上 下
3 / 60
第1章 ちびっこ怪獣三匹、異世界に降り立つ

1

しおりを挟む
 ふと気がつくと光太は、下を向いて落ちていた。
 上も下もわからないくらい、うんと高い場所から、どこまでもどこまでも。

 ごおごおと、耳元で風の鳴る音がする。
 風をはらんだ衣服がはためいて、背中側でバタバタ揺れている。

 だからたぶん、『落ちている』であっている。

 上も下もなにもない。
 右も左もなにもない。

 真っ青な空の真ん中でひとりきり。

 訳がわからず、頭の中が真っ白になる。
 さっきまで、光太は教室の中にいた。

 窓側の一番後ろの席でユーゴとケースケと寄り集まり、給食も食べ終わったし、運動場へ行こうかこのまま教室で遊んでいようか。
 そう相談していると、教卓の前あたりでなにかが光った気がした。

 ちょうど通りかかった金堂の足元。大きさにして、彼の足のサイズくらいの光。

 なんだろう。小首を傾げて光の方へと目をやったのは、三人同時。
 光太たちの視線に気がついた金堂もまた、自分の足元へと目をやって、それで。

 変な模様が光の周りに広がったと思ったら中心部分が渦を巻き、金堂がずるりと光の渦へと引き込まれたのだ。

 目の前でおこったことなのに、なにがおきているのか理解するまで、しばらくかかった。
 たぶん、教室にいた誰もがそうだったのだと思う。

 一瞬の、深い深い沈黙ちんもくの後。

 目の前の怪現象かいげんしょうを理解したのだろう。
 教室に残っていた何人かのクラスメイトたちは、全員が、悲鳴をあげて教室から逃げていった。

 ほんとうは、光太たちも逃げたかった。
 金堂が引きずり込まれる瞬間を見ていなかったら。
 助けを求めるように伸ばされた手が、光太たちの方を向いていなかったら。

 誰かのあげた悲鳴に驚いて、流されるまま教室から飛び出していたことだろう。

 けど、でも。
 金堂は、光太たちを見て、必死な顔をして手を伸ばしている。

 短い時間、三人で視線を交わし、頷きあって。
 あわてて金堂の手を掴んだけれど、渦が引っ張る力の方が強くて。
 教室の入り口から心配そうに様子を見ていた女の子たちがなにか言っているのも、自分たちの声にかき消されてちゃんと聞き取れなくて。

 だけど、金堂を見捨てるなんて選択肢はなくて。
 ただただ、必死になって踏ん張った。

 ズルズルとユーゴが引きずられだし、ケースケが全力をふりしぼってもダメで。
 このままじゃヤバいってときに、教室の入り口でなにか言っていた女の子ふたりが、先生たちを呼んできてくれた。

 大人が来たからもう大丈夫。
 --……だと、思ったのに。

 ユーゴの言うところの『魔方陣』とやらは、底意地が悪かった。

 それまでは金堂ひとりがぎりぎり入る大きさだったくせをして、いきなり教室全体に広がったかと思ったら、全員をのみ込んでしまったのだ。

 --……そう。その場にいた、全員を。

しおりを挟む

処理中です...