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第四章  トタスドームの話

四話  完全なる助手

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 フェスティバルが終わって二日が過ぎた。
ルーカスは愛用している戦闘機に透明化フィルムのコーティングをチャールズに依頼していた。
「チャールズ頼む。力を貸してくれ。」
「まったく人使いの荒いやつだ。」
「完全なる助手をこの目に焼き付けたいのだ。」
「フェスティバルが終わってゆっくりしたい時に忙しい人だ。」
「頼むチャールズ。」
「今はのんびりしたいからやる気にならない。」
「お前にしかお願いできない事なんだ。チャールズ頼む。」
「まったくお前の完全なる助手に対する思いに負けたよ。」
「やってくれるのか?」
「今回だけだぞ。」
「チャールズ、ありがとう。できれば数点改良してほしいところがある。」
「オーシット。」

 それから二週間が過ぎた。
ルーカスはオリビアとドライブをしていた。
この頃になると話題は「完全なる助手」の話しでもちきりだった。
「オリビア、もうすぐ月に来る完全なる助手はこれから新惑星に行くのだ。俺たちはそんな時代に生まれたのだ。これは凄い事だと思わないか?」
「そーね。どんな星に行くのかしら?」
「ハピダブル・ゾーンに位置する惑星で液体の水が存在しているそうで、今の技術があれば人類が住むことが可能なんだ。」
「そうなって行けるなら行ってみたい気もするわね。」
「オリビアいつか一緒に行こう。」
オリビアは目を輝かせるルーカスを見て笑顔でうなずいた。

 「完全なる助手」が月に到着するまであと二日。
というニュースを見てルーカスは衝撃を受けた。
それは動作テストの為に五年前に回遊へ出発した「完全なる助手」が、できた当初の大きさより百倍以上に巨大化していたからだ。
「なんだこれは・・・。出発した時は直径五百メートルくらいだったのに、めちゃくちゃでかくなっている。」
ルーカスは「完全なる助手」の凄さを知るとともにその姿に不気味さを感じた。
製作者たちの反応は回遊の成果に大喜びしていた。
予測通りの結果に系外の新惑星都市計画の実現も近いことを確信できたからだった。

 「完全なる助手」は資源の採掘のために造られた。
人工知能によって自己の判断で採掘を行えるようにプログラムミングされている。
また自己防衛機能を備えており、障害物となる小隕石などを感知して破壊することもできる。
さらに採掘した資源を機体に取り込み、内部・外部で加工することが可能で武器や機械を生産することもできた。
採取する対象は作物を育てるための水や土といったものまで含まれていた。
太陽系の外へ進出しようと試みる人類は長期に備えた恒久的な移動基地を製造できる存在を造ったのであった。
 「完全なる助手」が月周辺に到着した。
月面に着陸することはなく月周辺を漂っていた。
その間に機体の点検が行われた。

 その頃、ルーカスは戦闘機の仕上げに追われていた。
「なんとか準備は整った。あとは出発に合わせて出るだけだ。」
「ルーカスはどこまで見に行くつもりだよ?」
「目の前まで行く。」
「気をつけて行けよ。」
「あぁ。」
 点検を終えた「完全なる助手」は地球周回軌道まで進んだ。
そして機体を分裂させて変形して超高速移動の準備に入った。
ルーカスは透明化フィルムでコーティングされた戦闘機を透明化して「完全なる助手」を追った。
そこでルーカスは「完全なる助手」を見た。
「人類の英知によって造られた最高傑作がこれから新惑星へ向かう。」
その姿を見たルーカスは高揚した。
「早く新惑星に到達して、俺たちにその成果を見せてくれ。」
「完全なる助手」が火星へ向けて速度を全開にした。
それに合わせて月面に備え付けられたレーザー出力装置からレーザーが放たれて推進力を増加させる。
並走するルーカスは願いを込めて「完全なる助手」の出発を見送ろうとした。
その時、ルーカスが乗る戦闘機のレーダーに反応が起きた。
「完全なる助手」の前に突如小隕石が現れた。
その瞬間に小隕石は攻撃対象となり「完全なる助手」に破壊された。
その影響によって、機体と隕石の間に極小の渦みたいなものが発生した。
その直後、ルーカスと「完全なる助手」はその渦に吸い込まれるように姿を消した。
それはまさに一瞬の出来事であった。

 ルーカスが目を覚ますと視界は明るかった。
「何が起こったというのだ。」
外の異変にすぐに気づいた。
「ここは?地球?」
地図座標を見るが一致しなかった。
「地球じゃない?・・・いや、この地図は昔の地球だ!えっ!?どうなっている・・・。
時間軸はいつになっている。」
ルーカスは着いた先を知って愕然とした。
「千八百六十五年!?」
ルーカスはしばらくの間言葉を失った。
通信は当然途絶えている。
レーダーには「完全なる助手」の姿が確認できた。
「これは洒落にならん・・・。」
ルーカスは背筋が凍る思いをした。
「俺と完全なる助手はタイムスリップした。」
「完全なる助手」に意識が向く。
ルーカスはこの時代に現れた「完全なる助手」がどんな動きをするのか想像した。
彼は体から熱が引いていくのを感じながら危機感に駆られた。
「あれがこの世界で存在したらどんな動きをする・・・。
管制塔からの信号は当然届かない。
プログラミングされていることの優先順位を自己で判断するようになる・・・。
あれの最大の目的は資源の採掘・・・。自己防衛機能が付いている・・・。すでにあの大きさ。
ちょっと待ってくれ、本当にヤバいことになっていることに気づいているの俺だけだよな。
いったいどうすればいいのだ!」
ルーカスはパニックに陥った。
絶望の淵に落ちたルーカスは思考停止した。
しばらく呆然と操縦席に座っていると、レーダーに二つの強いエネルギー反応が映った。
「なんだろう。ここから比較的近いぞ。」
一人ではどうすることもできないルーカスは藁にもすがる思いで、そのエネルギー反応がある所へと向かうことにした。
 「完全なる助手」とともに過去に辿り着いてしまったルーカスはこの後波乱の展開をむえることとなる。
「帰りてぇー。」
彼が乗る戦闘機は太陽の光を受けて白く輝きながらエネルギー反応がある彼方へと進み出した。




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