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【1話目】

え? うわっ!

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 心配してもらえてうれしいのと、ムッとしてひどい事を言おうとしていた事は、また別だ。
 『ごめんなさい』と『ありがとう』をごっちゃにしてはいけないことくらい、廉太郎だって知っている。
 『ごめんなさい』は『ごめんなさい』で、『ありがとう』は『ありがとう』だ。
 ちゃんと別々に伝えなければズルになる。

 けれど、藤堂の考え方は、廉太郎とは違っているらしい。

「なんや。おっちゃんに心配してもろてうれしないんか」

「うれしいけど!」

「ほなら、『ありがとう』でええて。そこの鏡見てみ。他のことに気ィ取られてあわてとったせいか、いらんもんぎょうさん引っ付けて帰って来とるわ」

「え? うわっ!」

 クツ箱の横。
 ひょこひょこと集会室から出てきた藤堂に、みんなが出かける前に身だしなみをチェックできるよう置かれている姿見すがたみの前へと押し出された廉太郎は、そこに映る自分の姿を見て、思わず悲鳴ひめいをあげる。

 鏡に映っていたのが、廉太郎ではなく、真っ黒なモヤにおおわれた人影のようなモノだったからだ。

 藤堂の姿はそのまま。
 部屋着にしている作務衣さむえを身につけた、優しい面立ちのひょろりと細い中年男がちゃんと鏡の中に立っている。
 だが、その藤堂に両肩を持たれて鏡の前に立っているのはーー輪郭りんかくもあやふやな、真っ黒で小さい人影だ。

ソレ・・のせいで素直になれんかっただけやろ。またまあ、ようさんくっつけてきてしもて」

「えー! なんでこんなモヤモヤいっぱいくっついてんの? オレ、みんな・・・に言われてから、変な場所には近寄ってないのにィ~!」
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