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【2話目】

廉太郎はもにょりと口を引き結ぶ

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 今朝、「今日、前からのお友だちが子犬を見にくるんだけど、みんなも来る?」とミサキちゃんに誘われた時。
 廉太郎はちょっとためらって、返事をしなかった。
 子犬は見たい。
 生まれて間もない子犬なんて、可愛いに決まってる。
 これが本当に仲のいい友だちからの誘いなら、廉太郎は喜んで飛びついただろう。
 いや、クラスメイトだけなら、ためらったりしなかった。
 でも、他のクラスの子も一緒だというのなら話は変わる。
 人見知りというほどでもないけれど、他のクラスの子ーーミサキちゃんの前からの友だちに邪魔に思われないか気になったからだ。

 向こうは知っているかもしれないが、廉太郎は、その子たちの顔さえ知らない。
 子犬を見たい気持ちと、知らない子たちへの遠慮えんりょ
 その中間でぐらぐらゆれていると、くるりと振り向いたミサキちゃんに「廉太郎くん、他に予定なんてないでしょ? 来るよね?」と、参加メンバーに組み込まれてしまった。
 どうやら、廉太郎がすぐに返事をしなかったせいで、ミサキちゃんは廉太郎を『仲間外れ』にしないよう、気にしてくれたようだった。

 子犬を見せてもらえるのは、素直にうれしい。
 舞い上がって、大事な『お約束』を忘れてしまうほどにも。
 けれど、と。
 廉太郎は胸の奥に刺さったーーミサキちゃんが突き刺した小さなトゲを持て余し、言葉に詰まる。

 オジサンは親戚で血が繋がっているから、『家族』と呼べる存在だろう。
 ならダイフクは?
 ダイフクは大妖精で、血が繋がっていないどころか種族も違うけれど。
 廉太郎にとっては『家族』も同然の存在だ。
 藤堂だって、共同住宅アパートの皆だって、廉太郎を孫か親戚の子供のように可愛がってくれている。
 血の繋がりはなくても、『家族』と呼んでいいならそう呼びたい人たちだ。
 考えれば考えるほど言葉が出てこなくて、廉太郎はもにょりと口を引き結ぶ。
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