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第五章  明日への旅立ち

四話  ムサイの奥義

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 導く者選ばれし者たちが集結を果たして、完全なる助手を未来に帰すべく実行に移ろうとしている頃、完全なる助手は砂漠地帯に移り形を変えて機体を着陸させていた。
そして地下資源の採掘を始めており、地下深く穴を掘り進めていた。
大規模な採掘の影響で周辺では地震がおきるようになった。

 八人は戦闘機内で完全なる助手について話し合っていた。
そこでマーヤが素朴な質問をした。
「完全なる助手がどうして大いなる災いをもたらす存在なの?
私はてっきり怪物みたいなのが現れて、人々を苦しめると思っていたの。
でも人に危害を加えないでしょ?
そんなに怖い存在に思えないように感じる。」
ルーカスが操縦をしながら答えた。
「あの機体はできた当初は直径五百メートル程度の大きさしかなかった。
それがたった五年で百倍以上に巨大化してしまった。
あれはあらゆる資源を採掘してしまう。
それだけじゃなく高い知能も備わっている。
人間が作り出したものであればほとんどのものが作れる。
その機能は機体が大きくなればやれる事も多くなる。
今の大きさで作業をすれば五年で百倍どころじゃなくなる可能性が非常に高い。」
「早く手を打たないと地球が完全なる助手にのみ込まれてしまうという訳か。」
「この時代にいる人間はこれからさらに科学技術を進歩させていくが、あの機体には遠く及ばない。
厚く覆われた機体の中に入ることすらできない。」
「私たちはこれからどうやって、あの物体の中に入るの?」
「そこなんですが、マリクさんの話しを先ほど伺って考えついたのが、神器を使って完全なる助手の中から敵となるロボットをおびき出します。
その隙を狙って侵入を試みるのが最善と思います。」
「今のところそれしかないか。」
「では私とミットフォード、清平とで敵をおびき出す役割をするという事でいいのか?」
「そうなのですが、中に入っても障害となる敵はおりますので神器がないと厳しいです。
特に太貫槍が必要になります。そこで申し上げにくいのですが、マリクさんに外に居てもらい神器をお渡しします。
敵が出てきたところで私たちがその隙に内部に潜入します。
その後でマリクさんは亜空間水晶を使い、神器をこちらに送り届けて欲しいのです。」
「なるほど、わかりました。その役目私がやりましょう。」
「ですが、おそらくは神器が消えても出てきたロボットたちは亜空間水晶を狙いに来る事が予想されます。
マリクさん一人では危険が伴います。」
「ではもう一人は私が残りましょう。」
「ムサイさんがいれば私も安心です。」
「そうですか。それではムサイさんにお願いします。
問題は侵入の際に完全なる助手のセンサーにかからずに通過することができるかです。
我々が用意したセンサーにかからない特殊素材があれば可能でしたがそれらはありません。」
「千代、それなら安心してくれ。この機体は透明化フィルムがコーティングされていてセンサーに反応しない。この戦闘機なら行ける。」
「それは本当ですか?ルーカスさんの時代にはまだ存在していないと認識しておりましたが・・・。」
「俺の相棒が作った最新技術だ。まだ世の中には公表していないけどな。」
「その方の名前は?」
「チャールズ。」
「チャールズ・・・。そうですか。これで侵入することができます。」
「完全なる助手の内部はどうなっているのかわかっているのか?」
「おおよその設計はわかります。」
「これは昔のゲームやアニメにあるダンジョン攻略みたいだな。」
「なんかよくわからないが面白くなってきた。」
「清平、こーゆーのは楽しまなきゃな。」
「油断すると普通に死にますから気をつけてください。」

 八人は作戦を実行すべく完全なる助手の元へ駒を進める。
完全なる助手は着陸後ピラミッド型に形を変えていた。
「あれ?以前と形が変わっている!?」
「形は問題ではありません。参りましょう。」
八人が乗る戦闘機は完全なる助手から一定の距離を置いてマリク、ムサイを降ろす場所を探した。
神器は光の弓を使うこととなった。
「ミットフォードちょっといいか。」
「はい。」
「黒士念棒を使いたいのだがもらえるか?」
「もちろんです。」
「ありがとう。」
二人は黒士念棒の受け渡しの際に手が触れ合った。
その間は一瞬であったが、お互いに目を見つめ合った。
二人にはなぜだかその瞬間が長く感じられた。
「綺麗な目だ。」
凛とした姿を見せるミットフォードにアリシャは珍しく表情を和らげた。
「武運を祈ります。」
「私もだ。」
マーヤはムサイ、マリクの元にいた。
「じぃじ気をつけてね。マリクさんも。」
「本当に危険なのはマーヤの方じゃて。わしらはなんも心配いらんよ。」
「そうですね。一度相手を見てますからムサイさんがいれば大丈夫です。
それにこのスーツは優れモノです。」
「マリクさん神器を送ったら亜空間水晶を私に預けてくだされ。」
「わかりました。」
二人が降りると戦闘機は再び離陸した。
マリクが着るスーツでルーカスとコンタクトをとる。
ルーカスは上空を旋回しながら機会をうかがう。
マリクが光の弓を構える。
光を放つ矢に反応した完全なる助手が動きを見せる。
「ゲートが開いたぞ。」
中から出てきた機体を見てルーカスの頬に冷や汗が伝う。
待ち受けるマリクは姿を現した機体を見て愕然とした。
「あれと戦うのか!?」
出てきたのは以前見たものとは比べものにならないほど大きい人型兵器だった。
いかつい見た目でいかにも破壊力あります。っといった圧倒的迫力を見せるその機体が、ゲートから一飛びでマリクたちの前に降り立った。
着地の衝撃だけで吹き飛ばされそうになるマリクにムサイは言った。
「早く神器を送ってくだされ。」
「はい。」
急いで神器を送り、臨戦態勢をとった。
マリクは出てきた巨体な人型兵器を見て「ゴライアス」と名付けた。
相対するムサイはすでに変身していた。
どんな攻撃をしてもびくともしなさそうほど、迫力のある人型兵器を前にしてムサイが先に仕掛けた。
ムサイ式呼吸という、ただの深呼吸をしたムサイはおもいっきり拳を硬く握りしめた。
その腕から空気のゆがみが起きているような錯覚をマリクは見た。
次の瞬間、ムサイの拳がゴライアスの顔面にめり込む。
ゴライアスはふらふらとピヨっているようだったが、ゆっくりと顔面が元の形へ戻った。
首を回すゴライアス。
「効いていないのか?」
ゴライアスが一歩足を踏み出すと急に膝が落ちた。
「効いているのか!?」
ゴライアスの膝が地面につく間際に前傾姿勢となり、勢いをつけてムサイに突進してボディブローを入れた。
ドゴッッ!!
ムサイは大きく後ろへ飛ばされた。
マリクには打撃の音だけで攻撃の威力の凄まじさと対象物の強度が感じ取れた。
四股を踏んだような態勢でいるムサイの黒目がなくなっていた。
彼は鼻血を左手親指でぬぐい、元の位置まで間合いを詰め寄る。
本気で固めたムサイの腹筋は並ではなかった。
ムサイの奥義がゴライアスを強襲する。
「剛力変形短距離首折り弾」
ムサイは体を大きく前傾させ、重力を利用して素早く動く。
動き出す起こりの気配を極小にしたムサイは瞬時にゴライアスの懐に入った。
ゴライアスの膝に蹴り技を入れて態勢を崩し、自身の回転で勢いをつけてラリアットをかます。
ムサイの剛腕が振りぬかれた。
激しい音ともにゴライアスの首が宙に飛んだ。
「おぉーやったー!」
首を撥ねられたゴライアスはムサイに抱きつき自爆した。
激しい爆風の衝撃で大きく飛ばされたムサイは身体が元に戻り意識を失った。
砂埃の中から這い出たマリクはムサイのところへ走る。
完全なる助手の方を見ると新手が出撃していた。
マリクはすぐさまルーカスに通信を送った。
「こちらはマリク、ムサイさんが負傷した。新手が出てきたのでこちらは戦線離脱する。」
そういうとマリクはムサイを抱えて全速力でその場を立ち去った。

 その間に内部へ侵入することに成功した千代たちは戦闘機で行ける所まで奥深くへ進んでいた。
「中は広いのだな。」
「アリシャさんあれを見て。」
「あれは私たちの前に現れた奴だ。」
そこは製造工場であった。
彼らは工場奥へ繋がる通路をさらに進んでいく。
段々と通路が狭くなっていくとゲートが見えてきた。
ゲートを開くにはIDとパスワードが必要で、ここを通過するにはゲートを破壊する必要があった。
「ここから完全なる助手の中心部へ向かいます。長時間に渡る戦いが予想されます。
皆さん覚悟を決めてください。」
「ルーカス何か食べ物ないか?」
「シリアル食ならあるぞ。」
「食べ物であればなんでもいいからいただくよ。」
「腹が減ってはって奴か。」
「なんだこの食感は。噛むとほんのり甘くてうまいな。」
「それは良かったな。俺たちはそのまま食べないけどな。」
「さぁ降りましょう。」
 戦闘機を降りた一行はゲートの前に集まった。
「それにしても通路が狭くなったとは言え、降りてみるとめちゃくちゃデカいゲートだな。
どうやって破壊するのだ?」
「ルーカスの戦闘機で攻撃はできないのか?」
「できる装備はあるが弾がない。」
「意味ないな。」
「必要としない時にタイムスリップしたからな。」
そこへアリシャが光の弓を構えた。
「アリシャさんちょっと待ってください。」
千代が呼びとめると光の弓を触り始めた。
すると光の弓に書かれていた文字が消えて光を強めた。
千代は大地の剣にも同じ事をした。
「千代さん何をしたのですか?」
「省エネモードになっていたものを元の状態に戻しました。」
「それって封印の解除のことですか?」
「そうとも言えなくもないですが、マーヤさんの村に伝わる封印の解除とは違います。」
アリシャが再び光の弓を構えた。
光の矢は以前より太くよりくっきりと見えた。
アリシャが矢を放つとゲートに大きな穴をあけた。
「なんて威力だ。」
六人は穴のあいたゲートをくぐり先に進む。
皆がゲートを通過して迷路のような通路を千代の案内に従って進んでいく。
通路は取っ手やレール、繋ぎ目などなく床も壁も真っ平で、白く光る間接照明が明るかった。
通路を進んでいくと進行方向のゲートが閉ざされるのが見えた。
六人は閉ざされていくゲートへ滑り込むように通過した。
その先で突然床が抜け落ちた。
アリシャ、千代、ルーカスはすぐさま反応して飛んだ。
ミットフォードは反応できなかったマーヤを抱えて飛んだ。
清平は反応して飛んだが、太貫槍が重たくて先まで届かなかった。
「どわぁ~~!!」
アリシャの黒士念棒が伸びる。
「すまないアリシャ。」
「気にするな。」
完全なる助手はゲートが破壊されて侵入者を敵と認識した。
機体内の構造が変化をおこし侵入者の妨害を始めた。
通路を埋め尽くさんとする人型兵器が続々と現れた。
現れた人型兵器をアリシャが光の矢で一蹴した。
この時、ルーカスの元へマリクから通信が入った。
「なにっ!?ムサイさんがやられた!?」
マーヤは敏感に反応した。
「じぃじどうしたの?」
「戦闘で気を失ったそうだ。相手は倒したが新手が出てきてマリクはムサイさん抱えて逃げるそうだ。」
マーヤはムサイの心配をした。
千代がマーヤに声をかける。
「マーヤさん、完全なる助手を制御できれば機械は止められます。
今はマリクさんを信じて先を急ぎましょう。」
マーヤは自分がしっかりしないとムサイが助からないと思い奮起した。

六人は通路を先へ進んでいく。







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