【完結】一夜限りと思ったワンコ系男子との正しい恋愛の始め方

櫻屋かんな

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その7. 昔の男

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 ねぇ、美晴。

  真夜中の、名取の部屋を思い出す。間接照明だけがついたお洒落でスタイリッシュな部屋の中。床に転がる、酒の空き缶。脱ぎ散らかされた洋服。裸の自分。洋服を着たままの名取が、ソファーに座ってにこやかに微笑んでいる。

 美晴は俺を使って気持ちよくなりたいんだよね。

 当たり前のようにそう言う男の顔に、ただ見とれていた。新規プロジェクトのメンバーとして引き抜かれ、がむしゃらに働いた一年間、恋人と会えるのも月に一回がやっとだった。精悍で美しい顔。彼の家で、彼とふたりきりになることだけが美晴の癒やしとなっていた。

 それなら先ず、俺を気持ちよくさせなくちゃね。出来るかい?

『ええ、聡史あきふみさん』

 酒に酔い、男の色気に酔った美晴が、彼の期待に応えようとにじり寄る。スラックスに手をかけ、ベルトを外し、ボタンを外し、ジッパーを下ろす。

 どうやれば彼を気持ちよくさせ、彼を昂ぶらせることができるのか。些細な反応、小さな吐息、全神経を集中させ、いつも彼を喜ばせることだけを考えていた。それが結果として美晴の幸せにつながるのだと言われるのなら、そうだと思った。自分の行為で名取の情欲にスイッチが入るのが嬉しかった。そうして彼に抱かれると、自分が必要とされているのが実感できて安心した。名取に求められたいと思った。それはすべて、

 俺を使って気持ちよくなりたいからだよね。

『そんな……』

 仕事のストレス発散になったかい? お役に立てたなら、嬉しいよ。

『違うっ。私は』

 セフレだろう? 月に一度泊まりに来て、酒を飲んで、お互いに愉しんでセックスをして。

『私は聡史さんのことを』

 セフレでいいなら、続けてあげるよ。後はどうしたいか、美晴が考えて――。

 ガタン。

 椅子の引く音が聞こえて、美晴ははっとした。一気に、社員食堂の喧騒が耳に入ってくる。

 やはり元彼となんて、偶然会うものでは無い。こうして過去のことを思い出してしまうし、後輩にも気遣われてしまう羽目になる。

 ようやくお昼ごはんのことを思い出し、レジ袋からおにぎりと惣菜を取り出した。コンビニのおにぎりと比べると、確実に1.5倍はあると思われる質量。具が昆布であることを示すように、三角形の頂点にちょこんと昆布が乗っている。惣菜は、もやしとピーマンの和え物と、さばの竜田揚げの二品を買った。おにぎりを入れても品数としては三つと少ないが、これだけで十分にお腹いっぱいになるくらいの量だ。

「いただきます」

 気持ちを切り替えるように、あえて声に出して言うと食べ始めた。



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