーツを初心者からプロフェッショナルまで体験できる。
段階ごとにステージが異なりルーカスのようにワールドクラスで好成績をおさめると臨時ボーナスが貰える。

また、この時代は仕事と娯楽が合体したようなライフスタイルが一般的で、「完全なる助手」が創られたことによって今までできなかったことが実現可能となった。
そのおかげで太陽系を中心に人類の活動領域は加速度的に膨張していた。
それは宇宙大開拓時代と呼ばれるほどだった。
一般の人は主に系外を基点とした活動が許されていた。
無限エネルギーとエネルギー供給を可能とするネットワーク、小さなチップを光速に近い速度で系外へ飛ばして現地で組み立てる技術を使って、リアルアバターを作り様々な活動を人々は仕事として成り立たせることができた。
地球・月・火星・人工衛星のどこにいても指輪の形をした3Dプリンタのような装置で現地と同機できる。
万能機械のアシストによって思いつく限りの開発を自由に展開できた。
新しい発見があると即座に全領域に情報はアップデートされ、常に最新の情報を共有しながら宇宙の活動領域を拡大させていた。
ハピダブルゾーンに位置する惑星群やブラックホール付近、新しい鉱物の研究などは特に人気を集めるスポットであった。

 トレーニングを終えた二人は昼食をとった後にアジトへ向かった。
「ルーカス来たか、こっち来てくれ。」
「どうした?」
「透明化フィルムで会場を覆い被せるシュミレーションをやってみたんだ。」
「どうだった?」
「なかなか良い感じになりそうだ!」
「それはすごい!チャールズやっぱりお前は天才だ。
よーしこれでフロート車による七変化パレードとマイクロドローンによる打上げ花火を演出できる。」
 今年の中央フェスティバルはパレードが項目にあった。
演者が集まる会場から本会場までパレード行進を行う予定となっている。
コースはL字になっていてスタート地点から北に進み、コーナーを東に進むと本会場となる。
パレードの主役はマーチングバンドとフロート車である。
パレードの見せ場となるコーナー付近には観客スタンドが多く設置されて大勢の観客が集まる。
本会場に到着すると巨大なステージが設置されており、そこで演者たちは各々出しものをおこなう。
 フェスティバル一週間前。
この時期になると現地の設営がどんどんと進められていく。
現地で練習を行う者たちの姿があちこちで見られた。
ルーカスはパレードコースの確認の為現地に足を運んでいた。
そこでルーカスは弟分のステファンと遭遇する。
「よぉステファン元気か?」
「ルーカス!上々だ。ルーカス聞いたよ。今年は参加するみたいだね。」
「そうさ。みんなをあっと言わせてみせる。」
「楽しみだ。俺たちもルーカスの兄貴に負けないパフォーマンス仕込んでいるからな。楽しみにしてなよ。」
「そうか。面白くなってきたな。
ところであそこでマーチングの練習をしている彼女たちを知っているか?」
「パープルデビルだ。」
「パープルデビル?」
「派手な振付けをしながら演奏をするバンドで、笑顔を見せながら平気で高度な演出をすることから俺たちの間でそう呼ばれている。
彼女たちは五百年以上前に存在していた人気マーチングバンドの再現をするために必死で練習をしている。俺たちのライバルだ。」
「そうなのか。初々しくて良い眺めだ。」

ルーカスはフェスティバル開催を待ち望んだ。



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